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  • グローバル債券・公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、モルガン・スタンレーのジャパン・インベスター・サミットでお客様から最も多く寄せられた米国の政策に関する質問にお答えします。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    グローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザス 本日はグローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、モルガン・スタンレーのジャパン・インベスター・サミットから得られた主な要点について解説します。

    このエピソードは5月28日 にニューヨークにて収録されたものです。

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    先週、私は東京で開催されたジャパン・インベスター・サミットに出席しました。主な投資テーマに関するパネルディスカッションや、モルガン・スタンレーのあらゆる拠点のお客様との一対一ミーティングが二日間にわたって行われました。サミットの間にモルガン・スタンレー・リサーチは経済および市場戦略の年央見通しを公表しました。言うまでもありませんが、この48時間で投資戦略を巡って活発な意見交換が行われました。どのような質問が最も多く寄せられたかをお伝えし、そしてもちろん、これらの質問への答えについてもお話ししたいと思います。

    もうお分かりだと思いますが、米国の関税政策が主な注目点でした。関税は再び引き上げられるのでしょうか?それとも最悪の時期は過ぎたのでしょうか。もし過ぎたのであれば、投資家は米国経済についての懸念をいったん忘れてもよいのでしょうか?これは込み入った問題なので、われわれの答えには微妙なニュアンスが入ります。一方、現在の関税政策は、われわれが考えていた年末時点の状況とほぼ一致しています。関税率の引き上げが予想よりもずっと早い時期に行われただけです。米国の関税が全面的に引き上げられ、中でも中国に対する関税率が相対的に高くなっています。他の国々と比べて中国とは妥協点が少ないため、中国との貿易交渉で迅速に合意を形成するのはより困難です。つまり、現状が終点ということかもしれません。しかし、投資家にとってこのような考え方は単純すぎるでしょう。

    第一に、現在行われている交渉の一環として関税率が今の水準からさらに引き上げられる可能性は十分あります。また、それがたとえ一時的だったとしても、市場に影響が及ぶでしょう。第二に、恐らくもっと重要なポイントとして、米国政府がこのほど中国に対する関税率を非常に高い水準から引き下げ、実効関税率は下がったとはいえ、依然として年初の水準を大幅に上回っています。このため、投資家は市場の見通しを立てる上で関税の圧力を考慮しなければならないでしょう。弊社のエコノミストは関税の影響で今年は経済成長が鈍化し、リセッションリスクが上昇するとみています。

    もう一つの主な懸念材料は米国の財政政策です。選挙公約通りに赤字縮小への道を歩み始めるのでしょうか、それとも税制・歳出法案が議会を通過し、赤字縮小は実現しないのでしょうか。投資家にとってこれは来年の最も重要な注目点であると思います。来年以降どうなるかは憶測の域を出ないからです。われわれは来年度に財政赤字が減少するとは予想していません。減税期限を延長し、新たな減税措置をいくつか導入すれば、歳出削減で一部相殺されたとしても、来年に赤字は多少拡大するでしょう。また、利払いの増加など、予算に織り込まれたその他の要因によって赤字はいっそう膨らむとみています。

    これらの2つの質問が寄せられたのは無理もありません。その答えが市場の見通しに極めて重要だと思うからです。特に、われわれが市場見通しの中で強調した見解を理解する手がかりとなります。例えば、米国の経済成長が他国よりも減速し、それに伴い外国人投資家が自国通貨建て資産の比率を増やしたいと考えれば、ドル安が進むでしょう。これはわれわれのチームが今年初めに打ち出した主な予想の一つであり、現在も変わっていません。もう一つの例は米国債のイールドカーブの形状です。財政赤字の増加や、関税によるインフレの不確実性を受け、イールドカーブはスティープ化するでしょう。このため、米国債利回りが下がり、社債も含め高格付け債券で高い利益を得られるとみています。年限が短めの債券の方が高いリターンが得られるでしょう。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • 米国の政策変更が落ち着き、世界貿易の緊張が緩和しており、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンは25年下期見通しをより強気に変更しました。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン今回は関税と金利の最近の動向と、それが弊社の今後12カ月の米国株式見通しに及ぼす影響について、最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが解説します。

    このエピソードは5月23日 にニューヨークにて収録されたものです。

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    中国に対する追加関税が145%から30%に引き下げられた結果、株式市場は先週も上昇が続き、企業マインドや消費者心理にもプラスに働くと思われます。さらに重要なこととして、弊社は重大な局面で90日間の関税停止が発表されたと見ています。実質的な禁輸措置があと数週間続いていたら、景気後退に陥る確率が高まったでしょう。

    貿易政策の不透明感が薄れ、株式市場の変動もかなり落ち着きました。実のところ、この2つを測る指標は中国との交渉が成立するかなり前にピークに達し、現在は「解放の日」以前の水準に戻っています。つまり、私の見立てでは、貿易の逆風は変化率で見ればすでにピークを過ぎており、再びピーク水準まで戻る可能性は低いと思われます。これは4月上旬のパニック売りでS&P 500銘柄が平均30%値下がりしたこととも合致します。つまり、遅行指標であるハードデータはおそらく来月にかけて悪化しますが、株式市場は4月にすでにこれを織り込んでいました。景気が後退するとしても、4月につけた底値を割り込むことはなく、信用市場と資金調達市場のリスクが管理可能な緩やかな景気後退になると弊社は考えています。

    さらに株価の支えとして、企業利益のリビジョン・インデックスが底入れしたと見られます。この指標は業績予想の方向性を測る先行指標的な性質があり、企業マインドを計測する指標として重要だと弊社は考えています。リビジョン・インデックスが上向き、さらに先週の中国との関税交渉も重なった結果、S&P 500は「解放の日」以前の弊社の上期予想レンジである5500-6100にしっかりと戻っています。ただ、10年債利回りが依然として高い水準にあることから、S&P 500が目先6100を上回るためにはリビジョン・インデックスがさらに上昇してプラス圏となる必要があると考えます。

    このような状況の中、弊社は今週Mid-Year Outlook(ミッドイヤーアウトルック)を発表し、その中で弊社基本ケース、弱気ケース、強気ケースそれぞれのS&P 500予想を見直しました。一言で言えば、当初は年末に6500と予想していたところを今から12カ月後に実質的に後ろ倒ししました。その主な理由は、FRBの姿勢が予想したほどハト派的でなく、そのため10年国債利回りが弊社エコノミストと金利ストラテジストの昨年末時点の予想よりも高いためです。また、関税率が少なくとも当面は予想よりも高いことから、EPS予想を小幅に引き下げました。

    この先の見通しについて、弊社は現在、昨年末時点よりも強気になっています。成長を阻害する政策の発表はすでに終わり、FRBの次の動きは複数回の利下げと見られるためです。端的に言えば、リビジョン・インデックスの変化率、金利、現政権の政策変更のすべてが今はプラス方向に向いています。半年前はこの真逆だったために、今年上期に対して強気ではありませんでした。

    米国株式の目先のリスクは、非常に買われ過ぎの状況と金利です。インフレ懸念が続いているためFRBは様子見を続けており、先週金曜日にはMoody’sが米国債を格下げしたこともあり、10年物利回りは4.5%を超える水準に戻っています。4.5%は株式と金利が負の相関に戻りがちな水準です。最終的には、財務省とFRBはこのリスクをコントロールする手段を持っており、実際にそれを使うでしょう。しかし、短期的にはS&P 500の上昇が一服し、さらには5%調整するきっかけとなり得ます。弊社の6-12カ月予想は強気であるため、この調整が現実化した場合は株式リスクの追加を目指すでしょう。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

     

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  • モルガン・スタンレー・ジャパン・サミットから生放送で、弊社エコノミストが、変化する日米・日中貿易パートナーシップを踏まえ、日本経済と日本株の見通しについてお話します。

    トランスクリプト

    中澤:「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。モルガン・スタンレーMUFG証券の日本株ストラテジスト、中澤 翔と申します。

    李:モルガン・スタンレーMUFG証券のプリンシパルグローバル・エコノミスト、李 智雄です。

    中澤:本日は東京で開催されているモルガン・スタンレー・ジャパン・サミットから生放送でお届けします。世界の経済成長という観点から日本についてのわれわれの見解をお伝えします。また、二大貿易相手国である米国と中国に対する日本のポジションについても考察します。

    このエピソードは、5月20日 火曜日午後3時に東京にて収録されたものです。

    中澤:李さん、私たち2人はこのサミットで大勢の投資家と話をしてきました。対話を通じて、いま最も印象に残っている議題は何ですか?

    李: そうですね。やはりトランプ政権の政策に関するご質問が最も多い印象です。相互関税率が当初発表された内容よりは緩和されたものの、依然として高い関税率であることは間違いないわけで、それが米国経済、そして日本を含めた世界経済に与える影響に関してのご質問が多かったです。もちろん、日本経済に関しましてては外需が重要ですが、一方で内需の堅調さに関してご指摘すると同意してくださるお客様も多かった印象です。

    李:中澤さんの会われたお客様からどのような話が聞かれましたでしょうか?

    中澤:投資家からは、米国の関税政策の不確実性を踏まえたポジショニングの考え方であったり、日本特有のカタリストでありますガバナンス改革を巡る投資戦略についての照会が多い印象です。特に足もとでは、親子上場の解消に対する関心が高まる中で、次の親子上場解消の候補は誰だろうか、という点に高い関心が集まっている印象です。

    中澤:世界経済の年内の見通しについて投資家の見解は李さんの見解と一致していましたでしょうか?

    李:そうですね。関税及び政策の不確実性によって各国貿易や投資活動がマイナスの影響を受けるという点に関しての見解は概ね一致していました。特に投資への影響が懸念で、1980年代の元連銀議長バーナンキ氏の論文にもあるように、不確実性は投資行動を遅延させるわけです。ただし、その不確実性がどれだけ投資行動にマイナスの影響を与えるのかという程度、感応度に関しては、温度感が違う印象もありました。

    中澤:なるほどですね。短期的、長期的に米国の関税は日本を含むグローバル経済にどれほど影響をするでしょうか?

    李:そうですね、グローバル経済といえば貿易や投資を通じて世界経済にマイナスの影響を与えることはもちろん重要なのですが、やはり重要なのは米国経済に与える影響かと思います。関税は米国の消費者および企業にとって税負担となるわけで、例えば2018年には物価への影響も多少はありましたが、それよりも企業の生産活動や雇用活動に大きなマイナスの影響を与えました。問題は今回の関税率がそれよりも高いため、物価や経済に与える影響がより大きいと考えられます。特に連銀は一旦は関税による物価上昇があるため2025年中は利下げが難しく、逆に利下げが可能となる2026年にはかなり大幅な利下げが必要になるとわれわれは考えています。

    李:日本の株式市場は米国の関税措置に対してどのように反応しているでしょうか?

    中澤が答えます:4月2日に米政権が相互関税を発表してから、急速に内需・非製造業へのセクタースキューが進行しました。足もとにかけては、一部の国で関税交渉の進展がみられまして、外需型製造業の買戻しが進んでいます。ただ、弊社アナリストがカバーする約500銘柄の範囲で、関税の影響が比較的大きい銘柄、小さい銘柄で構成したスクリーニングの対TOPIX累積超過リターンをみますと、関税に対して相対的に脆弱な銘柄のパフォーマンスは悪化したままとなっています。今後、関税交渉の進展に応じて、セクタースキューの調整に加えて、関税の影響度合いに応じたセクター内ロング/ショートのポジショニングを調整していくことで、ポートフォリオの頑健性を高めていくことが重要だというふうに考えています。

    李:なるほど。中澤さんは最近、TOPIXの目標水準を修正されましたが、理由を簡単に説明して下さいますか?

    中澤が答える:もちろんです。ご指摘の通り、弊社では、最近、2025年末のTOPIXのベースケース目標を3,000から2,600に引き下げました。この改訂は、大きく2つの要因を考慮したものでありまして。すなわち、弊社の日本経済チームは、相互関税の実施、および米国、中国、欧州の成長予測の引き下げを反映しまして、日本の名目成長率予測を 3.7% から 3.3% に下方修正しました。また、弊社の為替チームは、米国のハードデータが大幅に悪化するリスクを踏まえて、ドル円ターゲットを145円から135円に引き下げました。このタイミングとしては、事業環境の不確実性が高まって、企業がキャッシュアロケーションをより慎重に行う可能性がある足もとの状況と整合的であるという風にみています。

    従いまして、今年は日本株にとっては少し厳しい年になるかもしれません。全体としては、内需型の非製造業セクターを中心に、ディフェンシブなポジションを維持することをお勧めします。

    中澤:関税リスクを踏まえると、日銀の金利の道筋は年内に変わるとお考えでしょうか?

    李:そうですね、外需は日本経済にとって非常に重要な要素であるわけでして。日本では関税率が大幅に上がらなかったとしても、自動車関税などは残る可能性があり、その影響はやはり無視できません。自動車を中心とする輸出企業の収益悪化が冬の賞与や来年の春闘に与える影響を日銀が見極めるまでにはやはり時間がかかると考えられます。夏までに日本を含む各国との米国の貿易交渉が大幅に進展すれば秋の利上げはリスクとしてはあり得ますが、日本マクロチームのベースケースとしては政策金利がこのまま2026年中まで維持されると考えざるを得ません。

    李:それではドル・円相場はどうでしょうか。日本の株式市場にどのように影響をするでしょうか?

    中澤が答える:私がまず最初にお伝えしたいことは、ドル円は日本株の唯一の決定要因ではないということです。もちろん、ドル円は依然として収益において重要な役割を果たしています。弊社の回帰モデルでは、ドル円 が 1% 上昇すると、TOPIX は平均 0.5% 上昇すると予測されています。しかし、この感応度は、過去10年間で低下傾向にあるわけです。構造的な理由としては、最終需要地に近いバリューチェーンの構築によって海外生産比率が上昇し、日本企業がグローバルサプライチェーンの最適化に継続的に取り組んでいることが挙げられます。

    とはいえ、ドル円相場が下落する場合には、すなわち円が強くなる場合には、短期的には、食品、建設・素材、IT・サービス・その他、運輸・物流、小売といった、内需に支えられたセクターが有利だという風に言えます。

    中澤:最後になりますが、日本と中国の貿易関係は世界で最も大きな貿易協定の一つです。米国の関税はこのパートナーシップに多少なりとも影響を与えているのでしょうか?

    李が答える:難しいご質問ですが、いくつかの側面があるのではないでしょうか。地政学リスクは低下しているとは言えないため、軍事同盟という側面ではより強固になった側面もある一方、米国側の要求にこたえなければならないという側面もあります。ただその中で、日本では半導体製造強化であったり、防衛費増大なども行っているため、多面的に判断していく必要はあるのではないかと考えます。

    中澤:李さん、お時間をいただきありがとうございました。

    李:こちらこそありがとうございました。

    中澤:最後までお聴きいただきありがとうございます。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market をお楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • 関税をめぐる米国と中国の緊張緩和を市場は好感しましたが、長期的にはどんな結果が生じうるのでしょうか。この点を深く理解するために、弊社のチーフ債券ストラテジスト、ヴィシー・ティルパターが今回の相場上昇を掘り下げます。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    チーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパター 本日はチーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパターが、米中で先ごろ合意された相互関税の90日間の一時停止のインパクトと、それが景気と市場にもたらす影響についてお話します。

    このエピソードは5月19日 にニューヨークにて収録されたものです。

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    5月12日の発表に対する市場の反応は非常に好意的でした。いわゆる「解放の日」を受けて4月に急落したS&P500指数は、今回の発表後の4営業日で4.5%上昇し、年初来のリターンもプラスに戻っています。

    社債市場も上昇しました。投資適格債のスプレッドは10ベーシスポイント超、ハイイールド債のスプレッドは50ベーシスポイント超タイト化しています。米国債市場では2025年の利下げ幅の予想が50ベーシスポイント縮小し、市場が示唆する2026年末までの利下げ幅はおよそ100ベーシスポイントとなっています。

    こうした市場の動きも重要ですが、本当に重要なのはこうした情報をつなぎ合わせて大局をつかみ、今回の貿易問題の緊張緩和が何を示唆しているかを解明することです。そしてそれ以上に重要なのは、何を示唆していないかを把握することです。

    まずプラスの面としては、緊張緩和により、貿易の荷動きが急に止まったり失業率が急上昇したりするリスクが低下することが考えられます。これが「休戦」にすぎないことは明らかで、世界の2大経済大国間の関税率が最終的にどのような水準になるのかは正確には分かりませんが、125%や145%に近い水準にとどまる恐れはかなり遠のいたと考えてよさそうです。そのため総じて言えば、米国が景気後退に陥る可能性もこれを受けて低下しています。

    念のため申し上げますが、2025年の景気後退入りは弊社の基本シナリオでありませんでした。しかし今回の緊張緩和により、経済成長率が若干上振れ、インフレ率が若干下振れ、そして失業率がおおむね現状維持となる方向にリスクがシフトしています。「解放の日」以前は上下どちらにも触れる可能性があり、確率が半々だったとすれば、現在もまだ上下いずれにも振れる可能性はあるものの、景気の縮小ではなく拡大方向に傾いている状況です。弊社はそもそも景気拡大を予想していましたので、今回の緊張緩和を受けて基本シナリオへの自信を深めています。米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を年内は据え置くという確信も強くなっています。

    ただ、スイス・ジュネーブでの米中協議からはポジティブな印象が感じられるものの、90日間の相互関税停止で不確実性が払しょくされるとはとても言い切れないことを強調しておきたいと思います。貿易問題による緊張は高止まりする公算が大きいでしょう。トランプ政権はまだ医薬品、半導体、銅、およびその他の製品への関税を調査中です。米中間の交渉の方法が他の地域、特に欧州との交渉で機能するかどうかも定かではありません。それに、中国やそのほかの国々からの輸入品に米国がかける関税率がおおむね現在の水準に落ち着くことになるとしても、今年の初めに比べればおよそ 約4倍の高水準になるのです。

    したがって、インフレ率は年末に向けて上昇を続け、第3四半期にピークを迎える公算が大きいでしょう。関税によるインフレ率の上昇幅は小さなものになりそうですが、上昇することには変わりありません。それに、景気後退は引き続き回避されるでしょうが、関税の引き上げは経済成長率を押し下げるでしょう。

    リスク市場については、米中貿易問題の緊張緩和により、大規模な資金引き揚げのリスクは低下したと弊社ではみています。関税率が最終的にどのような水準になるかという政策の不確実性はまだ残っていますが、先月見られた市場の想定を大きく上回るボラティリティが貿易政策によって生じる展開には、恐らくもうならないでしょう。したがって当面は、4月の安値を再度うかがう展開になることはなさそうです。

    クレジット市場については、特に現在のクレジットのファンダメンタルズの強さを考えれば、景気後退の可能性の低下は好材料となります。市場予想から2回の利下げが除外されたことで、クレジットのオールイン利回りは、保険会社など利回り重視の買い手の需要を維持できる範囲にとどまっています。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • 週末に貿易の緊張が緩和したことを受け、株式市場は大幅に上昇しました。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンは、市場の最悪期は去り、株価は底打ちしたと前向きにみています。今回は、その理由を解説します。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン, 今回は最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、株式市場の視点から最近の関税交渉についてどう考えるべきかについて解説をします。

    このエピソードは5月12日 にニューヨークにて収録されたものです。

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    週末に米中貿易交渉は予想以上に進展し、わずか1ヵ月前に始まった貿易問題に関する緊張緩和で合意しました。投資家から寄せられている主な質問は、この最初の合意を信用すべきかどうか、そしてこれが最終的に持続可能なものかどうかです。私の目から見ると、この質問は株式投資家にとってより重要なポイントを見逃がしています。言うまでもなく、株式市場は未来を材料に取引するものなのです。

    従って、確認すべきは、6ヵ月後に状況が多少なりとも不透明になっていると思うか、そして状況は改善するか、それとも悪化するか、ということです。もう1つ考慮しなければならない点は、株式は成長率の二次導関数、つまり変化率に基づいて取引されるということです。この点に関しては、株価と最も相関する傾向にある変数の変化率が底打ちした可能性が高いと考えています。

    もっと具体的に言えば、企業は先週、今年になって初めて利益の大幅な上方修正を行いました。一部では、関税の発表を控え、第1四半期に需要が前倒しされたために利益が予想を上回ったという企業もありました。また、一部の主要企業はドル安のおかげで予想以上の利益を上げました。重要なことですが、米国の多国籍企業にとって為替相場の恩恵は今後6ヵ月、利益への大きな追い風となりそうです。

    5ヵ月ほど前に懸念していた成長のネガティブ要因の多くが今やなくなりました。ネガティブなセンチメントやポジショニングは「解放の日」がピークでした。株式市場は悪いニュースで底打ちするという格言があります。先月の「解放の日」が最も良い例でしょう。同様に、市場は良いニュースで天井を打つことが多いですが、週末の中国との貿易交渉が予想以上に良い結果だったことが、相場一服につながった可能性が十分あります。従って、このような相場が見られた際には上値追いではなく押し目買いをすべきでしょう。市場は成長にポジティブな政策変更の可能性はまだ消えていないと考え、減税の延長、規制緩和、債務上限問題および来年度歳出予算の決着などに期待するでしょう。

    最後に、関税率のさらなる引き上げの懸念が和らいだいま、FRBが恐らく先日明らかにした見通しよりも早い時期に利下げする可能性も再び浮上してきました。関税が今後1年間インフレにどの程度影響を及ぼすかは正確には分かりませんが、影響は前倒しとなりそうです。実際、関税が需要に打撃を与え、最終的にディスインフレをもたらすことも考えられます。FRBは秋口にかけてこの結果を判断するとみられ、少なくとも利下げを示唆し始める可能性があります。そうした動きはクオリティの低い循環株へのより持続可能なローテーションにつながり、多くの投資家が6ヵ月前に予想しつつもフライングしてしまったような形でアニマルスピリッツが広がるでしょう。

    結論としては、厳しい上期と好調な下期というわれわれが当初示した今年の見通しに確信が強まりました。この見通しは、AI関連設備投資の伸びが今年は減速を免れず、政策変更も当初は成長率にネガティブとなる可能性が高いとの見解に基づくものでした。この先は、成長にポジティブな政策変更や、すでに始まっているAIへの支出による生産性向上を期待できるでしょう。そのような大幅な相場上昇の後に反落は避けられませんが、先月目の当たりにしたような下げにはなりそうもありません。よって、押し目買いを推奨します。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • 米政権が発表した関税政策に対する当初の反応は治まり、現在市場は落ち着きを見せています。今回は、これが逆風に変わる可能性がまだ残っていることをコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツ, 現在、市場は落ち着きを見せていますが、これが逆風に変わる可能性がまだ残っていることをコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。

    このエピソードは5月9日 にロンドンにて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    市場では先の乱高下が落ち着き、現在は4月2日以降の損失をほぼ取り戻した形です。ではこれで終わりなのでしょうか。発表された関税政策に対する反応とポジション調整は終わったようですが、実体経済に影響が出るのはこれからです。気象で例えれば、今は台風の目の中にいるだけかもしれないと弊社は考えています。

    関税に対する当初の反応は終わりかけているかもしれませんが、我々は悪天候となる可能性のある具体的な動きに注目しています。

    ひとつはFRBです。弊社エコノミストは、関税によってインフレ率が高止まりすると予想し、年内の利下げはないと引き続き見ています。しかし、市場はより多くの対応を期待しています。クレジット市場が成長鈍化とFRBによる支援の欠如の両方に直面する事態は我々が最も懸念するシナリオのひとつです。

    2番目は経済指標です。年明け以来これまでのところ、消費者と企業の期待を測る指標は総じて弱く、その一方で経済活動を示す指標は堅調な傾向です。我々は、期待が先行する傾向があるという証左がこれまでにも多数あったと考えており、それゆえに実際の経済活動が弱まり始めることを懸念しています。関税導入後の期間の経済指標が出始めるためです。

    このため弊社は出荷やトラック輸送といった指標を注視しています。これらは実際の影響をより正確に映し出す可能性があるためです。経済指標はこれまで持ち応えているとはいえ、我々が懸念する最大の理由はやはり、関税の影響が現れるまでには一般的に時間がかかることです。弊社エコノミストが述べているように、歴史的に見て、関税が実際に物価を押し上げるまでには2、3カ月、成長率が低下するまでには2、3四半期かかります。つまり、関税の影響という嵐はまだ過ぎ去っていない可能性があります。

    インフレに対する弊社の見方もこれと同様です。インフレを楽観し、したがってFRBによる利下げを期待する人々は、直近のコアインフレ率は概して良好だと主張しています。しかし、弊社エコノミストは関税による物価への影響はまだ公式なデータに反映されていないだけだと懸念を強めており、理論的に関税の影響を最も大きく受けるはずの財などのコアインフレ率にほとんど変化がみられないことを強調しています。つまり、我々の見るところ、FRBが注目している基礎的な指標に影響が現れるのはこれからだといえます。

    米国の関税政策の発表に対する当初の驚きはすでに過ぎました。状況は落ち着いたように見えます。そして、最近の経済指標は比較的堅調です。これは単純に米国経済の底堅さを示しているというのがひとつのシナリオです。しかし、この関税政策に対する驚きと、それによる経済への最終的な影響には時間差があるというのがもうひとつの解釈です。我々はこの影響が実際に生じることを懸念しており、そのため成長率が低下し、インフレ率が上昇し、FRBによる利下げが市場のコンセンサスよりも後ずれすると予想しています。

    クレジットスプレッドが平均を下回っている現在、忍耐が必要でしょう。こうしたスプレッド水準を前提とした予想が、市場の混乱につながる可能性があります。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • 弊社韓国・台湾担当チーフ・エコノミストのキャサリン・オーが、韓国で最近可決された年金改革法案と急速に高齢化が進む韓国社会への影響について解説します。

    このエピソードを英語で聴く。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    韓国・台湾担当チーフ・エコノミストのキャサリン・オー 今回は弊社韓国・台湾担当チーフ・エコノミストのキャサリン・オーが、韓国の「人口非常事態」と、政府が最近の年金改革でこれにどう対処しようとしているかについて再び解説します。

    このエピソードは5月1日 に香港にて収録されたものです。

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    去年 昨年秋のポッドキャストで、危機的レベルに達した韓国の人口問題についてお話したことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。韓国は2024年末、65歳以上の高齢者の割合が人口の20%を超え、正式に超高齢社会になりました。

    急速に高齢化が進み、出生率が過去最低となったことを受け、韓国はようやく断固たる方針を決定しました。国会は先ごろ、国民年金法の改正に向けた画期的な年金改革法案を可決しました。年金法の抜本的な改正は18年ぶりです。年金財政の持続可能性を改善し、今後も加速の一途をたどるとみられる急速な高齢化に備えることが改革の目的です。

    法改正では、保険料率を引き上げるほか、所得代替率も43%に引き上げます。年金基金が枯渇する時期は現在、2064年とされていますが、上振れシナリオでは改正によってこれを2071年に先送りすることを目指しています。改革を行わなければ、年金基金はわずか30年後の2055年に資金が枯渇してしまうでしょう。

    この改革を行えば、年金基金の枯渇時期を遅らせることができ、金融資産を売却せずにすみます。年金受給者のために将来の年金資産の安定性を確保することにもなります。また、金融市場への投資の幅が拡大し、より高いリターンにつながる可能性があるということも、これまで挙げた点に劣らず重要なことです。

    今回の改革は、超高齢社会の現実に対応するための法律改正であり、ひいてはより構造的な改革に向けた第一歩です。また、年金制度、雇用市場、教育制度、資本市場などの抜本的な改革アジェンダの幕開けでもあります。

    中道左派の韓国民主党と保守系政党「国民の力」が党派を超えた支持と国民の総意を得て合意に達することができたという点でも、今回の年金改革は注目に値します。ここ最近の揺れ動く国内政治情勢を考えるとなおさらです。

    とは言え、年金改革が経済にネガティブな影響をもたらす可能性もあります。保険料率が上がれば世帯の可処分所得が減り、消費と貯蓄の合計額に、弱いながらもさらなる下押し圧力がかかるでしょう。特に年を重ねるにつれて消費が減る傾向にあることを踏まえると、民間消費の構造的減速につながるとも考えられます。

    高齢化に伴う課題を抱えているとは言え、我々は、韓国の将来については慎重ながらも楽観的な見方をしています。このところ出生率が持ち直していることが最大の理由です。出生率は2015年から毎年低下していましたが、2024年に0.75へと上昇に転じました。理想的な人口置換水準である2.1をまだはるかに下回っていますが、これは小さいながらもポジティブな兆候です。

    この先、出生率が2030年までに1.0以上に大きく持ち直すようにしなければ、労働人口は今後40年で50%減少するとみられています。一方、年金改革法案にさらに修正が加えられることが予想され、経済分野の次の課題である雇用市場改革と共に定年年齢の引き上げについて議論が展開されると弊社ではみています。政府による人口政策アジェンダの執行は今後も続くとみられます。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • グローバル・コモディティ・ストラテジストのマーティン・ラッツが、値動きの大きい現在の原油市場と、予想される年内のマクロ経済シナリオについてお話します。

    このエピソードを英語で聴く。

    トランスクリプト 

    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    グローバル・コモディティ・ストラテジストのマーティン・ラッツ本日はグローバル・コモディティ・ストラテジストのマーティン・ラッツが、原油市場の不確実性と予想される年内の相場展開についてお話します。

    このエピソードは4月29日 にニューヨークにて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    現在、エネルギー転換が進んでいるにもかかわらず、世界のエネルギーシステムの土台は依然として原油市場です。そして原油市場で最も重要な価格はブレント原油価格です。従って、原油価格の変動は、ガソリンスタンドのガソリン価格を当然気にする平均的な消費者だけでなく、さまざまな産業やセクターに多大な影響を及ぼす可能性があります。これを念頭に、世界の原油市場で最近何が起きているのか考えてみましょう。

    今月に入りブレント原油価格は急落し、わずか2営業日で終値が1バレル当たり75ドル前後から65ドルへと12.5%下落しました。下落の主な要因は2つありました。1つ目は、トランプ政権による相互関税の発表をきっかけに始まった貿易戦争が、世界経済ひいては原油需要にどのような影響を及ぼすかという懸念です。2つ目は、貿易戦争に伴い原油需要の不確実性が高まっているにもかかわらず、OPECが供給の拡大ペースを加速させ、5月の計画増産の実施を決めただけでなく、予定していた6月と7月の増産分を5月に前倒ししたことです。GDPの見通しが悪化しているときにOPECが増産すれば、これが原油価格の重荷になることは予想がつくでしょう。

    ではこれは何を意味するのでしょうか。2日間で12.5%下落することはめったにありません。ブレント原油先物市場が1988年に創設されて以来、これほど大きな下落を記録したのは24回だけで、そのうち22回は景気後退と同じ時期でした。このため、最近の相場下落を景気後退が迫っている兆候ではないかと指摘するコメンテーターもいます。

    現在、ブレント価格は直近の安値からやや持ち直していますが、足元の貿易懸念や景気の展望、OPECプラスによる原油供給の拡大見通しを反映する形で相場はなおも非常に荒い値動きとなっています。ここ数週間ですでに投機筋が異例なまで大量の売りを仕掛けています。従ってこれを踏まえると、原油価格は当面持ちこたえるのではないでしょうか。しかし、それでも年内にさらなる逆風が吹く可能性があると考えています。

    弊社は基本ケースのシナリオで、前年比の需要の伸びが今年下期までに日量約50万バレルに減速すると予想しています。今年に入って公表した当初予想は日量約100万バレルでした。需要鈍化とOPECプラスの増産に伴い、原油市場は年末まで日量約100万バレルの供給過多になる可能性があります。こうした見通しを鑑みると、ブレント価格はいずれ60ドル台前半までさらに下落することも考えられるでしょう。

    とは言え、もっと弱気なシナリオも考えてみましょう。景気後退期に原油需要が継続的に増加したことは一度もありません。このため、関税と報復関税の影響で景気後退入りすれば、原油需要の伸びはゼロに落ち込む可能性もあります。そのような状況では、弊社が現在モデルで推計している供給過剰幅は大幅に拡大し、日量150万バレルを超える可能性があります。その場合、市場の需給を均衡させるにはOPEC非加盟の産油国はもっと大幅に増産ペースを落とす必要があるでしょう。このシナリオでは、供給を必要な水準まで減速させるために、ブレント価格は50ドル半ばまで下がる必要があるかもしれません。

    その一方で、弊社も市場も需要の影響を過大評価している強気のシナリオもあります。原油需要が現在予想しているほど減速せず、なおかつOPECがすぐに方針転換して再び供給側を管理するようになれば、在庫は増えるとしてもゆっくりとしたペースで増えることになるでしょう。その場合、ブレント価格も実際、70ドル台前半に戻る可能性があります。

    全体として見れば、予想以上に高い関税率と予想以上に速いペースでのOPECプラスの増産という2つの逆風が今後数ヵ月にわたり原油価格を圧迫し続けるのではないでしょうか。従って弊社は今年下期の需要予測を前年比でわずか日量50万バレル増に引き下げ、2026年の原油価格予想も1バレル当たり70ドルから65ドルに下方修正しました。

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  • 弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、決算発表が始まる中、過去1ヵ月間の市場のボラティリティが株式市場にどのような影響を与えるかを検討します。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン今回のエピソードでは弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、企業決算発表が佳境に入る中、株式市場に何を期待するかを検討します。

    このエピソードは4月28日 にニューヨークにて収録されたものです。

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    先週のS&P 500は5000-5500のレンジの下限(かげん)と上限の両方を試す展開となり、変動が大きい取引環境が続くとの認識が裏付けられました。中国との関税交渉を巡ってポジティブなニュースがあったことや、FRBがハト派寄りに変化するとの期待を受け、週末にかけてS&P 500は上昇し、先週の終値は弊社の予想レンジ上限を若干超えました。 極めて短期間、5500を小幅に超える水準を維持する可能性がありますが、継続的に上回るかどうかは、まだ実現していない今後の展開次第となります。

    それらには、中国との関税交渉によって実効関税率が大幅に低下する、FRBがよりハト派寄りに変化する、景気後退リスクの増大を伴うことなく10年物米国債利回りが4%未満に低下する、そして収益予想修正がはっきりと好転する、といった展開が含まれています。結論としては、現在の株価がレンジ上限にあるため、リスクはダウンサイドに傾いた状態で、これらの要因の1つ以上がはっきりポジティブに変化するまで、株価はボックス圏にとどまると見込まれます。

    弊社がクライアントから頻繁に受ける質問の1つは、ソフトデータは株価にとって重要か、または市場はレンジの上限と下限(かげん)のどちらを突破するか判断するためにハードデータを待っているのか?というものです。今の段階で最も重要なマクロ経済指標は労働市場の指標で、最も重要なミクロ経済データは収益予想修正であるとの弊社見解に変わりはありません。予想と比較した経済成長の大幅な減速は、株価に既に織り込み済みです。

    株価に織り込まれていないのは、労働サイクル、すなわちリセッションです。関税に関するトランプ政権のトーンが和らいだ点を踏まえると、リスクはある程度後退していますが、なくなったとは到底言えません。堅実な労働市場が維持されている明確な証拠が数ヵ月間、持続するまで、リセッションの確率は半々のままでしょう。市場を動かす可能性があるものとして、今週注目されるソフトデータの1つは、5月1日に発表される4月のISM製造業景況感指数です。昨年を思い起こすと、ISM製造業景況感指数は、低調な7月の雇用統計の発表に先立ち、2024年8月の株価急落に拍車をかけています。

    株式戦略の視点で最も重要なポイントは、より高いクオリティの選好です。ハードデータがどうであれ、現在は、高クオリティと大型株が相対的にアウトパフォームを続けると見込まれるサイクル終盤の環境が続いています。通常より高い不確実性が続く一方で、ディフェンシブ株の好調は続く見込みです。ただし、過去1年間のディフェンシブ株の相対的なアウトパフォーマンスを考慮すると、マクロ経済の状況と企業収益両方の大幅な減速を既に織り込んだクオリティが高いシクリカル株を選別することにも意義があります。

    明確にしておきますと、これはシクリカル株全体ではなく、選ばれた個別の銘柄を対象としています。より具体的には、利益成長率の予想の視点から、株価に何が織り込み済みになっているかに基づき、より多くのリスクが除外されたクオリティの高いシクリカル株に着目します。銘柄のスクリーニングについては弊社レポートを御参照ください。

    さらに世界的な視点では、現時点では外国株式に対する米国株の選好を推奨します。ドル安によって、欧州や日本をはじめとする外国との比較で米国の業績修正が有利になると見込まれるためです。さらに、現在のサイクル終盤の環境を踏まえると、利益成長の変動がより少ないことや、高クオリティ株が多い点が、相対的に米国を有利にすると見られます。

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  • 市場のリスク認識の変化と、資産クラス間の資金移動が通常のパターンと異なる理由について、チーフ・クロスアセット・ストラテジストのセリーナ・タンが解説します。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    チーフ・クロスアセット・ストラテジストのセリーナ・タン マクロ経済の強い不透明感の中で投資家がどのように防衛策を講じているのか、チーフ・クロスアセット・ストラテジストのセリーナ・タンが解説します。

    このエピソードは4月22日 にニューヨークにて収録されたものです。

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    ここ3週間は世界的に市場が激しく変動し、投資家はリスクとの関わり方の再考を迫られています。このような時期には一般的に、ミューチュアルファンドとETFの資金が株式から債券に移動し、これが投資家のディフェンシブ姿勢を測る明確な基準となります。しかし、今回はこのパターンが見られません。

    資金は債券ではなく金(きん)に流れており、これが質への逃避を最も明確に示す確証となっています。4月3日から11日までの期間には世界全体で50億ドル近い資金が金(きん)ETFに流入し、7日間の純流入額としては史上最大規模となりました。年初来では220億ドルが金ETFに正味流入しており、運用資産総額は大凡 約2,500億ドルに達しています。過去20年間で金(きん)ETFへの流入額が多かった上位10日のうち、3日が過去1カ月に起きています。

    キャッシュもディフェンシブ資産への逃避がプラスに寄与しており、年初来で1,000億ドル以上がマネーマーケットファンドに流入しています。このため、年内は様々な理由からキャッシュへの資産再配分がテーマになると思われます。その理由のひとつとして、弊社エコノミストの予想では関税の影響でコアPCEインフレ率が上昇する見通しで、FRBは25年には利下げを実施せず、26年に先送りすると見込まれているためです。これはマネーマーケットファンドの高い利回りが長く続くことを意味します。そして、安全資産である米国債の低下を目の当たりにした投資家にとって、マネーマーケットファンドのボラティリティの低さはリスク・リワードの観点から国債の保有に勝る強力な論拠となります。また、別の理由として、仮に弊社エコノミストの基本ケース予想が外れ、FRBの大幅な利下げが遅れるのではなく、早まるとします。その場合は米国がおそらく景気後退の瀬戸際にいることを意味し、その状況ではキャッシュが最有力となります。

    このような質への逃避が見られる中で、特に想定外だったのは、高位格付けの米国債券からの資金流出です。この資金流出が特筆に値する理由は、米国債、エージェンシーMBS、投資適格クレジットが通常は低ベータのディフェンシブ資産と認識されているためです。しかし、4月7日の週には米国の高格付け債券から14億ドル近い資金が流出しました。これはコロナ禍以降で最大の流出額であり、この傾向は今後も続く可能性があります。

    そのため、我々はこれでアメリカ例外主義が終わるのか、自問する必要があります。米国資産から米国外資産への主役交代が起きているのでしょうか。

    答えは意外かもしれませんが、米国債券から資金が流出しても、米国リスク資産から米国外市場への持続的なローテーションは実際には起きていません。少なくとも、それを示すデータはまだ多くありません。米国内の株式投資家は引き続き自国資産を強く選好しており、日本と欧州の投資家は外国株式を正味で買い続けており、少なくともその一部は米国株です。

    現在の不透明感が続く間は、投資家のディフェンシブ姿勢が続くと思われます。ただ、何が実際にディフェンシブであるのかの評価は難題です。このところの世界的な市場の混乱は、どこにリスクがあるのかという投資家の認識の変化自体がリスクであることを示唆しています。

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  • 米国株式市場は予想レンジを突破できるか?弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、刻々と変化するトランプ政権の関税政策およびFRBの不確実性が株価の重石となり続けるのかについて検証します。

    このエピソードを英語で聴く。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン, 今回のエピソードは、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、米国株式市場が5000-5500ポイントのレンジを突破するには何が必要かについて解説します。

    このエピソードは4月21日 にニューヨークにて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    先週は、アップサイドとダウンサイド両方の制約を踏まえ、S&P 500が目先、5000-5500のレンジに留まると見込む、弊社の見解を中心にお話しました。第1に、アップサイドについて弊社は、インデックスが従来のサポートである5500を超えるのは難しいと考えています。これは、最近、業績予想の下方修正が加速しており、関税交渉がどのように進展するか不透明なこと、関税その他の要因がインフレと経済成長に及ぼす影響がより明確化するまでFRBが静観すると見られるためです。

    同時に、株式市場はこれらすべての逆風を、コンセンサスが認識しているよりもはるかに長い間、考慮してきたとも考えています。このポッドキャストで、繰り返し取り上げて来たように、ディフェンシブ株に対するシクリカル株の比率が何よりはっきりと裏付けています。実際、シクリカルとディフェンシブの比率は1年前にピークをつけ、現在は40%以上低下しています。

    年初の時点で弊社は、上期の経済成長についてコンセンサス予想よりも懐疑的な見方でした。政策の順序を考慮すると、当初は大半が経済成長にとってマイナスになると予想されたため、コンセンサス予想は過度に楽観的と見られたためです。移民法の執行、DOGE(ドージ)および関税といった政策です。また、弊社業界担当アナリストの予想に基づき、前年との比較条件が最も厳しい今年上期を中心にAI向け設備投資の伸びは減速すると弊社は予想していました。1月のDeep Seek(ディープシーク)の発表によって、AI設備投資に関する投資家の懸念はさらに強まりました。経済全体の成長予想におけるAI向け設備投資の重要性を考慮すると、こうした動向は依然として投資家にとって重要な考慮事項となっています。

    今回のお話の重要な点の1つとして、年初時点で経済成長に対して過度に楽観的な見方が多かったのと同じように、現在、投資家は特に銘柄レベルについて過度に悲観的になっている可能性があります。シクリカル株の下落が示唆するように、今回の調整は1年近く前から始まり、株価と時間の両面で十分に進行しています。現在、S&P 500は、我々の予想レンジの中間値に極めて近い水準で先週の取引を終えており、同指数は今後の進展に対する懸念から混乱している模様です。株式市場は現在ではなく6ヶ月後がどうなるかを織り込もうとするため、この先の動きが株価を左右します。

    いかなる環境でも将来の道筋を予想することは極めて難しく、現在は恐らく通常よりも難しくなっているため、株価のボラティリティが高い理由も説明できます。幸い、現在の株価には景気減速のかなりの部分が織り込まれています。4ヵ月から5ヵ月前に多くが楽観していた規制緩和、金利低下、AIによる生産性向上、政府の効率改善といった要因が、今後のポジティブなカタリストの候補として残っている点は記憶にとどめておくべきでしょう。そして、市場はこれらが明確になる前に織り込むことができるのです。

     ただし、現在、リセッションのリスクは大きくなりました。これは異なる種類の減速で、株価指数には完全には織り込まれていないと弊社は見ています。したがって、このリスクが高まった状態が続く限り、中期的には経済成長や株価がコンセンサス予想を上回ると考えていても、短期的な見解とのバランスを維持する必要があります。このため、株価は引き続きレンジ内で推移すると我々は見ています。

    さらに見通しに影を落としているのは、企業が直面する不確実性がコロナ禍の初期以降で最も大きいという事実です。その結果、リセッションの回避を想定すると、業績予想修正の広がりは稀に見る水準にあり、極端なダウンサイドに近付いています。業績予想修正が、S&P 500のピークよりかなり前の1年近く前にピークをつけた点を念頭に置くと、今回の調整はコンセンサス予想が認識しているよりもはるかに進展していると見る、我々の見解がさらに裏付けられます。これが、株価指数がまだ織り込んでいないとしても、既に緩やかなリセッションを織り込み済みの可能性がある銘柄やセクターに、我々が一段と注目している理由です。

     結論としては、景気後退が回避されたなら、2週間前に市場は底をつけたと見込まれます。そうでない場合は、S&P 500は これらの底を割り込むと見られます。弱気ケースのシナリオでは、4800を下回る水準に押し下げる可能性がある他の要因も想定しています。例を上げると、関税が引き起こすインフレを受けFRBが利上げする、またはタームプレミアムが急上昇し、経済成長の改善がない中で10年物米国債利回りが5%を超える、といった要因です。

    それでも、現在の市場混乱の要因でもある景気後退の確率は、ワイルドカードと我々は考えています。このリスクが確認されるか、もしくは、最も重要な労働指標をはじめとするハードデータで否定されるまで、S&P 500で言えば5000-5500が妥当なレンジと我々は見ています。それまでは、よりクオリティが高い銘柄の選好を維持するのが良いでしょう。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • 米国政府の貿易政策が絶えず変わり続けているため、市場に不透明感が広がり、企業や消費者の信頼感に影響が及んでいます。ただ、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツは、このボラティリティーがクレジット投資家にとってプラスに働く可能性もあると考えています。その理由について解説します。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツ, 今回はコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、不確実性の高さがクレジットにどのようなかたちで、リスクだけにとどまらず投資機会にもなり得るかについて解説します。

    このエピソードは4月16日 にニューヨークにて収録されたものです。

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    市場は年明けからずっと米国の貿易政策に関する疑問一色となっています。議論の中心は、この貿易政策の目標はいったい何かという難問です。

     現在、米国政府が達成しようとしていることについては相反する2つの理論があります。1つは、強引な関税措置は交渉術のひとつであり、最終的な取引に向けて引き下げ交渉を進めるための強引な第一手であるというものです。

     そしてもう1つの解釈は、強引な関税措置は新たな産業政策であるというものです。製造拠点を長期的に米国に移すよう企業に促すには、長期にわたる高額な関税を課すことが必要ということです。

     どちらももっともらしい解釈ですし、どちらも米国政府の高官の間で議論されてきました。しかし、この2つは相いれないものでもあります。2つが両立することはありません。

    どちらの理論を掲げる陣営が優勢になるかは分かりませんが、この不確実性は今に始まったことではありません。2月初めの相場上昇は、関税措置はどちらかというと最初の交渉ツールだろうという楽観的な見方に関連していたようです。3月と4月に相場が下落したのは、関税がより恒久的なものになる兆候があったからでした。そして、先週は10%近く上昇する日もありましたが、こうした最近の反発は、振り子が再び戻りつつあるという希望から来るものでした。

    こうした堂々巡りは不確かなものです。しかしある意味、投資家にとっての評価基準にもなります。関税措置が一段と強引なものになる兆しがあれば、市場にとって厳しさが増すでしょうし、柔軟性が高まる兆しが見えれば、市場にはよりプラスとなるでしょう。しかし、それほど簡単なものでしょうか。関税引き上げの停止がより長期化する兆候が見えれば事は解決するのでしょうか。

    重要な疑問は、こうした一連の堂々巡りが企業や消費者の信頼感に長期的なダメージを与えているかどうかだと考えます。全ての関税引き上げ措置が一時停止されたとしても、企業や消費者はこれを信じるでしょうか。最近の相場変動の大きさを踏まえたうえで、この先数四半期にわたり、以前と同じような水準で進んで投資や支出をしようと思うでしょうか。

    この疑問は単なる仮定にとどまりません。さまざまな調査において、いわゆるソフトデータ、つまり米国の企業や消費者の信頼感は大きく落ち込んでいます。企業合併のペースは大幅に減速しています。投資家は今後数か月、これらの信頼感指数に特に注目するでしょう。

    クレジットにとって、信頼感の悪化はもろ刃の剣です。企業がより保守的になり、債務返済能力が高まるという意味で、ある程度はプラスに働きます。しかし、経済全般が弱まれば、リスクとなります。過去を振り返ると、最近目にするような信頼感調査の悪化は、将来的に成長率が大幅に低下することを示唆しています。全体的なスプレッドがほぼ平均的な水準にある中で、我々はバリュエーションが、完全にポジティブになるほど明らかに魅力的であるとはまだ考えていません。

     しかし、一筋の光明はあるかもしれません。投資適格の長期社債の利回りは現在、6%を超えています。企業の信頼感が悪化し、社債利回りが上昇しているため、企業は長期借り入れコストを高い水準で固定することは魅力的ではないと考えるでしょう。社債の発行額が減り、投資家にとってオールインイールドが魅力的な水準になれば、クレジット市場のアウトパフォームにつながる可能性があると我々は見ています。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • 関税政策が流動的である限り市場への信頼感は戻らないのか――弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが探ります。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン, 本日は最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、先週の相場のボラティリティと今後の見通しについてお話します。

     このエピソードは4月14日 にニューヨークにて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    今月は、株式市場にとって大変な月になっています。しかも、まだ半分しか過ぎていません。4月の初め、弊社の関心はインフレのリスクよりも経済成長減速のリスクのほうにもっぱら向かっていました。人工知能、(AI(エーアイ))関連設備投資の伸びの鈍化、財政支出の伸びの鈍化、政府効率化省(DOGE(ドージ))、不法移民の大量送還といった向かい風に見舞われていたためです。そこに関税という、とどめの一撃が加わりました。「解放の日」がこれからどうなっていくのかをめぐって、ほとんどの投資家は前向きになれませんでした。失望するというよりは、何らかの救済措置が採られないだろうかという見方に傾いていました。

    4月2日に相互関税の詳細が発表されると、一連の向かい風の組み合わせは問題含みであることが判明しました。S&P500先物は同日午後の高値から翌週月曜日(7日)の朝にかけて16.5%もの急落を演じました。驚くべきことにサーキット・ブレーカーは一度も発動されず、この極度のストレス下でも市場は非常に順調に機能しました。2:03 とは言え、売却を強いられたケースも一部で見受けられ、7日には米国債、金(きん ゴールド)、ディフェンシブ銘柄がそろって下落しました。

    私自身は、7日月曜日は大量の商いを伴った典型的な「降伏の日」だったと考えています。実際この日は、去年 昨年12月にほとんどの銘柄について始まった調整期間の、そして多くのシクリカル株については1年も前に始まっていた調整期間のモメンタムの底であったことが判明する公算が大きいとさえみています。またそれは、たとえ一部の個別銘柄が底打ちしたとしても、主要な株価指数は先週の安値を再度試す、あるいは突き抜けて下落する公算が大きいことも意味しています。弊社では、もっと耐久性のある底値が到来するのは早くても来月、あるいは企業業績が下方修正される夏ごろになるだろうとみています。加えて、信用市場や資金調達市場が不安定にならない限り利下げや流動性の追加供給は行わないというFRBの理解を踏まえ、株価倍率は下方バイアスを伴いながら引き続き乱高下すると考えています。

    先週お話ししたように、市場はいま、リセッションのリスクが通常よりもはるかに高まっていると考えています。民間経済のほとんどがもう2年近く苦しんでいる事実は言うまでもなく、数多くの種類の向かい風によって景気がすでに悪化しているところに関税が追い打ちをかけてきているからです。私が見る限り、国内総生産(GDP)成長率と労働市場は3つの要因に支えられています。政府支出、消費者向けサービス、AI関連の設備投資という3点ですが、今ではこれらがすべて減速しています。

    ここで厄介なのは、関税による打撃が絶えず変化していることです。問題は、ダメージを受けた市場心理が回復できるか否かです。すでに指摘されているように、市場はファンダメンタルズに先んじて動いてきました。そして、データに現れてきている景気減速の予測において、今回もコンセンサスを上回る成績をあげています。

    S&P500種指数やそのほかの主要な株価指数の下落はだれの目にも明らかですが、実は株式市場の本質がそれ以上に明確になっています。第1に、小型株のパフォーマンスはここ4年間、大型株のそれに対して明らかに劣る傾向にありました。端的に言えばこれは、高クオリティ銘柄への投資が成功を収めた時期でした。その理由はいわゆるK字経済や、政府支出のクラウディング・アウトによって総合的な景気指標が高めに出る状況など、弊社がもう何年も指摘してきたことに求められます。FRBはこの強さに促されて金利を高めに、それも米国経済の比較的弱い部分が回復するのに必要な水準よりも高く維持してきたのです。

    したがって金利が下がるまでは、この二極分化した景気と株式相場が続くことになりそうです。また、昨年秋にFRBが利下げしていたときに低クオリティのシクリカル株が短期間ながら力強い上昇を見せたこと、しかし利下げが12月で打ち止めになると急速に下落してしまったことも、これで説明できます。シクリカル株と小型株の劇的な調整は株価だけでなく、時間的にもかなり先行しています。多くの人が経済成長の減速を懸念するようになったのはつい最近のことですが、市場はそれを1年前に織り込み始めていたのです。

    また、株価の下落をより広い観点から眺めると、相場の調整がかなり進んでいることが示唆されます。しかし最終的にリセッションに陥るのであれば、あるいはそうなることへの不安が完全に織り込まれることになるのであれば、おそらく調整はまだ完全ではないということも浮かび上がってきます。株式投資家にとって最も重要な問題はやはりこれだ、と私はみています。そしてそれゆえに、リセッションに関するこの問題にもっと明快な答えが示されるか、あるいはFRBが昨年秋と同様に経済成長リスクをもっと積極的に回避する決断を下すまでは、S&P500種指数は5000~5500のレンジ内で乱高下しそうだと考えています。

    FRBはインフレリスクという制約があると話しており、リセッション入りのリスクが高まっていてもあえて金利を据え置く公算が大きいと思われます。また2022年に匹敵する下落に見舞われている分野も多く、セクター単位や業種単位においても類似したパフォーマンスで、レンジ内での乱高下が予想されます。結論を申し上げますと、株価はすでに大きく下げていますが、耐久性のある底に達したと結論付けるのは時期尚早です。政策には不確実性が残っており、企業の業績見通しも下方修正のトレンドに入っているうえ、FRBは利下げに動かず、長期金利が上昇しているためです。多くの個別銘柄については、すでに売り時を逃した感がありますので、相場が先週の底値を再度試す展開になりそうな来月や再来月にリスクを取りに行くことに注力すべきかもしれません。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • 弊社グローバル債券・公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、トランプ大統領が相互関税の発動を90日間停止したことによる影響について検討します。

    このエピソードを英語で聴く。

    トランスクリプト 

    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    グローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザス, 今回は、グローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、トランプ大統領が発表した相互関税90日間停止の影響についてお話します。

    このエピソードは4月9日 にニューヨークにて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    実は、本日は別のエピソードを企画しており、グローバル・チーフ・エコノミストのセス・カーペンターと私が、これまでの市場の展開をご説明し、考えられるさまざまな結果を取り上げることになっていました。言うまでもなく、トランプ大統領が予定していた関税引き上げのほとんどを90日間停止すると発表したことで、事態が一変しました。このため、弊社の考察をアップデートする必要が生じました。

    この1週間は金融市場にとってまさに未曾有のものでした。4月2日、新たな相互関税を4月9日に発動するとのトランプ大統領の発表を受け、市場の乱高下が始まりました。既発表の関税に加えて、追って発表された中国に対するさらなる関税上乗せも加われば、米国の関税率の平均値は確実に過去100年間に見られなかった高水準になります。

    米国が世界貿易の縮小に取り組み、これがリセッションにつながり、今後の潜在成長率が下振れするとの投資家の懸念を反映し、当然ながら、株式市場は乱高下を伴いつつ大幅に下落しました。債券市場も大きく圧迫される兆候を示しました。債券利回りは、経済成長に対する懸念を受けて低下するのではなく、上昇し始め、市場の流動性が悪化しました。依然、その正確な根拠を突き止めるのは困難ですが、言うまでもなく、株式市場と債券市場が一緒に動くのは健全な状態ではありません。

    そうしたなかで相互関税の発動が停止されました。トランプ大統領は、交渉が進められるように、新たな関税の大半について発動を90日間先送りすると発表しました。そして、中国に対する関税は100%を超える水準に据え置かれたにもかかわらず、この発表は株価を押し上げるには十分でした。S&P株価指数は発表当日におおよそ 約9%上昇しました。

    それでは、これらはすべて何を意味するのでしょうか?私たちもまだ考えているところですが、以下に、最初の要約と、数日後に答えを出すことが重要と弊社が考える疑問点を以下に 述べたいと思います。

    第1に、まだ対処しなければならない不確実性がたくさん残っているため、投資家は米国の政策リスクを無視することはできません。90日間の発動停止は維持されるのでしょうか?それとも単なる先送りで関税の引き上げは避けられないのでしょうか?そして、関税発動の猶予が維持されたとしても、市場はまだ景気減速とリセッションのリスク増大を織り込む必要があるのでしょうか?結局のところ、米国の関税率は1週間前に比べてまだ大幅に高い水準にあります。さらに、今回の市場急落と経済政策の急激な変更が、消費者や企業の信頼感に影響を与えた可能性があります。筆者は今週の出張で企業のリーダー達と長い時間時間を過ごしました。皆、この不確実性の下でどのように戦略的な意思決定を行なうか、苦慮していました。したがって、数週間後に発表される信頼感の指標を注視する必要があります。

    ノイズに混ざった1つのシグナルは中国に関するものです。具体的には、米国がサプライチェーンの安全保障改善と財の貿易赤字削減を望んでいるため、中国との交渉は難航すると見られ、最終的に他の諸国に比べて高い関税がより長期間続くと見られます。実際にそうした展開が進んでいる模様ですが、弊社が予想したよりも、速いペースでより厳しいものとなっています。このため、中国以外の諸国に対する関税の保留は維持されても、中国との貿易問題は続く見込みです。そして、こうした状況を巡るサプライチェーンの再編コストが、テクノロジー・ハードウェアおよび消費財といった重要な業種の重石になる可能性があり、これが引き続き市場の重石になると見られます。

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  • ファンダメンタルズの悪化によってクレジット市場のマクロ変動性に対する耐性が低下する中、コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツは、クレジット投資家にポートフォリオの質を見直すよう提案しています。

    このエピソードを英語で聴く。

    トランスクリプト 

    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツ.  

    本日の話し手は、コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツです。クレジット市場の足元における回復が一時的なものにとどまる可能性があり、これを機にクレジット・ポートフォリオの質を引き上げるべきと考える理由についてお話しします。

     このエピソードは3月28日 にロンドンにて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    市場が不安定なとき、心理的な要因による変動と、実質的な要因による本当の変動を区別し、それぞれの度合を解析することは常に難しい作業です。私の同僚で米国株式チーフ・ストラテジストのマイク・ウィルソンが今週皆様にお話した通り、米国株が売られ過ぎた可能性をいくつもの指標が示唆している現在、米国株式市場は足元で回復する可能性があると私たちは考えています。

    しかし、クレジット市場に関しては、回復は一時的なものにとどまると考えています。経済成長および物価トレンドが好ましくない方向へ向かう可能性があるなど、クレジット市場の中期見通しを取り巻くファンダメンタルズが年初予想とは異なる道筋を辿っているからで、こうした中、クレジット投資家は市場の一時的な回復を機に、ポートフォリオの質を引き上げるべきと私たちは考えます。

    少し前の2025年初頭、私たちは今より遥かに幅の広い経済シナリオを想定し、米国経済成長の2026年における本格的な減速を予想していました。どちらもクレジット市場にとって好ましい結果をもたらす見通しではありません。

    しかしその一方、私たちはそうしたリスクが浮上するまでに幾らか時間がかかるとも考えていました。実際、2025年に入った頃の米国経済にはかなりの勢いがあり、こうした中、米国政府が政策を変更したとしても、その影響が本格化し、実体経済の行方を変えるまでには時間がかかると私たちは見ていたのです。

     また、2025年初頭のクレジット市場には、魅力的な利回り、旺盛な需要、安定した財務指標など、追い風要因がいくつもありました。こうした追い風要因を踏まえ、私たちは今年初め、ほかの資産クラス市場のボラティリティが高まったとしても、クレジット市場のマクロ変動性に対する耐性はほとんど損なわれないと考えていました。

    しかし現在、ファンダメンタルズの悪化を背景に、クレジット市場のマクロ変動性に対する耐性は損なわれていると私たちは確信するようになりました。米国政府による政策変更が、私たちの予想以上に大規模かつ急速に進められているからです。そしてそれが一因となり、私たちの経済成長率、インフレ率、政策金利それぞれに関する予想は、どれもクレジット市場にとって不利な方向へと転じ始めました。すなわち、私たちは現在、今年初頭より低い成長率、高いインフレ率、少ないFRBによる利下げ回数を予想するようになったのです。予想をこのように変更したのは、私たちだけではありません。例えば最近発表されたFOMC経済見通しの最新版を見ると、FRBもこれまでより成長率予想を引き下げ、インフレ率予想を引き上げたことが分かります。

    一口で言えば、モルガン・スタンレーの経済予想は、私たちが考える困難なシナリオ、言い換えるなら、成長率が低下する一方でインフレ率が引き続き高い水準で推移する中、中央銀行が経済を支えるために利下げをためらうシナリオの実現可能性を高めているのです。

    成長率の低下、インフレ率の上昇、中央銀行の政策による支援の乏しさを見込む困難なシナリオが実現するリスクが高まれば、クレジット市場の最近の小幅下落を機にエクスポージャーを増やす、いわゆる押し目買いに対する投資家の意欲は損なわれます。ヴィシー・ティルパター→ビシュワス・パトカールが率いる米国クレジット・ストラテジー・チームの考えでは、こうした困難な環境を踏まえると、現在の米国投資適格債のスプレッドは「適正」な水準にあるに過ぎず、また、今後のリスク拡大を踏まえると、米国高利回り債および米国ローンのスプレッドは現在ややワイドな水準にあり、年末までこの水準をキープする見通しです。

    まとめるなら、クレジット投資家は現在、手元のドライパウダーをなるべく残すべく、押し目買いに走る衝動を堪えながら、ポートフォリオの質を高めることに注力すべきと考えます。

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  • 弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、先週のFOMCを踏まえた投資の見通しを検討し、株式市場が最近の調整から本格的に反発できるか予測する上で重要なシグナルを列挙します。

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    トランスクリプト 

    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン.

    今回は最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、最近の株価上昇と、それが持続可能な理由についてお話します。

    このエピソードは3月24日 にニューヨークにて収録されたものです。

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    先週のFOMC会合の結果に多くの市場参加者は安堵したようです。というのは、パウエル議長はFRBの使命において経済成長の重視を若干強め、インフレに対する懸念を重要視しなかったように見えたためです。FRBはまた、バランスシート縮小のペースを若干緩めることも決定しました。この展開は一部の予想より早いもので、FRBが必要に応じて行動する体勢にあることがうかがわれます。今後について見ると、現在、投資家の注目はもっぱら相互関税の発表が予定される4月2日に集まっています。これがカタリストとなって関税の税率や対象となる国や製品の範囲が一段と明確になる可能性はありますが、これですべてが決まるのではなく、むしろ関税交渉の出発点になると弊社は考えています。要は、労働市場が大幅に軟化するか、クレジットおよび資金調達市場が一段と不安定になる必要があるとは見られるものの、FRBプットは、トランプ・プットよりもイン・ザ・マネーに近いように見えます。

    これまでのところ、DOGEによる人員削減は、新規失業保険申請件数や全体の失業率といった指標にはほとんど影響を与えていません。大半に解雇手当が支給されるため、職員のレイオフから失業者として表われるまでに時間がかかる可能性もあります。労働市場に関するより重要な疑問は、最近の株価下落、信頼感の低下および経済や貿易の不透明感の強まりが、民間部門のレイオフにつながるのかどうかです。弊社エコノミストの基本ケースでは、こうした要因が今年は失業サイクルにはつながらないと想定しています。しかし、雇用者数、失業保険申請件数および失業率は、今後の見解にとって極めて重要な、注視すべき情報とみています。

     通常通り、S&P 500株価指数だけを見たのでは、株式市場の調整の度合いを完全に説明することにはなりません。先週申し上げたように、株式市場は2022年の弱気相場と同じ程度の売られ過ぎになりました。これが底なのか、それともより厳しい状況の始まりなのでしょうか?経験から申し上げますと、株価のモメンタムが底にある局面で、ボラティリティが終息することは稀です。ただし、こうした状況から力強く上昇する可能性もあります。これが、3月13日にS&P 500が上期の予想取引レンジの底である5,500ポイントをつけた時に、弊社が上昇の始まりを予想した理由です。その後これまでに、より低クオリティ、高ベータの銘柄が先行する形で株価は反発してきました。目先はこれが持続し得ると弊社は見ています。ただし、去年 昨年11月以降低調な業績修正を考慮し、中期的にはよりクオリティの高い銘柄をポートフォリオの中核とするのが良いとの見解に変わりはありません。

    より具体的には、米国の業績予想修正の主な平均値は1年を通じてまだマイナスにとどまっており、底入れの兆しは見られません。しかし、水面下では業績予想修正トレンドに興味深い変化が見え始めています。その最も顕著な変化は、急激に低下したマグニフィセント7の業績予想修正が、下げ止まったように見えることです。これにより決算発表シーズンを前に、目先、超大型株のアンダーパフォーマンスに歯止めがかかり、2週間前から弊社が予想しているように、S&P 500の下げ止まりに寄与する可能性があります。

     これはまた、資金の流れを米国に呼び戻す一因になる可能性があります。米国株式市場をリードしていた高クオリティ銘柄がアンダーパフォームし始めたことが、海外に資金がシフトした一因であると弊社は見ています。したがって、このグループが相対的に力を取り戻せば、ローテーションは米国株に戻るでしょう。

     さらに、ドル安によって、欧州企業と比較した相対的な米国の業績下方修正トレンドが反転する可能性があります。昨年末時点では、弊社が直前予想したように、第4四半期決算発表において、大幅なドル高が相対的な業績予想修正の逆風になっていました。これが第1四半期決算の発表では追風に転じ、少なくとも一時的に米国株に資金が戻る可能性があります。

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  • 不安定なマクロ経済の中でもクレジット市場が堅調さを維持してきた理由と、堅調なクレジット市場を支える土台を損ない得る要因やシナリオについて、チーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパターがお話しします。

    このエピソードを英語で聴く。

    トランスクリプト 

    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    チーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパター.  

    本日の話し手は、チーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパターです。ほかの資産市場が不安定に推移する中でもクレジット市場が堅調さを維持している理由と、クレジット市場の先行きに関する自身の見解についてお話しします。

    このエピソードは3月18日 にニューヨークにて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    政策を巡る不確実性が今なお高まっていることに 、また、パッとしないソフトデータが相次いで発表される中、市場センチメントは大統領選挙後の高揚感とアニマルスピリットに溢れたユーフォリア状態から急速に冷め、今では米国経済のダウンサイドリスクに対する懸念が広がっています。しかし、異なる資産市場が発信するシグナルは一様ではありません。

    例えば、わずか数週間前に史上最高値を更新したS&P 500は現在、大統領選挙後の上昇分をすべて失っただけでなく、選挙前を下回る水準へと落ち込んでいます。また、米国債市場も激しく変動し、セルオフで40bp【ベーシスポイント】上昇した利回りは、その後のラリーで60bp以上低下しました。しかし、株式および金利市場のボラティリティが著しく高まったのに対し、クレジット市場はほとんど動きませんでした。言い換えるなら、クレジットは現在のところ、低ベータ資産であると見做すことができます。

    マクロ変動性に対するクレジット市場のこうした耐性は、確たる裏付けに支えられており、私たちがクレジットに対して長らく持ち続ける前向きな見解を後押しするものです。私たちは、2024年のクレジット市場を支えた要因、例えば、クレジット市場の堅調なファンダメンタル要因や、スプレッド水準ではなく、全般的に高い利回り水準に牽引された投資家のクレジット需要などといった要因の多くは、これからも引き続くと予想して来ました。また、私たちは、2025年の米国経済成長率が大凡 約2%へといくばくか減速すると予想していますが、これがクレジット投資家の強気スタンスを維持するのに十分な水準であると考えております。実際、私たちが予想した通り、こうした要因は最近までクレジット市場を支え続けていました。しかし、堅調なクレジット市場を支えてきたこうした要因のいくつかが、最近になって変化し始めました。こうした中、クレジット市場に対する私たちの前向きなスタンスに変わりはないにせよ、クレジットの低ベータ特性の持続性にまつわる疑問が広がっていることも事実です。

     私たちは以前、2025年の経済および市場を牽引する主なドライバーは、政策が実施される順番と、政策が経済におよぼす影響の度合になると考えていました。その考えに今も変わりはありませんが、抑制的な政策、特に関税政策が私たちの予想より遥かに急速かつ広範囲に実施されていることも確かです。こうした中、政策動向が発信する様々なシグナルを総合し、米国エコノミスト・チームは2025年と2026年の実質GDP成長率予想をそれぞれ1.5%、1.2%へと引き下げました。

     クレジット市場の観点から見ると、エコノミスト・チームのGDP予想はリセッションを想定していないと私たちは考えます。チームの予想通りなら、米国経済は私たちが考えるクレジット市場のコンフォート・ゾーンの下限に向かって悪化しながらも、クレジット・フレンドリーな領域にとどまると考えることができるからです。一方、チームの経済成長予想引き下げがもたらすプラス面を見ると、成長減速はアニマルスピリットを抑え、社債供給量を引き続き制約するなど、クレジット市場にとって追い風となるテクニカル要因を支えます。また、米国債利回りは上昇しましたが、全般的な利回りは、利回りを動機にクレジットを購入するバイヤーの需要を支える水準に依然としてあります。

     とは言え、成長懸念が私たちの予想を上回るレベルへと高まった場合、ソフトデータの軟調さがハードデータでも目立つようになると共に、市場は平均を上回る確率でリセッション入りする可能性を見込むようになると考えます。そうなれば、これまで見られたクレジットの低ベータ性は損なわれ、リスク資産市場のさらなる落ち込みと共にクレジットのベータ特性は高まる可能性があります。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェア

  • 弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、今回の株式市場の急落と、反騰が期待できるかどうかについて解説します。

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    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン.

    今回は、最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、最近の株式市場の調整と次に何が予想されるかについて解説します。

    このエピソードは3月17日 にニューヨークにて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    米国の主な株価指数は、2022年以降で最も大幅な売られ過ぎになっています。センチメントやポジショニングの指標は弱気になっており、業績修正や株価の季節要因による改善は3月後半に入ってからとなります。さらに、このところのドル安は、特に4Q決算と比較すると、1Q決算発表シーズンと2Qガイダンスの追い風になるはずです。また、金利の低下は景気の上振れに寄与すると見られます。要約すると、最も大きく売り浴びた、よりクオリティが低く、ベータ値が高い銘柄が先行する上昇局面では、S&P 500が5,500ポイントの水準がサポートになるとの弊社見解を私も支持しています。このラリーは3月14日に始まったように見受けられます。

    より重要な疑問は、こうした上昇がより持続力のあるものとなって、年初来のボラティリティに終止符が打たれるのかどうかです。簡単に言ってしまえば、恐らくそうはならないでしょう。

    第1に、テクニカルの視点で見ると、主な株価指数は大きなダメージを受けています。それは、去年 昨年夏のような、10%の調整より大きいものです。より具体的には、S&P 500、NASDAQ 100、Russell 1000のグロースおよびバリュー・インデックスは、軒並みそれぞれの200日移動平均を一気に下回っており、200日移動平均は支持線ではなく、抵抗線になっています。その一方で、多くの銘柄に20%近い調整が入っており、よりクオリティが低いRussell 2000は2022年の弱気相場以降で初めて200週移動平均を割り込んでいます。少なくとも、こうしたテクニカルなダメージを修復するには、株価指数のレベルでさらなる下落がない場合でも、時間がかかると見られます。

    より広範な持続的回復を予測するためには、今回の調整の真の原因を認識することが重要です。筆者と機関投資家との会話に基づくと、新政権による関税やその他の矢継ぎ早に発表される政策が大いに注目されているようです。こうした要因はセンチメントや信頼感の重石になっていますが、今回の調整は12月に他の要因によって始まりました。

    弊社の向こう1年の見通しでは、いくつかの理由から今年前半はより苦戦すると予想しました。第1に、バリュエーションの面でも、12月初めがピークとなった業績修正など主なマクロ経済とファンダメンタルズのドライバーと比較しても、株価は無理な水準にありました。第2に、FRBはそれまでの3ヵ月間に100ベーシスポイントの積極的な利下げを実施した後、12月半ばに金利を据え置きました。第3に、今年はAI向け設備投資の伸びが減速すると弊社は予想していました たが、今後投資家はDeepSeekを巡る展開も考慮する必要があります。さらに移民法の執行、政府効率化省(DOGEドージ)の予想を上回る施策、そして関税を考慮すると、成長に対する期待がマルチプル低下という形で株式に痛手を与えているのも意外ではありません。

     既に述べたように、12月に弊社はこうした景気に対する逆風に注目し、2025年前半のS&P 500のレンジを5500から6100ポイントとして、クオリティの高い大型株を選好してきました。加えて、最近になってトランプ大統領は、目先、自身の政策とアジェンダの指標としては株式市場を重視していないと示唆しました。恐らく他の何よりもこのことが直近のS&P 500のテクニカル指標の崩壊につながったと見られます。

    トレーディングが可能なラリー以上のものになるためには、単なる売られ過ぎ以外の条件が必要と見られます。業績修正は最も重要な変数であり、ある程度季節要因による力強さや下げ止まりが見られる可能性はありますが、業績修正の上昇トレンドが再開するのは数四半期先になると弊社は考えています。弊社の見通しで述べたように、減税、規制緩和、クラウディングアウトの抑制、利回りの低下といった成長に好影響を与える政策変更は、今年後半も押し迫ってから実現する可能性があります。しかし、現在の株式市場が織り込むのは早過ぎると思います。

    最後に、トランプ・プットは存在しないようですが、FRBプットは健在であると弊社は見ています。しかし、そのためには、労働市場をはじめとする経済成長か、クレジットや資金調達市場の状況が悪化する必要があるでしょう。いずれにしても、当初は株価にとってプラスになりません。

     結局、弊社の目標レンジの底である5500ポイントからの短期的な上昇は、3月14日金曜日の値動きを受けたものである公算が強まっています。加えて、今回の上昇では、よりクオリティが低い銘柄が先行しています。このことは、成長に対する無数の逆風が反転するか、金融政策が再び緩和されるまでは、現在のラリーが高値の更新につながるとは考え難いと見る筆者の副次的見解を支持する形になっています。政府に大きく依存する経済から、民間主導の経済への移行は、最終的には多くの銘柄に好影響を及ぼすはずです。しかし、そこに至るまでには時間がかかり、道程は平坦ではないと見られます。

     最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • 米国の政策が予測できないことを受けて株式市場が乱高下する一方で、社債市場は同じ状況への反応に比較的時間がかかっています。このようなとき、投資家は経済成長のデータなどほかの指標にも目を向けておく必要があることを、弊社のコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがお伝えします。

    このエピソードを英語で聴く。

    トランスクリプト 

    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツ.

    今回は弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、株式市場と社債市場が互いの動きからどの程度の安心や懸念を感じるべきなのかについてお話します。

    このエピソードは3月14日 にロンドンにて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    米国の経済政策をめぐる不確実性の高まりを受けて市場が乱高下するなか、社債が値(ね)を下げました。しかし、まだアウトパフォームしていることは明らかでしょう。社債市場は昨今の報道への反応に比較的時間がかかっており、その大きさもはるかに小幅です。たとえば米国株式市場は、S&P500指数で言えば大凡 約10%下落していますが、格付けが比較的低い社債で構成される米国ハイイールド債指数は1%ほどしか下がっていません。

    株式投資家はこの社債の底堅さをみて、どの程度安心するべきなのでしょうか。そして、仮に社債が下落してこの株価の弱さに追い付くとしたら、つまり「キャッチアップ」ではなく「キャッチダウン」するとしたら、その原因は何が考えられるでしょうか。

    こうした疑問について考えるには、今日の市場で見られるボラティリティや下落の背景にあると思われる、3つの異なるストーリーから検討するのが有効でしょう。

    第1に、米国の関税政策は発動と延期という「オン・オフ」の切り替えが多く、企業マインドと取引が減退してしまっています。おかげで企業はアニマル・スピリッツの主要な源泉から切り離され、株価上昇の可能性も乏しくなっています。

    第2に、これは第1のストーリーにも少し関係するのですが、株価の上値余地の縮小により、少し前まで最高のパフォーマンスを見せていた多数の銘柄への熱意が衰えています。これらの銘柄の多くは保有している投資家の数も多く、以前作られたポジションの縮小に連れて株価が乱高下したり、売却を余儀なくされたりしています。

    そして第3に、企業や消費者の景況感の悪化はいずれ実際の支出にも波及する。すると経済成長が鈍化したり、下手をすれば景気後退に陥ったりする可能性が高くなるという懸念が強まってきています。

    この1ヵ月半に多くの社債で見られた底堅さの原因は、この資産クラスが3つのストーリーの最初の2つに比較的落ち着いた、適切な反応を示していることに求められると私はみています。企業マインドの悪化は株式市場にとっては問題かもしれませんが、資金の貸し手の立場から見れば、借り手がその分保守的になるから特に問題ないという場合もあり得ます。また、これに少し関係しますが、株価が高値圏にある人気銘柄の急落もそれほど問題ではありません。そうした企業の多くは、社債市場を司る発行体とは全く異なる顔ぶれであるからです。

    しかし、3つ目のストーリーは大きな問題です。社債は景気の大きな変化に極めて敏感に反応します。弊社が先日行った米国経済成長率予想の下方修正、主要なコモディティの値下がり、国債の利回り低下、そして景気変動に敏感な小型株のアンダーパフォーム。これらはすべて、経済成長悪化のリスクが高まっている兆候になり得る現象です。社債市場はこうした要因にいま、遅まきながら反応しているのです。

    では、それは何を意味しているのでしょうか。

    弊社ではまず、株式投資家が社債市場にちらりと目をやり、その底堅さを見て「これなら大丈夫だ」と思ってしまう恐れはないかと危惧しています。先ほどお話しした株価下落の3つのストーリーのうち最初の2つ――すなわち、アニマル・スピリットが発揮される可能性の低下と、売買が多数の同じ銘柄に集中して市場全体の株価が下がっていることは――社債市場とは関係がありません。したがって、これらのリスクについて安心感を得るためには、ほかの指標に目を向けるべきだと考えます。

    次に気になるのは逆方向からのリスク、すなわち社債市場が株式市場に追いつく、もう少し正確に言えば株式市場に追随して下落するリスクのことです。これには3つ目のストーリーである経済成長がからんできます。経済成長率のデータが持ちこたえるなら、オール・イン利回りは依然良好ですから、比較的小幅な反応を示したのは正解だったと社債投資家は感じることになるでしょう。しかし経済成長のデータが悪化すれば、社債のリスクは急激に大きくなります。弊社の米国担当エコノミストのチームが考えているように、米連邦準備制度理事会(FRB)が市場で期待されているペースでの利下げに苦労する恐れがある場合は、特にそうなります。

    したがって、経済成長が非常に重要であること、そして弊社が継続的に推計している米国の経済成長率が足元で悪化していることから、相場が底を打ったと考えて社債に買い注文を入れることは時期尚早だと弊社では考えております。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。

  • インド経済の回復を示す初期的徴候とインドが域内で最も成長が見込まれる理由を弊社アジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが解説します。

    このエピソードを英語で聴く。

    トランスクリプト 

    「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。

    本日は、インド経済の回復を示す初期的徴候とインドが域内で最も成長が見込まれる理由をアジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが解説します。

    このエピソードは3月13日 に香港にて収録されたものです。

    英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。

    投資家はここ数カ月間、インドの成長シナリオを疑っています。最近のインドの成長鈍化は、投資家と弊社の不意を突く、予想外のものでした。しかし、今になって改めて考えると、この成長鈍化は財政と金融の両方の引締めという予想外の出来事が原因であることは明らかです。

    ただ、インドは回復に向かっていると見られます。最近の経済データには景気回復の兆しがすでに現れています。そして回復の足取りは今後数カ月間で徐々にしっかりとしてくるでしょう。では次に、弊社がインドの見通しをこれほど確信している理由を述べます。

    現在の基調の背景にはいくつか重要な要素が見られます。

    そのひとつは、成長を支える財政政策への回帰です。政府は道路や鉄道などのインフラプロジェクトに力を入れており、ここ数カ月は成長が目立って加速しています。また、25年4月から個人所得税が引き下げられます。

    2番目に、金利、流動性、規制の各面での金融政策の緩和です。最近の消費者物価指数は3.6%と目標を下回っており、中央銀行は金融緩和を継続すると弊社は見ています。

    そして3番目に、食料品の価格上昇が落ち着いて、その結果、実質的な家計所得の増加が見込まれることです。

    そして最後に、サービス輸出の強さです。サービス輸出にはITサービスが含まれ、中でもビジネスサービスが徐々に増えています。実際、インドはコロナ禍後にビジネスサービスの輸出が非常に力強く伸びました。その大きな理由は、コロナ禍を経て、自宅で仕事ができるならばバンガロールでも出来ることに企業が気づいたためです。インドのサービス輸出は20年12月以降2倍近くに増えており、その成長ペースは財輸出の40%を超えています。その結果、1月のサービス輸出は年間ベースで4,100億ドルに達し、財輸出の4,300億ドルに迫る勢いです。また、インドはサービス輸出でシェアを伸ばし続けており、現在では世界全体の4.5%を占め、20年の4%から上昇しています。

    もちろん、リスクはあります。インドは対米貿易で大幅な黒字を計上しており、米国からの一部の輸入品に対して高い関税を賦課しているため、報復関税を課されるリスクに直面しています。ただ、弊社の予想では、今年9月か10月には米国との貿易協定を締結できるでしょう。

    いずれにせよ、インドのGDPに占める財輸出の比率は域内で最低です。そのため、不透明な関税のために世界貿易が減速したとしても、インド経済が受ける影響は他国ほど深刻ではないでしょう。つまり、インドは域内の諸国をアウトパフォームする可能性があるということです。

    最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。