Avsnitt
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面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。
今回は、『Mine! 私たちを支配する「所有」のルール』について語りました。
久しぶりに「すごく熱中してすごくしっかり読んだ」という感じの本で、決して内容が難しいわけではないけれども、考えさせられることがめちゃくちゃたくさんある本でした。
雑な説明をすれば「所有ってなんなのか」ということを通じて、社会や人間を考えていこうみたいな話、というので終ってしまいます。ただ、本に書かれている事例の多くのことが「そういう風に考えたことなかった」というものが多く、知識というよりもたくさんの新しい視点を知ることが出来た、という感覚でした。
最近のブックカタリストはわりと昔に読んだ本を、脳内で整理できてるから語る、という漢字の内容が多かったんですが、今回は「めっちゃ面白かったから熱いうちに語りたい」というタイプのもの。
どっちがよりよい方向性なのかは簡単に答えは出ないんですが、まあそういうのを好きなように、楽しんで語れてる、という姿勢が一番重要なのかな、と思うので、そこらへんはこれからも「面白いと思った本」について語っていく、という姿勢で続けていきます。
以下、要約です。
* 本の紹介と著者について
* 紹介する本は「マイン - 私たちを支配する所有のルール」
* 2024年3月に早川書房から出版
* 著者はマイケル・ヘラー、所有権に関する世界的権威
* マイケル・ヘラーは不動産法を担当する大学教授
* 以前に「グリッドロック経済」という本も執筆している
* 所有権の概念とその重要性
* 所有権のルールは根拠をめぐるストーリーの戦い
* 所有権に関する様々な事例や理論が紹介される
* 具体的な事例と議論
* 飛行機のリクライニングシート問題
* リクライニングシートを倒す権利は誰にあるのか?
* 付属の権利:アームレストのボタンがリクライニングを許可するという考え方
* 占有の権利:もともとシートが直立していた空間はその人のものであるという考え方
* 早い者勝ち:シートを倒せなくするマシーンを早く設置した人が優先される
* 航空会社の責任:座席を二重販売しているとも言える
* アメリカの裁判の傍聴権
* 行列代行業者の存在
* 裕福な人が行列に並ばずに権利を購入する問題
* 早い者勝ちが資本主義によって歪められている例
* 大学のバスケットボールの試合のチケット取り
* チケットを取るために48時間キャンプを張って並ぶ
* 忍耐力競争としての行列
* 卒業後の寄付金制度によるチケット権利の獲得
* ディズニーのファストパス制度
* 待ち時間を減らすことで収益を増やす仕組み
* ファストパスからビップツアーへの進化
* 一般の人々が納得する仕組みの工夫
* 希少な資源をうまくコントロールすることでビジネスとして成功する
* 所有権の根拠となる6つの概念
* 早い者勝ち:先に取ったものがその人のもの
* 占有:自分がいた場所だから自分のもの
* 労働の報い:自分が働いて得たものは自分のもの
* 付属しているもの:自分の所有物に付随するものも自分のもの
* 自分の体:自分の体は自分のものだと言えるかどうか
* 家族のもの:家族のものは自分のものだと言えるかどうか
* 文化や社会的信頼の影響
* 所有権の概念は文化によって異なる
* 所有権争いがいかに大変かを示す事例
* スーパーでのカートの所有感覚の例
* カーネマンの実験:戦友効果が所有権の感覚を生む
* 現代社会における所有権の問題
* 著作権や特許の問題
* 権利の複雑化とその影響
* キング牧師の「I Have a Dream」演説の著作権問題
* 映画や音楽の権利が複雑化し、創造性を阻害している例
* 基礎研究の特許問題:複数の権利が絡み合い新しい薬の開発が進まない
* ファッション業界の例:著作権が存在しないが創造性が保たれている
* Linuxやオープンソースの成功例:著作権フリーで収益を上げる
* 結論
* 所有権のルールは絶対的なものではなく、常に変わり続ける
* 著者は所有権に関する問題を解決するためのヒントを提供
* ディズニーやオープンソースのような新しいビジネスモデルが示すように、所有権の問題には多様な解決策がある
今回出てきた本はこちらで紹介しています。
📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish
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今回は二人ともが読んだ『センスの哲学』について語ります。
書誌情報&概要
* 著者:千葉雅也
* 出版社:文藝春秋
* 出版日:2024/4/5
単純に言えば、同じ出版社から出ている『勉強の哲学』の後続、より大きな流れで言えば、『勉強の哲学』『現代思想入門』に続く、哲学三部作の三作目として位置づけられます。
私(倉下)とごりゅごさんは二人ともこの三冊を読み、それぞれにしっかり影響を受けております。
ちなみに、本編でカントの三批判書の話題に触れておりますが、『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』の三冊のことで、最後の「判断力」は、感性と悟性を媒介するものであり、本書が芸術と生活を(あるいはセンスとアンチセンスを)結びつけようとする試みと構造的類似性を感じたのでした。
詳しい話は本編をどうぞ。
意味とのどう付き合うか
個人的には、本書は「意味」を巡る冒険であり、その点が作品鑑賞および作品制作に大きな影響を与える内容になっていると感じます。
私たちは(あるいは私たちの認知機構は)「意味」をフィルターとして使います。意味があるものを受容し、意味がないものを排除する。そうでもないないと、この世界には”情報”のもとになるものが多過ぎて対応できません。私たちが、生物として生き残るために必要なものを見極める機能を持っているのは当然のことで、その機能を呼ぶときに「意味」という言葉が使わるわけです。
もちろん、私たち人類は文化的に複雑でややこしいことをやっているので、直接的に生存を左右しないものたちも生成し、そこに同じように「意味」を見出します。そこで価値判断を行っている。
それ自身は悪いことではありませんし、むしろ無ければ生そのものがなりたたないでしょう(ビュリダンのロバ)。「意味なんかないんだ」という逆貼りめいた発言もよく見かけますが、その文自体が一つの「意味」を有しており、また文全体で一つの価値判断を下していることを思えば、私たちが「意味」から逃れられないことがよくわかります。
そのような意味の捕らわれから逃れるために、禅の公案というものがあるのでしょう。言葉を通して思考すると、ぜったいに答えられないといをぶつけることで、自分がそうした「意味」に捕らわれていることを自覚させる。そういう効果があるように思います。
本書でも、「意味なんかなくていいんだ」という極端な主張はなされていません。そもそも、どういう並びであっても、読み手が「意味」を生成してしまうのですから、意味ゼロの状態は作り出せないわけです。一方で、自分が「意味」だと思っているものに必要以上に捕らわれる必要はないことも説かれています。
もっと自由に(つまり、自分が先入観として持っている「意味」に捕らわれることなく)並べていくことを、そしてそれはそれで「あり」と言えることを本書は教えてくれます。
意味と出会い直す
意味フィルターの問題は、それが私たちの認識の門番の役割を果たすことで、「意味がある」ものが認識され、「意味がないもの」は除外される点です。言うまでもなく、そこでの「意味がある」ものとは、真実に属するものではなく、その時点で自分が意味があると思っている(≒判断したもの)ものに過ぎません。つまり、別のものにも「意味がある」と思える可能性はあるわけです。
しかし、意味フィルターが強く働いていると、意味がないものは除外されてしまうわけで、そうなると「意味がない」と思っていたものに新しい意味があることを発見する機会が失われます。だから、意味から半分降りるのです。意味から半分を降りて、形そのものに注目する。全体ではなくディティールに着目する。
そのような見方は、意味フィルターをバイパスする形で対象と出会うことを可能にしてれます。そこから、新しい「意味」の認識が生まれる──可能性がある。私たちは、半分意味から降りることで、意味と出会い直す可能性がある。
そうした行為においては、常に新しい意味生成の準備が為されており、同時に少しメタな視点からの「意味とは何か?」という問いかけが行われています。そうした視点の持ち方は、観賞および制作において重要な役割を果たすことでしょう。
ということを長々と考えてしまうくらいにはグレートな本です。
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Saknas det avsnitt?
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今回は『人生が整うマウンティング大全』と『話が通じない相手と話をする方法――哲学者が教える不可能を可能にする対話術』を紹介しながら、コミュニケーションにおいて「話を聞く」ことの大切さを確認しました。
書誌情報などは、以下のメモページからリンクを辿ってご覧ください。
◇ブックカタリストBC090用メモ - 倉下忠憲の発想工房
相互ケアとしてのマウンティング受容
ある程度、社会的な素養(これが具体的に何を意味するのかはわかりませんが)を持っている人にしてみれば、マウンティングするのは基本的にダサい行いです。教養主義、あるいは啓蒙思想的な立場であれば、虚栄心にまみれた態度であり、ぜひとも修正しなければならない行いだとされるでしょう。
ようは、そんな風に人の上に立とうとする態度をやめて、お互いにフラットに話し合おうではないか。それがこうした考え方のベースになっているでしょうし、基本的には私もそう思います。
一方で、あまりにもその理念が強くなりすぎると、その「ゲーム」にうまく乗れない人を排斥することにもなりかねない危険性があります。それはそのまま、自分たちが気に入らない主義主張の人たちを「差別主義者」と切り捨てることが可能な”最強の道具”になってしまう可能性にもつながっていきます。
『人生が整うマウンティング大全』は、そうした理路とは違った違ったアプローチを持ちます。マウンティングしてしまうのは人間的に(あるいは動物的に)どうしようもないので、それを受け入れてお互いにマウンティングを受容しようではないか。これは人の「弱さ」を受け入れる態度であり、ケア的な行いだとも言えるでしょう。
その関係性では、単にフラットに横に並んでいるのではなく、あるときは上に立とうとするが、別のときでは下にいることを許容するという変化を持つ(平均としての)フラットさが醸成されるでしょう。
別段こうした話が本書で展開されているわけですが、「マウンティングはよくない」という態度自体が、一種のマウンティングになりかねない状態において、別の仕方でコミュニケートを考えるきっかけを与えてくれた一冊でした。
僕たちは「聞く訓練」をしていない
『話が通じない相手と話をする方法』では、めちゃくちゃ具体的なノウハウが難易度別に紹介されていて、本編ではそのごく一部、入門的内容を紹介しました。
で、「話がうまくなりたい」と思うなら、喋るテクニックよりも先にこの聞く技術・態度を身につけたほうがいいです。本当にそれくらい、私たちは聞く訓練をしてきていません。
たまたま相手が聞く訓練をしてきている人ならば、「会話」(conversation)は成り立ちますが、そうでないと一方通行の伝令が二人いるだけの状態になって、もはや会話とも呼べない何かになってしまいます。それくらい、私たちは相手の話を聞いていません。そのことは、カフェとかで繰り広げられる雑談を耳にすればよくわかります(あまり礼儀はよくありませんが)。
しかし逆に言うと、日常のやりとりは相手の言うことを真剣に聞いていなくても成立するものです。そこでは相手と場や空間を共有し、敵対的な意志を持っていないという最低限のことさえ表明すれば、あとは何を言ってもOKなのです。私たち人間はとてもファジーに意思疎通している。
だからこそ、きちんと聞くことができないのです。聞かなくても大丈夫だから、真剣に訓練されることがない。でもって、そうした日常的な「やりとり」が会話のすべてだと思ってしまう。
今この文章も、かなり伝令的になっているな〜という感じがふつふつと湧いてきました。そんな感じでついつい伝令的になってしまう(あるいはマウンティングしようとしてしまう)人間性を前提として受け入れて、じゃあどうしたらいいのかを考え、対策をとることが「人間的」な振るまいなのだろうなと思います。
一つの指摘
本編の中で、ごりゅごさんが「それって前回の話とつながりますよね。つまり何かを学ぶときの姿勢と同じ」という旨の指摘をしてくださりました。この指摘が非常に心に残って、今もまだそのことについて考えています。
何かを学習するときには、興味・好奇心を持つことがまず大切であり、人の話を真剣に聞く場合もそれが重要である。
これは会話というものが「お互いに学び合う場」(共同的な学習)であるとして捉えるならば必然的に生まれる共通性ではあるでしょう。
それを踏まえた上で、学習とは学習対象との「コミュニケーションである」という逆向きの方向からも話が組み立てられそうです。
そうすると、一見異なる二つの要素(学習とコミュニケーション)を下位項目に含む、一つ上の階層について考えられることができるかもしれません。実にワクワクしてきますね。
こんな感じで、私がごりゅごさんに本の内容を紹介しているのに、学んでいるのは(変化しているのは)私の考えの方、というのが開かれた会話の面白さです。
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面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。
今回は、『たいていのことは20時間で習得できる 忙しい人のための超速スキル獲得術』
と『成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール (日本経済新聞出版)』
を踏まえた「スキルを手に入れるというマインド」について語りました。
今回は「自分の体験を整理するために読んだ本を土台にして語る」という感じの内容を意識しました。
ごりゅごの今年のブックカタリストのテーマ「つなげる」と絡めて言うのであれば、これまでの自分の人生と、読んだ本をつなげて考えてみる、という感じでしょうか。
この2〜3年、おそらく自分が40代になってから、自分の考え方や価値観みたいなものがけっこう変化してきていて、振り返ってみるとかなり大きな変化になっています。
そんな変化が、どんなところから起こったのか。その変化によって何が得られたのか。そんなことを「本をテーマにして語る」ことを目指してみました。
かつてごりゅごのブログのテーマは「だいたい言いたいだけ」だったんですが、なんかそれに近い「言いたいことを言うために本を素材にする」という手法を使ってみた、という実験。
かつて自分が好きだったことを思い出し、それを少しアレンジして今の自分に当てはめてみる。今年はそんなことをする機会が多いんですが、今回のブックカタリストなんかもまさにそういう感じの内容だと言えるのかもしれません。
今回出てきた本はこちらで紹介しています。
📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish
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今回はデイモン・セントラの『CHANGE 変化を起こす7つの戦略: 新しいアイデアやイノベーションはこうして広まる』を取り上げました。
書誌情報
* 原題
* 『CHANGE:How to Make Big Things Happen』
* 出版日
* 2024/1/25 (原著:2021)
* 出版社:
* インターシフト
* 著
* デイモン・セントラ
* ペンシルヴェニア大学のコミュニケーション学、社会学、工学の教授。
* 翻訳
* 加藤万里子
* 『アナログの逆襲』など
目次や今回の内容に関係する倉下の読書メモは以下のページにまとめてあります。
◇ブックカタリストBC088用メモ - 倉下忠憲の発想工房
「弱い絆」を再考する
昨今のビジネス書などでは、「弱い絆」が重要だとよく言われます。
弱い絆とは、日常の人間関係よりも少し「薄い」関係性のことで、そうした人たちは自分の日常と異なった環境で生活しており、異なる情報を持っていることが多いので、そこにアクセスしましょう、というわけです。
また、そうした弱い絆で人々がつながるSNSは、情報の拡散に貢献することはよく知られています。プロモーションなどで「発信力」のある人に仕事が集まるのは、そうした人たちならばより効果的に情報を拡散してくれるだろうと期待してのことでしょう。
そのような情報の拡散モデルは、「情報はウイルスのように広まる」という観念が前提にあるわけですが、本書はそこに異議を唱えます。たしかにそうした伝播の仕方もあるが、そればかりではないだろう。単に情報を広めるだけでなく、行動や信念を変えるような変化が広がっていくのは、「ウイルス」のようなモデルとはまったく違っているんだ、という議論が実例を通しながら検討されていきます。
本書において学べることはたくさんあるわけですが、「弱い絆」至上主義を再検討してみることはその中でももっとも重要なことかもしれません。
たしかに強い絆しかない状態よりは、弱い絆があった方がいい。しかしそれは、弱い絆が強い絆を代替してくれることを意味しない。むしろ、土台として強い絆があるからこそ、弱い絆の力が活かせるのではないか。そんな風に考えることができるでしょう。
その他、表面的なプロモーションではなく、より深くコミットした新しい動き(運動)を起こしてみたい人には有用な知見が多く見つけられると思います。
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面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。
今回は(最初はシンセサイザーの話をしようと思ってたのにいつのまにかその導入部分が広がって)『音楽の人類史:発展と伝播の8億年の物語』のごく一部の部分だけを紹介しました。
ごりゅごの今年のブックカタリストのテーマは「つなげる」だって言っといて、今度は逆に「一回で一冊分を取り上げていない」というこの感じ。
これは、次回と「つなげる」ことを目指しているが故に起こった現象です。
こういう屁理屈が得意になったのも、ブックカタリストを長年続けてできるようになったことです。
次回の予定は(ごりゅご回は約一ヶ月後の公開ですが)「シンセサイザー」なんかの話の予定です。それはおそらく「物理と音楽」をつなげる話。今回は「歴史と音楽」をつなげる話。
今年はけっこう音楽に関連する本を読んでることが多いんですが、音楽という分野もいろんな分野と大きくつながっている。
そういうことを、こうやって色々な観点で紹介する中で「つなげて」話せたら面白いな、と思ってます。
今回出てきた本はこちらで紹介しています。
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今回は二人が読んだ『体育館の殺人』というミステリー小説から「本の読み方」について考えます。
「読者への挑戦状」への挑戦
発端は、倉下が『体育館の殺人』を読んで「読者への挑戦状」にきちんと挑戦しよう、という試みです。そこにいたる流れは二つありました。
まず一つは、アニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』で青崎有吾さんに興味を持ち、以前から面白い作品を書く人だと聞き及んでいたので、じゃあ一作目の『体育館の殺人』を読んでみようという流れ。
もう一つは、一冊の本を一年かけて複数人で読んでいこうという環読プロジェクトや、毎日少しずつ本を読みその読書日記を書くという「ゆっくり本を読む」という自分の中でのマイテーマな流れ。
その二つが合流することで、ミステリー小説の「読者への挑戦状」にガチンコで挑戦しようと思いたちました。
ちなみに、これまでもミステリー小説は読んできましたが、本気で「推理」したのはこれがはじめてです。つまり、何回も再読し、状況をメモしていって、そこから推論を展開していくという試みは倉下読書人生史上初だったわけです。
で、やってみて思いました。「楽しい」と。
仕事で書いている原稿のためでもなく、自分の環境改善のためにプログラミングを書くのでもない。ただただ純粋に「頭を使う」という行為はすばらく楽しいものです。純粋な娯楽という感じがふつふつと湧いてきますね。
続きのページを見れば答えが書いてあるものを、それこそ10日以上もかけて考える。その間は、他の本の読書も止まってしまう。コスパはぜんぜんよくありません。しかし、コスパが悪いからこそ、そこには純粋な楽しみが立ち上がってくることも間違いありません。
つまり、コスパを気にしているのは、「コスパゲーム」をしているので、目の前のゲーム(推理やらなんやら)に十全に没頭できないのでしょう。この辺は、昨今の情報環境の大きな問題に関わっていると思います。
というわけで、一冊の本を十全に味わうためには、ゆっくりと時間をかけ、それこそ読書メモなんかを取りながら読む「スロー・リーディング」がいいよ、というのがお話の半分です。
「読書メモ」の練習になる
もう半分が、そうやってミステリーの犯人を当てるために作る「読書メモ」が、より敷延した「読書メモ・ノート」作りの練習に最適ではないのか、という話です。
本を読んでメモやらノートを書く、というのは初めてだと存外に難しいものです。特に、普段メモやノートを取らない人ならばなおさらでしょう。「どう書くのか」と「何を書くのか」の二つが課題としてのしかかってきます。
その点、「ミステリーの犯人を当てるため」という目標が固定されているならば、何が必要で何が必要でないのかの判別はしやすいでしょう。あとはそれを「どう書くのか」です。
もちろん、「どう書くのか」も簡単というわけではありません。いろいろ試行錯誤は必要でしょう。ただ、うまくかけているのかどうかという判断は簡単にくだせます。推理がうまく進んでいるなら、メモもうまく書けているといえるし、そうでないならうまく書けていないと言える。わかりやすいですね。
一般的に「賢くなるため」の読書メモやノートは、賢くなることが瞬間的・瞬発的な結果ではなく、それはつまりメモがうまくかけているかどうかのフィードバックにかなり時間がかかることを意味します。そういうものが「上達」するのって、難しいのです。
その意味で、限定された目的を持つ推理用メモは、本を読み、メモを書くということの練習としてうまく機能するのではないか、というのがごりゅごさんのアイデアで、倉下もたしかにそうかもしれないな、と感じました。
もちろん、推理用メモの書き方がすべての読書メモに通じるわけではありません。それぞれに書き方は違ってくるでしょう。それでも、そうやって手を動かすことに慣れることさえできれば、応用はもっとずっと容易いのではないかと想像します。
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今回取り上げるのは、山本貴光さんの『文学のエコロジー』です。
本書を通して、「文学を読むときに何が起きているのか?」を考えてみます。
書誌情報
* 著者:山本貴光
* 哲学の劇場でもおなじみ
* 『記憶のデザイン』『文学問題F+f』などがある
* 出版社:講談社
* 出版日:2023/11/23
* 目次:
* プロローグ
* 第I部 方法——文学をエコロジーとして読む 19
* 第1章 文芸作品をプログラマーのように読む 20
* 第II部 空間 49
* 第2章 言葉は虚実を重ね合わせる 50
* 第3章 潜在性をデザインする 74
* 第4章 社会全体に網を掛ける方法 97
* 第III部 時間 117
* 第5章 文芸と意識に流れる時間 118
* 第6章 二時間を八分で読むとき、何が起きているのか 139
* 第7章 いまが紀元八〇万二七〇一年と知る方法 161
* 第IV部 心 183
* 第8章 「心」という見えないものの描き方 184
* 第9章 心の連鎖反応 207
* 第10章 関係という捉えがたいもの 232
* 第11章 思い浮かぶこと/思い浮かべることの間で 254
* 第12章 「気」は千変万化する 276
* 第13章 「気」は万物をめぐる 300
* 第14章 文学全体を覆う「心」 321
* 第15章 小説の登場人物に聞いてみた 342
* 第V部 文学のエコロジー 367
* 第16章 文学作品はなにをしているのか 368
* エピローグ 395
* あとがき 418
本書に加えて、『ChatGPTの頭の中 (ハヤカワ新書 009)』と『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学 (講談社選書メチエ)』を補助線として挙げておきます。
倉下のメモは以下のページをご覧ください。
◇ブックカタリストBC084用メモ - 倉下忠憲の発想工房
以降は常体でお送りします。
エコロジーとシミュレーション
エコロジーとは「生態学」のこと。静止した対象ではなく、対象と環境の相互作用に関心を向ける態度が生態学。つまり本書は、「生態学における文学」という意味ではなく、文学を生態学的な観点から眺めてみよう、という態度で書かれている。
面白いのは、そこに「シミュレーション」の視点が加わる点。小説で描かれる世界を、もしコンピュータ・シミュレーションで立ち上げるとしたらどのようになるか。そのような対比を対比を経ることで、そもそも私たちが文学を読んでいるときに何が起きているのかが再発見されていく。
その意味で、本書は具体的なレベルでは「文学には何がどのように書かれているのか」が検討されるのだが、そうした検討の先に「文学を読むときに何が起きているのか?」という大きな問いに取り組んでいる。個々の文学作品に対する批評というよりも、「そもそも文学とは何か」(何でありうるか)を探る文学論であると本書は位置づけられるだろう。
生きることとシミュレーション
ここからは倉下の意見がかなり入ってくるが、人は「世界」をシミュレーションして生きている。世界のそのものを捉えているのではない(物自体にはアクセスできない)。私たちは世界についての「モデル」を持ち、そのモデルをベースに世界はこうであろうと演算している(ただし意識的な計算ではない)。
小説作品は「世界」を描いている。もっと言えば、提示される作品を読者が読むときに、そこに読者なりの「世界」が立ち上がっていく。「世界」がシミュレートされるというわけだ。そのシミュレートは、もしかしたら読者がもともと持っている「世界」シミュレート.appとは違う動作かもしれない。その動作が、読者のシミュレートにフィードバックし、それまでとは違った仕方でシミュレートすることを可能にするのではないか。
本があり、読者がいて、その読者が読むことを通して変容していくこと。
それこそが「文学」という営みの生態系であろう。文学を静止的・局所的に捉えるのではなく、読み手の存在と文学によって媒介される変化を合わせて捉えること。それが文学のエコロジーであるように思う。
だからこそ文学は「生き方」を変える。というよりも、「生きる」という営みの励起の仕方を変えていくのだ。「生きるとはどういうことか」ということを根本的に揺り動かせるのは、文学が私たちのシミュレートに影響を与えているからだ、というのは何の確証もないけれども、今後時間をかけて考えていきたい命題である。
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今回は、jMatsuzaki さんをゲストにお迎えして、新刊『先送り0(ゼロ)―「今日もできなかった」から抜け出す[1日3分!]最強時間術』についてお話をうかがいました。
書誌情報
* 出版社
* 技術評論社
* 出版日
* 2024/2/24
* 著者
* jMatsuzaki
* 1986年生まれ。クラウドサービス「TaskChute Cloud」開発者。jMatsuzaki株式会社 /jMatsuzaki Deutschland UG代表取締役。一般社団法人タスクシュート協会 理事。
* システム系の専門学校を卒業後、システムエンジニアとして6年半の会社員生活を経て独立。会社員時代にjMatsuzakiの名で始めたブログが「熱くて有益」と人気を博し、最高で月間80万PVに達する。現在は会社経営のかたわら、サービス開発や執筆、講演活動をしている。2018年よりドイツ在住。
* ◇TaskChute Cloud by jMatsuzaki Inc
* https://taskchute.cloud/users/top
* 佐々木正悟
* 目次
* 序章 時間に追われ、先送り癖に悩まされている人へ
* 第1章 先送りゼロを習慣化するための3つのルール
* 第2章 先送りゼロを支えるメソッド「タスクシュート」
* 第3章 先送りゼロを実現するシステムの全容
* 第4章 スモールスタートで先送りゼロの成功体験を重ねる
* 第5章 先送りゼロを実現する考え方のポイント
* 第6章 長続きする習慣を支えるログの活用法
* 第7章 複数のタスクからなるプロジェクトで先送りゼロを実現するには
* 第8章 うまくいかないときのために
「タスクシュート」というメソッドに入門するための一冊ではありますが、その道のりの先には「時間の使い方=生き方」の変化が見据えられています。
その「タスクシュート」はかなり偏った印象で捉えられることが多いメソッドなのですが、そこに含まれる有用なコンセプトを、より広く受け入れてもらえるように本書ではさまざまな工夫がほどこされています。そうした工夫は、陥りやすい挫折をケアしてくれるでしょう。
また、これはタスクシュートに限ったことではありませんが、タスク管理的な行為を行うときに、当人の「完璧主義」「理想主義」が暴走している状態では、何をどうやってもうまくいくことはありません、この場合の「うまくいく」とは、結果に納得できる、満足感や幸福感を得られるというような意味です。
たしかに作業はたくさんこなせるようになったけども、常に焦りの気持ちを覚えているというのでは、「成功」とは言えないでしょう。本書はそうした焦りに対する処方せんも与えてくれます。
その意味で、本書の「先送りゼロ」とは、物事を後回しにすることが何一つ起こらない状態というよりも、「先送りしてしまった」という感覚が生みだす罪悪感や自責の念をゼロにできる状態、という方が近しいでしょう。先送りを繰り返すことで発生する、自分の心への攻撃を止めることが大切なわけです。
もちろん、たとえ1分であっても何かしら着手することは物事を確実に前に進めるわけですから、実際的(あるいは能率的)な意味でも効果があると言えます。
ちなみに、本書で提示される三つのルールは以下。
* 1日の初めに今日やることを決める
* 1日の終わりにその中で先送りしたものの数を数える
* 1分でも手をつけたら「先送り」とはしない
ばかばかしいと思われるかもしれませんが、これはかなり有効です。『ロギング仕事術』もルール自体は違うものの、似たコンセプト(実際にやったことを重視する)を持っていると言えます。すべてはログ/ノートからはじまるのです。
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面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』と『残酷すぎる人間法則』の2冊から考える人間関係をテーマに語りました。
ごりゅごの今年のブックカタリストのテーマは「つなげる」です。
ブックカタリスト本編の中で、2冊の本をつなげて語りつつ、その内容は前回ともつながることを意識しています。
3年くらいブックカタリストを続けて、ようやくこういう切り口で本を紹介できるようになったぞ、という感じがしています。
これ、3年前に同じことをやったとしても、もっと「無理やり」な感じになったような気がします。
今年公開した2回は、よい意味で「無理してつながりを見つけようとして読んでいない」本で、3年分の読書メモの蓄積があって、そこから自然に「この2冊を組み合わせたら面白いかもな」と思えたもの。
そういう意味では、2024年は「ちょっと進歩したごりゅご」をお見せするのが今年のテーマだといえるのかもしれません。
今回出てきた本はこちらで紹介しています。
📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish
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今回は、2023年11月に発売となった『思考を耕すノートのつくり方』を著者自身が紹介します。
書誌情報
* 著者
* 倉下忠憲
* 出版社
* イースト・プレス
* 出版日
* 2023/11/17
* 目次
* はじめに
* Chapter 1 知的道具としてのノート
* 「頭の中だけ」は限界がある/頭の使い方のサポート/気軽に、自由に使う
* Chapter 2 使い方のスタイル
* ノートの種類/罫線の意味/サイズ/紙質と使い心地/ページ/タイムスタンプの重要性/ナンバリングの利便性/貼りつける etc.
* Chapter 3 書き方のスタイル
* 日記/作業記録/メモ(アイデアメモ)/講義ノート/タスクリスト/
* 会議・打ち合わせノート/着想ノート/思考の整理/研究ノート/読書記録/ライフログノート/振り返りノート/フリーライティング etc.
* Chapter 4 ノートQ&A
* 何からはじめるのか/いつ見返すか/記入量の増やし方/ノートの使い分け/デジタル情報とのつきあい方 etc.
* 付 録 ノートをさらに使うためのブックガイド
* おわりに ノートを自由に使う
本書は、著者独自のノート術を紹介するのではなく、「ノート術」というのがどのような部品で成り立っているのかを細かく紹介することで、読んだ人一人ひとりが自分なりのノート術をつくりあげることを手助けする本です。
ノウハウは「つくる」もの
世の中を見渡してみると、たくさんのノウハウが見つかります。「ノート術」ひとつ取ってすらそうです。Aさんは「このノート術が最高だ」といい、Bさんは「このノート術こそが真に成果をあげるための方法」だと言います。そのまま進めば"宗教戦争"になりかねない勢いです。
一方で、少し引いてみれば、Aさんは自分のやり方で成果を挙げているのだし、Bさんもまた自分のやり方で成果を挙げているのだと言えます。ある方法を使わなければ成果を挙げられない、というわけではありません。人はそれぞれに違いがあるわけで、その人に適した方法も違っているというのは考えてみれば当たり前の話でしょう。
そのように考えれば、「成果を挙げる究極の方法」を追い求めるのはやや虚しいかもしれません。いつまで経っても手に出来なさそうですし、無用な論争も起きるでしょう。そうした探究を進める代わりに、「自分がうまくやれる方法」、もっと言えば「今の自分がうまくやれる方法」を見つける方が、生産的だし健全な気がします。
そうした考え方を実用主義的ノウハウ呼び、理想主義的ノウハウと区別してみるとまったく新しい「ノウハウ観」が生まれてきます。行為の主体者は、究極的に存在するノウハウを「身につける」のではなく、そのときそのときのニーズに合わせたノウハウを「つくっていく」のだという観点です。
本書はそうしたノウハウ観をベースに書かれています。
ノウハウ書の問題点
もう一点つけ加えると、私が考えるに最近のノウハウ書はいくつかの「問題」を抱えています。
まず「理想的過ぎる」点です。あれをこうしたら、こうなりますよね。やった! という感じ。そこには現実に起こりうるさまざまな抵抗や不具合がまったく無視されています。簡単に言えば「そんなにうまくいくなら、始めから困っていないよ」というツッコミを入れたくなるのです。
で、理想的な状況だけが語られているので、不具合に遭遇したときにまったく対処ができません。それでは実行はおぼつかないでしょう。
次に、「発案者に最適化されすぎている」点です。ある人にとって、最高の効果を上げられる方法は、むしろ性質や傾向が違う人にとって効果を上げにくい方法になっている可能性があります。それ自体は別に構わないのですが、「このやり方でうまくいく。このやり方でないとうまくいかない」という形で説明されていると、効果を上げにくい部分をアレンジすることができません。そうなると、微妙にうまくいかない部分を抱え続けなければならなくなります。これはけっこうストレスで、それが挫折の原因になったりもします。
最後に「過程がなさすぎる」問題です。ノウハウは「つくっていく」ものであって、そこには経過があります。言い換えれば歴史があります。極端なことを言えば、ある人が何かしら成果を挙げられているのは、有効な方法を手にしていることだけでなく、むしろその方法を確立にするに至ったプロセスが背景にあるからです。そのプロセスの中で、何が効果があり、何が効果がないのかを体験的に理解してきたからこそ、そこにある方法を十全に使えている点があるでしょう。
また、そうした理解があるからこそ、手持ちの方法が不具合を起こしたときにでも、新しく変容させていける対応力も持ちます。
一方で、「はい、これが完成品です」と手渡されたらどうなるでしょうか。そこには経過もなく、ということはそこからの変化もありません。そこにある完成品に、自分自身を合わせるしかなくなるわけです。これはかなり窮屈なことです。
だから本書は、ノート術の本でありながら、「成功した著者のノートの使い方を真似すれば、明日からあなたも成功者になれる」的なスタンスではなく、非常に技術的な視点(エンジニアリング的な視点)においてノート術を紹介しています。
もちろん、特定の誰かのノート術をノウハウとして紹介することに意味がないと言いたいわけではありません。そうした情報から学ぶことはたくさんあります。一方で、それは「お手本」でもなければ「理想的」でもなく、ましてや「こうでなければならない」という絶対的なルールではありません。一つのヒントであり、もっと言えば行動を促す「触媒」でしかないのです。
世の中のノウハウをそのような姿勢を受け取ることができるならば、現代は「自分のノウハウ」をつくるためのヒントがいくらでも見つけられる環境だと言えるでしょう。個人的には、そうした見方が少しでも広がればいいな、と願っております。
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面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『ピダハン』と『ムラブリ』という2つの民族から考える新しい価値観について語りました。
ムラブリは読んでから半年以上、ピダハンは1年以上経過している本ですが、どちらも今でも強く印象に残っていて、読書メモもそれなりにきちんと残っています。
そのおかげで、メモを見ながらであれば、だいたいのことを思いだすことができて、だいたいのことは「語る」ことができるようになったな、と実感した回でした。
ブックカタリストを始めて、現在で大雑把に3年くらいが経過。やはり、そのくらいの期間続けていると、いろいろなことが「スキル」として身に付いてきたな、と感じられています。
今回は(たぶんごりゅごとしては珍しく)テーマを設けて、そのテーマに従って本の紹介をするというスタイルでした。
こういう形式で本を紹介できるようになったことも、これまた今までとは違う本の読み方ができるようになったからなのかもしれません。
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2024年一発目の配信です(収録は去年行われました)。
今回は倉下が『ゲンロン0 観光客の哲学』と『哲学の門前』の二冊を取り上げ、それぞれのエッセンスを通して「本を読むこと」について考えるという構成になっております。
最初に結論を述べておくと、専門家ではない僕たちは自らの興味に沿って、なかば偶発的に本を読んでいけばいいんじゃね、という話です。
配信に使用したメモは以下のページからご覧いただけます。
◇ブックカタリストBC080用メモ - 倉下忠憲の発想工房
観光客の哲学
観光客とは何か、あるいは観光客の哲学とは何か、というのは本編で扱っているのでそちらをお聞き頂くとして、やはり重要なのは人間は「動物的」なものと「人間的」なものの二層でできているという視点でしょう。そうした二層構造は、去年の『ふつうの相談』でも触れた二極の話にも通じます。
で、私たち市民が本を読む理由は、学問的探求心という「立派/真面目/理性的」なものばかりでなく、流行っているからとか、有名人が言及していたからとか、たまたま自分の生活に関係する話題だったからとか、賢そうに見られたいという知的な背伸びだったりとか、そういう「卑近/ふまじめ/偶然的」なものだったりするわけです。
現代の思想や哲学が、「卑近/ふまじめ/偶然的」なものをうまく扱えてこなかったのと同じように、「真面目な読書術」でも、そうしたふまじめな読書はあたかも存在しない、あるいはあってはならないことだと扱われていたのではないでしょうか。教養的読書の強要。
でも、別にそういうふまじめな読書でいいのだと思います。観光客的に、物見遊山的にアカデミックの知見に触れてみる。そうして日常生活に帰っていく。たぶん、それだけでのことでも変わる風景があるでしょう。自分の知識が増えるといったことだけでなく、その分野への"親近感"が変わってくるなんてこともありそうです。
そのようなカジュアルな親しみ方が許容されたとき、本を読むことははじめて市民に開かれたものになるはずです。
哲学の門前
入門/門前の構図も同じです。
私たちは、日常生活の中で(あるいはそこで生じる苦難との遭遇において)哲学的・文学的な問いに直面することがあります。その意味で、私たちは誰しもが潜在的に哲学者です。いろいろ考えて、自分なりの意見を持つこともあるでしょう。門前の哲学者です。
一方で、その気概から「哲学入門」などを手に取ってみると、物の見事に弾き返されます。私は大学生のときに、ヘーゲル の『哲学入門』を手に取ったことがあるのですが、ページの始まりから終わりまでずっと「この人はいったい何を言っているのだろうか」という気分になっていました。
でもまあ、そんなものです。別にそれでいいのです。
そうやってやっぱり無理だと思って引き返し、しばらくしたらまた挑戦する。そんな感じで前に進んでいるのかどうかすらわからないままに、その対象と関係を結んでいく。いつまでたっても入門できたような気すらしない。そんなあやふやな関係があっても市民的な生活において困ることはありません。非常に不真面目な態度でありながら、その裏返しとしての粘り強さがあります。
たぶんここでのポイントは、「いつまでたってもわかった気がしない」という入門以前の気概が維持されていることでしょう。もし、「わかった」つもりになってしまえば、その人は容易に知識の穴にはまりこみます。そんなに簡単にわかるわけはないので、何かを勘違いしているのに、そのことに気がついていないのです(ちなみに、陰謀論に嵌まっている人は皆"真実"を確信している節がありますね)。
観光客に引きつけて言えば、観光客はその距離感を持って維持されている状態が大切で、あたかも「ウチ」にいると勘違いしてしまうと、そこに生まれたはずの力学が消えてしまうのでしょう。門外漢(ここでも門が出てきますね)のマインドセットをキープしておくこと。たぶんそれがポイントです。
というわけで皆さんも、自分の専門ではない分野の本を、観光客として(あるいは門前の小僧として)読んでいこうではありませんか。
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前回に引き続いて、今年一年の配信の振り返りです。
◇2023年ブックカタリスト配信リスト - BCBookReadingCircle
上記ページの「----half---」より下の回を振り返ります。
当記事では、倉下視点でのトータルの振り返りを。
リアルなものの復興・二重構造
まず『言語はこうして生まれる』および『会話の科学』で、私たちのリアルで日常的な会話の重要性が回復されました。理論的に整ったものが「本質」ではなく、雑多で即興的なやりとりこそが言語の中心的な意義であると確認されたわけです。
その上で、『ふつうの相談』の構図が立ち上がります。論理的に整ったものや体系的なものは、ある特殊な状態を先鋭化させたものであり、そうした研究にはたしかに意義がある。しかし、私たちのリアルはもっと柔軟で雑多なものであり、その両方が行き来すると豊かな状態がやってくるであろう、という見立て。つまり、どちらか一つを選択するのではなく、その両方を織り込んだ大きな地図を著者は描いて見せました。
同じ視点を採用すると、『習慣と脳の科学』『Remember 記憶の科学』『まちがえる脳』 『忘却の整理学』で確認したように、二重の要素が構造を支えている形が浮かび上がります。
身体的・習慣的なもので固定的なものに対応する能力と、言語的・観念的なもので変化に対応する能力。覚えることと、忘れること。どちらも相反する能力が、一つの系(システム)の中に存在し、それぞれが協調的に働くことで大きな成果を達成しているわけです
「どちらか一つを選ぶという選択ではなく、その両方を織り込んだ地図を描く」
その意味では、「悪意」もゼロイチで考えるのではなく適切に運用することが重要でしょうし、「頭の中のひとりごと」も完全に抑制するというよりは、暴走を抑制し、うまく使えるように導くことが大切になるでしょう。「積読か再読か」という選択も実際は無意味で、その両方をどう営んでいくのか、という視点が必要になります
ようするに、単一の原理こそが「唯一の答え」であり、それ以外はすべて間違いという狭い観点から抜け出て、どのようにして複数の原理を運用していくのかという考えの方向性が見えてきたのが今年一年の読書でした。
読書の深まりと広がり
同じように、本の読み方・選び方についても二重の要素が考えられます。
一つは、専門分野・興味を持っている分野について重点的に読んでいくスタイル。似たような新書を複数冊読むことや同じ本を再読することも、ここに加えられるでしょう。
そうした読書では、自分の脳内にある知識の網(あるいはconceptのnetwork)をより密にしていく効果が期待できます。理解を深める読書、と端的にまとめられます。
もう一つのスタイルが、その時点の自分の専門分野や興味の外側にある対象について読んでいくスタイルです。実際は、完全な外部についてはそういう本があるということすら認識できないでしょうから、「外周ぎりぎりにある本」がよい塩梅でしょう。
そうした本は、「これを読めば、〜〜に役立つ」と確信的なことは何も言えません。それが言えないものを「外部」と呼ぶからです。そうした本を読むときに必要になるのは、言うまでもなく知的好奇心です(あるいは、虚栄心ということもあります)。そうした心の動きがなければ、確信がない本を読むという行為はまず起こらないでしょう。
で、知的好奇心に駆動されて「外側」の本を読むと、思いも寄らなかった対象と知識の網がつながることが起こります。単純に言えば、知識の網が大きくなるのです。これを、理解を広げる読書とまとめておきましょう。
必要なのは、この二つのタイプの読書のどちらか一つを選ぶのではなく、必要に応じてどちらも使っていくことです。深めることと、広げることの両方を行うのです。そうすれば、うまい具合に知識の網を整備していけることでしょう。
もちろん、上記とはぜんぜん違った形の「読書」がありうることは間違いありません(でなければ、結局単一の原理に還元していることになります)。ただし、ある種の知的なあこがれに向かっていく読書の場合は、そうした読み方・選び方は意識しておいた方がよさそうです。
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毎年恒例になりつつある、今年の配信の振り返りです。
配信のリストは以下にまとめてありますので、ご覧ください。今回はこの上半分を振り返りました。
◇2023年ブックカタリスト配信リスト - BCBookReadingCircle
とりあえず、今年一年も大きなトラブルなく続けることができました。おそらく一番の成果がそれでしょう。これもひとえにいつもご視聴くださっている皆様、そしてご支援下さっているサポーターの皆様のおかげです。ありがとうございます。
振り返りの意義
倉下は記録魔ではありますが、振り返り魔ではありません。どちらかと言えば、振り返っている暇があるなら、少しでも何かを前に進めたいという前進主義者と言えるでしょう。そんな私であっても、こうして折りに触れて振り返ることの意義を感じています。
たとえば、今年一年自分がどんな本を読んできたのかという「ヒストリー」をまず忘れています。これはもう、ほんとうに驚くぐらいに忘れています。何冊かは思い出せる本はありますが、それ以外は覚えていないことすら認識できていない状態です。
もちろんそんな状態では、本の中身など推して知るべしです。
人間の記憶などそんなものですし、だから「本」という固定した情報媒体に意味があるわけです。読書メモを作るのも同じです。覚えるためというよりは、忘れてしまったときに(少しだけでも)取り戻せる意義が読書メモにはあります。
もう一つ面白いのは、自分の読書記録を振り返ることで、本を読んでいたときには気がつかなかった「全体像」に気がつけることです。
たとえば、自分が興味を持っているテーマの傾向というのは、「一冊の本」に注目しているだけではまず見えてきません。何冊かの記録を並べるからこそ見出せるパターンがそこにはあるわけです。
また、いろいろ読んでいるうちに「あの話とこの話はつながっているな」と気がつけることがあります。もっと言えば「よくよく考えてみれば、この二つは接続しているぞ」と発見するのです。一度発見した後ならば、その二つのつながりはあまりにも自明なのですが、読んだ本のことをすっかり忘れている状態では、そのつながりは見つけ出せません。
そうした接続によって生成される全体像は、行為の最中よりもむしろ時間置いた振り返りの中でこそ見出せるものです。
その意味で、自分の読書の経験をより広げたり深めたりするために、振り返りは役立つのです。
年報作り
読書において再読が重要であるのと同じように、自分の経験も「再読」することが大切です。特に、毎日をくり返しのパターンに置いているときほど、一度そのパターンから抜け出し、「目の前の一日」よりも少し高い視点で自分の活動を振り返ってみることの意義は高まるでしょう。
ただし、ただ振り返るだけではモチベーションがあがりにくいものです。そこで「日報」ならぬ「年報」を自分宛に(来年の自分が読むくらいをイメージして)書いてみるのがよいでしょう。
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前回に続いて今回も二人共が読了した本です。
『言語はこうして生まれる』
紹介しようしようと思いながら、なかなか全体がまとめきれないので時間がかかってしまいました。非常にエキサイティングで、抜群に知的好奇心が刺激される一冊です。
書誌情報
* 原題
* 『THE LANGUAGE GAME:How Improvisation Created Language and Changed the World』
* 著者
* モーテン・H・クリスチャンセン
* デンマークの認知科学者
* 米コーネル大学のウィリアム・R・ケナンJr.心理学教授
* オーフス大学言語認知科学の教授
* ニック・チェイター
* イギリスの認知科学者・行動科学者
* 『心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学 (講談社選書メチエ)』
* 翻訳
* 塩原通緒(しおばらみちお)
* 『暴力の人類史』など
* 出版社
* 新潮社
* 出版日
* 2022/11/24
* 目次
* 序章 世界を変えた偶然の発明
* 第1章 言語はジェスチャーゲーム
* 第2章 言語のはかなさ
* 第3章 意味の耐えられない軽さ
* 第4章 カオスの果ての言語秩序
* 第5章 生物学的進化なくして言語の進化はありえるか
* 第6章 互いの足跡をたどる
* 第7章 際限なく発展するきわめて美しいもの
* 第8章 良循環――脳、文化、言語
* 終章 言語は人類を特異点から救う
相手に何かを伝えるため、人間は即興で言葉を生みだす。それは互いにヒントを与えあうジェスチャーゲーム(言葉当て遊び)のようなものだ。ゲームが繰り返されるたびに、言葉は単純化され、様式化され、やがて言語の体系が生まれる。神経科学や認知心理学などの知見と30年におよぶ共同研究から導きだされた最新の言語論。
複雑な眼差し
倉下が作った読書メモは以下です。
◇ブックカタリストBC077用メモ - 倉下忠憲の発想工房
本が興味深いのは、提示される捉え方が実に複雑な点です。
たとえば、言語は遺伝子由来という見方を否定します。しかし、遺伝子がまったく無関係ともいいません。人間の生物的な限界(もちろんそれは遺伝子によって規定される)に晒されながら、その人間が使える形で言語は生み出され、また変化していく。そうした言語の変化もまた、遺伝子の自然淘汰に影響を与える。二つの要素が考慮されています。
また、言語が「即興」のジェスチャーゲームであるにしても、そのゲームが「繰り返される」ことで一定の様式や秩序を獲得していく流れが提示されます。即興というのは、「その場限り」や「一度きりの」というニュアンスがあるわけですが、それが繰り返されることで別様に変化していく。ここでは一見するとアンビバレントな要素が組み合わされて新しい概念が生成されています。実に面白いですね。
全体的に、トップダウンの言語生成を否定し、ボトムアップの進化論的言語観が提示されている本書ですが、その射程は幅広く、枝葉がつながる他の本がいくつも見つかりそうです。
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面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか (ブルーバックス)』について語りました。
今回は、ごりゅごが5月にギターを始めてから、約半年で学んだ「音楽の面白さ」の集大成みたいな話をしました。
「音楽の上達」を目指してギターを独学する体験を通じて、ブックカタリストのように「本を読んで何かを語る」というものとはまた違う、新しい「学び方」を知ることができています。
一般的に読書という行為には、肉体的な技能の重要性はほとんどありません。
このジャンルの「学び方」は、これまでにけっこういろいろな本を読んで学んできましたが、ギターを弾くみたいな、肉体的な技能を身に付ける方法はきちんと考えたことがありませんでした。
ただ、ギターの練習を通じてわかったのは、こうした技能の上達においても、今まで学んできたような「学び方」は十分に応用できる、ということだったのです。
そもそも、たとえばギターを練習するという場合に、なにを「練習」すればいいのか。楽譜を手に入れて、音楽を聴いて、でてくるフレーズがスムーズに演奏できるようにすることは「練習」なんだろうか?
結局どんな練習も「きちんと考える」ことが超重要で、それこそが今自分が考える「大人の趣味理論」のコアになる部分なんだろうということもわかりました。
かつての自分は「うまく体を動かす」ことばかり注目していたんですが、そもそも「理想の動かし方」をわかる重要性を理解していなかった。
特に音楽(アドリブ演奏)の場合は、音楽を聴いてリアルタイムに「こういう音を出したいと考えることができること」それと同時に「この音を出したい時にどうやって体を動かせばいいのか」がわかること。
これができるようになって、自分のやりたい「演奏」ができるようになるんじゃないか。そういうことが、すこしわかってきたような感じがしています。
そして、この話は今回本編で話した内容とはほとんどなにも関係がありません。
今回の話は、是非五度圏の図を見ながら聞いていただけるともう一段階楽しめると思います。
→五度圏 - Google 検索(画像検索)
今回出てきた本はこちらで紹介しています。
📖ブックカタリストで紹介した本 - ナレッジスタック - Obsidian Publish
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今回は、倉下とごりゅごさんが両方とも読んでいる本だったので、二人で語り合う形になりました。とりあげたのは、『悪意の科学』です。
書誌情報
* 著者
* サイモン・マッカーシー=ジョーンズ
* ダブリン大学トリニティ・カレッジの臨床心理学と神経心理学の准教授。
* 翻訳
* プレシ南日子
* アレックス・バーザ『狂気の科学者たち』
* サンドラ・アーモット&サム・ワン『最新脳科学で読み解く0歳からの子育て』など
* 出版社
* インターシフト
* 出版日
* 2023/1/24
* 目次
* はじめに・・人間は4つの顔をもつ
* 第1章・・たとえ損しても意地悪をしたくなる
* 第2章・・支配に抗する悪意
* 第3章・・他者を支配するための悪意
* 第4章・・悪意と罰が進化したわけ
* 第5章・・理性に逆らっても自由でありたい
* 第6章・・悪意は政治を動かす
* 第7章・・神聖な価値と悪意
* おわりに・・悪意をコントロールする
倉下は2023年2月に一旦読了し、この配信のために読書メモをつけながらもう一度読みました。簡単な読書メモは以下のページをどうぞ。
◇ブックカタリストBC075用メモ - 倉下忠憲の発想工房
以下では、本書のさわりをざっと確認します。
悪意について
狭義の「悪意」は、「悪意のある行動とは、他者を傷付け害を与え、かつその過程で自分にも害が及ぶ行動」(心理学者デヴィッド・マーカ)で、もう少し広く意味を取ると「自分の利益につながらないにもかかわらず、他者に害を与えるためにする行動」も含まれる。
これらの定義により、敵対的行動やサディスティックな行動とは区別される。また、人間の行動をコストと利益から考えると以下の四つの区分が可能。
* 協力行動
* 共に利益をもたらす
* 利己的行動
* 自分だけが利益を得るように
* 利他的行動
* 自分がコストを負担して他者に利益を与える
* 悪意のある行動
* 自己と他者の沿うほうに害を及ぼす行動
この4つめの行動に注目しようというのが本書のテーマ。
悪意の合理性
ではなぜ悪意に注目するのか。それは、人類は協力によって文明を前に進めてきたから。にもかかわらず悪意ある行動は、その協力関係を弱めてしまうように思われる。進化論的な観点で言えば、そのような生存に貢献しない性質は淘汰されていてもおかしくない。これをどう考えるのか。
もちろん、進化論的に考えれば、「そこには何かしらの合理性があったからだ」というのが仮説になる。その仮説的観点を、さまざまな角度から検討していくのが本書の大きな内容。悪意が生じる理由と共に、その「機能」についても注目していく。
各章で面白い話が多いが、全体を通して感じるのは、私たち人間は生物的に「悪意」の元となる感情の働きを持ってしまっている、ということ。そして、その働きは現代まで悪意が生き残っていたことが示すように、一定の(そして有用な)機能を持つ、ということ。
その意味で、悪意を完全に捨て去ることが最上である、という考え方はそのまま素直に信じないほうが良い。むしろ「いかに悪意とつき合うべきか」という問いの方が現実的かつ実際的であろう。
どのような状態や環境なら悪意が発露されやすく、またどんな悪影響が起こりうるのか。それを踏まえた上で、どう悪意を「使っていく」のか。そうした判断ができるようになれば、悪意に振り回されないようになるだろう。
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今回は、倉下の直近の新著『ロギング仕事術』を著者自身が紹介しました。
本の内容の直接的な紹介というよりは、この本の背後にあった想いを多めに語っております。
本の主題
「記録をしながら、仕事をしよう」という新しいワークスタイルを提案しています。
そのワークスタイルによって、
* 行為実行中の注意の舵が取れるようになる(短期の効能)
* 情報が保存され、再利用可能になる(中期の効能)
* 「考える」が起こりやすくなる(長期の効能)
といった「うれしいこと」が起こりやすくなります。
倉下が考えるに、この「うれしいこと」は現代において切実にその必要性が高まっている要素です。なので、仕事のやり方を変えたい、仕事をもっとうまく進められるようになりたいという方は、ぜひ「記録をしながら、仕事をする」をやってみてください。
三つの想い:その1
で、本書では実用性を主軸において、倉下特有の理屈めいた話はまるっと抜いておりますが、三つの考えたことが背景にあります。
一つは「原初のライフハック」としての記録です。さまざまなライフハックを見てきましたが、「記録すること」を使わないものなどほとんどありません。特に何かしらの効果を上げているものは皆一様に「記録をどう使うか」という点を持っています。
最終的にできあがるノウハウの形が違うのは、どのような記録を、どんな風に残すかという点が違っているからです。それが違うのは当然でしょう。それぞれの人が違った傾向を持っているからです。むしろ、そうした形の違うメソッドが出てくること自体が、「ライフハック的」だと言えます。ライフハックは、原理主義というよりはブリコラージュのマインドセットがあるものなのです。
そこで本書では、あらゆる記録の起点となるようなベーシックなスタイルを提案しました。この記録から始めて、あとは個人の趣味嗜好に合わせてアレンジしてけば、最終的に「その人の方法」になるような、そんなテンプレート/フレームワーク感のあるノウハウをセットアップした次第です。
この思想を支えているのは、「たいそうな方法でなくてもよい。当たり前の方法で構わない(むしろその方がよい)という観点です。おどろきを感じるような、斬新な「方法」があれば、自分が抱えている問題をまるっと解決してくれるような気がしますが、それは幻想です。むしろ、他の人がごく当たり前に利用している方法を、自分の中にも(自分なりの形で)定着化させることが、一番まっとうなルートです。というか、それ以外にはない、とすら言えるかもしれません。
当たり前の、ライフハックを。
それが2020年代のライフハック観です。
三つの想い:その2
二つ目は、「考えるを取り戻す」です。
非常に大雑把な話になりますが、他人を「管理」したければ相手に考えさせないのが一番です。そうして「言う通りに」行動させれば、管理の手間は最小化します。逆に言えば、そうした状態のとき、自分は「考える」という行為を剥奪されているわけです。それって、ほんとうに好ましいのでしょうか。
また、適切に「仕事」をするためには、どうしてもいろいろ考えなければなりません。毎日がまったく同じ動作だけで成立する仕事ならばそれでもいいでしょうが、手順ややり方を改良していくことは仕事の質を向上させる上でも必要ですし、「なんのための仕事か」といったことを考えることは、成果の方向性を定めるのにも有効です。
そうやって考えることをしていると──管理の方向性に逆らうことになるので──面倒なことも起きてくるわけですが、それでも5年、10年のスパンで捉えたときに、そうした思考の有無は大きな違いを生むだろうと思います。
さらに言えば、組織的な管理とは別の意味で、私たちは「考える」を奪われつつあります。速度反応を求める昨今情報環境のせいです。
「考える」ためには、少なくとも時間と注意が必要です。刹那的に反応を繰り返しているだけでは「考える」ことはできません。情報機器、ITツールなどを無防備に使っていれば、どんどんその「考える」機会が喪失されていくでしょう。
自分の手で記録を書く、という行為はほとんど無理やりにその時間と注意を取り戻させてくれます。むしろ、そこまでしないと確保すら難しいというのが現代なのかもしれません。
三つの想い:その3
最後の三つ目が、「自分を知る」です。倉下がセルフ・スタディーズ(自分の研究)と呼んでいるものです。
最新の情報や世界の動向にどれだけ詳しくても「自分がどんな人間であるのか」が分かっていなければ、人生の決定は難しく、また下した決定に納得感を得るのは難しいでしょう。
そこまで大げさな話でなくても、「どんな情報整理ツールを使ったら嬉しいか」ということも、自分についての理解が浅いとまったく決められません。そういうときほど、他人の欲望に影響を受けやすくもなってきます。で、混乱が深まっていくわけです。
選択肢が多い時代であればあるほど、自分のことをわかっておくことの有用性は高まります。自分はどんな人間であって、どんな人間ではないのか。そんな当たり前のように思えることですら、私たちはよく知っていないのです。だからこそ、自分の記録を残すのです。「自分の研究」ためのフィールドワークのようなものです。よく観察し、ときには質問し、その結果から分析を行うのです。
その価値は、ほんとうにもっとずっと後になって、じわじわと実感されることでしょう。おそらく最強の「コスパ」はここにあります。
さいごに
というようなことを背後に考えながら、それでも「実用性」を一番念頭において『ロギング仕事術』を書きました。よろしければ読んでみてください。
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面白かった本について語るPoadcast、ブックカタリスト。今回は『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション (光文社新書)』について語ります。
今回は、前回の『会話の哲学』つながりというか、科学で考えた「会話」を、哲学の方面でも考えてみよう、みたいなのがメインテーマです。
最近のブックカタリストは、本編での「対話」によって、事前準備とはまったく違う新しい思いつきがたくさん出てくるようになり、これまで以上に収録が非常に面白いものになってきています。
たとえば「規範的である」ことが人間関係に動影響するのか。この辺の話は事前に準備していたものでなく、話してる流れで自然に出てきたものです。「あえて規範的でない行動をすること」ってたしかに人が仲よくなるためには大きな作用なのかもしれないよね。いい子ちゃん同士では確かに人間関係って上っ面だけになりがちで「腹を割る」って規範を破ることなのかもしれないよね。さらに、我々が心地よく生きていけるようになるためには、そういう規範的でない行動、発言が許されるような場所って重要なんじゃないかな?
読んだ本について語ってたら、思ってもみなかったようなことを思いついたりする。
そういうのもまた「会話」だから生まれるもので、一人だけだったらこんなことにはなってないよな、と思います。
今回出てきた本はこちらで紹介しています。
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