Avsnitt

  • 離れていても、家族の絆は変わらない——
    そう信じていても、やはり時間の流れは、少しずつ私たちを変えていきます。

    後編『花火/食卓の愛』では、夢を叶えた娘と、そんな娘を支え続けた父の再会が描かれます。
    父の言葉に背中を押され、東京で新たな人生を歩む娘。
    それでも、彼女の心のどこかには、いつも「帰る場所」のことがあったのかもしれません。

    夏祭りの賑わいの中で、ふと感じる懐かしさ。
    屋台の金魚すくいに、小さな頃の思い出がよみがえる——
    そんなとき、そっと差し伸べられる大きな手。

    本作のクライマックスを、どうぞ最後までお楽しみください

    【登場人物】

    ・女性(5歳/8歳/25歳)・・・子供の頃から夏祭りが大好き、雷が超怖い、3歳からクラシックバレエを習い10歳でソリスト。パリ・オペラ座バレエ学校へ入学し発表会ではプルミエ・ダンス―ルまで上り詰めた。その後パリ・オペラ座バレエ入団のオーディションは辞退。現在は東京のバレエ団で子供たちの育成に心血を注いでいる(CV:桑木栄美里)

    ・男性(45歳/48歳/65歳)・・・遅くに生まれた末娘を溺愛。娘と一緒に夏祭りへ行くことが一番の楽しみだった。娘がパリへ行ってからは娘の帰郷を心待ちしている。ストーリーは前編後編で交錯します(CV:日比野正裕)

    <シーン1/娘5歳/花火大会にて>

    (SE〜遠くに聞こえる花火の音)

    娘: 「パパ、早く早く!」

    父: 「そんなに急がなくても、花火はまだおわらないよ」

    娘: 「でも、少しでも近くで見たいんだもん」

    父: 「ようし、じゃあ堤防までスキップだ!」

    ◾️BGM(イメージ)/ルージュの伝言(荒井由実)

    娘: 父に手をひかれた5歳の夏。

    いつも家ではつま先歩きをしているけど、今夜は特別。

    目の前で花火を見たいからついつい早足になる。

    (SE〜花火の音/より近く)

    娘: 「わあ〜」

    父: 「きれいだねえ」

    娘: 「うん、おっきなまんまる」

    父: 「折りたたみの椅子、持ってきてよかったな」

    娘: 「もっと下の方へいきたい」

    父: 「土手の方かい?」

    娘: 「うん」

    父: 「いいけど、椅子は安定しないから、草の上に座ろうか」

    娘: 「やったあ」

    (SE〜土手を降りていく音)

    娘: 「よいしょっと」

    (SE〜花火の音)

    父: 「すごい迫力だな。火の粉が降ってきそうだね」

    娘: 「パパ、おひざに座ってもいい?」

    父: 「どうぞ」

    娘: 私は父の膝の上に腰をおろし、胸にもたれながら

    大迫力の打上花火を楽しんだ。

    クライマックスはスターマインと尺玉の競演。

    二人とも夜空を見続けて首が痛くなってしまった。ふふふ。

    <シーン2/娘8歳/バレエ教室にて/花火大会の日>

    (SE〜遠くに聞こえる花火の音/ダンススタジオのレッスン)

    娘: それから3年後。8歳の夏。

    窓の向こうには、大輪の花火が夜空に広がっている。

    花火大会の日、私はバレエ教室でレッスンを受けていた。

    バレエのコンクールは夏におこなわれることが多い。

    コンクールに向けたレッスンで毎日のようにバレエ教室へ通っていた。

    そもそもクラシックバレエを習いたいと言い出したのは私。

    私には、3歳の頃からバレエダンサーになりたいという夢があった。

    ママに連れていってもらったバレエの舞台を見て

    すっかり夢中になっちゃんたんだ。

    演目は有名な「白鳥の湖」。

    でも私が魅せられたのは、白鳥のオデットではなく、黒鳥。

    ライトを浴びる黒鳥オディールの怖いほどの美しさ。

    回り続ける漆黒の煌めきから目が離せなくなった。

    このときから、私の夢はいつかファーストソリストになって

    黒鳥を舞うこと。

    花火大会も夏祭りも大好きだったけど、それよりも夢を優先した。

    若干8歳の女の子が。

    ちょうど花火大会が終わる頃。

    私は、バレエ教室の先生から声をかけられた。

    ”パリのオペラ座バレエ学校を受けてみない?”

    パリ・オペラ座バレエ学校。

    世界一の水準と言われるパリ・オペラ座バレエ団に入る

    多くのダンサーはここへ通う。

    そうか。確か8歳から入学は可能だ。

    しかも国籍に関係なく、優れたダンサーであれば誰でも応募できる。

    もちろんすごい競争率に勝たないといけないけど。

    柔軟性、筋力、スタミナも含めた身体的能力が求められる。

    ”私の身体能力なら大丈夫”

    なぜか、先生は太鼓判を押してくれた。

    「行きたい」

    だけど、だけど、パパやママと離れるのは絶対にいや。

    8歳の小さな心は葛藤した。

    <シーン3/娘8歳/網戸から風が入ってくる>

    (SE〜セミの声と風鈴の音)

    娘: 「パパ、オペラ座バレエ団って知ってる?」

    父: 「なんだい、それ?」

    娘: 「すごく有名なバレエ団なの。学校もあるのよ」

    父: 「へえ」

    娘: 「バレエの先生がね。その学校を受けてみたらって?」

    父: 「ほう、いいじゃないか」

    娘: 「でも、パリって遠くない?」

    父: 「パリ!?」

    娘: 父は口をあけたまま言葉が続かなかった。

    変な顔をして不自然に笑っている。

    そりゃそうよね。

    いきなり8歳の娘がパリへ行くなんて言ったら。

    食卓は家族が集まって今日あったことを話す場所。

    私最近、学校のことより、バレエの話の方が多いかも。

    食卓の端っこにちょこんと置かれた金魚鉢。

    中には紅白模様の金魚が7匹泳いでいる。

    大きさは大小さまざま。

    この5年の間に、夏祭りの屋台からすくってきた私の戦利品だ。

    1匹も死ぬことはなく父が大切に育ててくれている。

    娘: 「すっごく考えたんだけど、私ね」

    父: 「うん」(※つばを飲む)

    娘: 「いかないよ」

    父: 「え?」

    娘: 「パパとママと、離れ離れになるのなんて絶対にいや!」

    父: 「そ、そうか・・・」

    娘: パパ、ごめんね。

    今はいかないけど、いつか、私行くと思う。

    ママは教室の帰り道で

    ”一緒に行こう”

    って言ってくれた。

    私はホッとするパパの顔を見ていると

    幸せな気持ちになって口元がほころんだ。

    <シーン4/場面転換/娘12歳/空港にて>

    (SE〜飛行機の離陸音)

    娘: 結局、その4年後に私はパリへ旅立った。

    受かるとは思ってなかったけど

    パリ・オペラ座バレエ学校のオーディションに合格しちゃったんだ。

    ママはすぐにパリのアパルトマンを借りてくれた。

    私は18歳までレッスンしながらキャリアを積む。

    パパ、ちゃんとお盆とお正月には帰ってくるから。

    ごめんね。ごめんね。

    <シーン5/娘25歳/東京のバレエ教室にて>

    (SE〜遠くに聞こえる花火の音/ダンススタジオのレッスン)

    娘: 25歳の夏。

    子供たちにバレエを教えながら、ちらっと窓を見る。

    あの日と同じように、ガラス越しの夜空に花火が上がっている。

    私は、パリ・オペラ座バレエ学校を18歳で卒業したあと

    オーディションを受けてパリ・オペラ座バレエ団に入団した。

    プルミエ・ダンスールとなり念願の黒鳥を舞ったのは、20歳の夏。

    夢を叶えた私は、もう何も思い残すことはなく帰国した。

    (なのに、地元へは帰らず東京にいる。

    それは、パパのこの言葉があったから)

    父: 「オペラ座バレエ団であんな素晴らしい舞台にたったダンサーが

    こんな田舎にいちゃいけないよ」

    娘: パパの言葉に背中を押されて、私は東京へ。

    有名なバレエ団が運営するバレエ教室で子供たちを教えている。

    やがて花火大会が終わった。

    地元の花火大会の方がすごかったな・・・

    パパ・・・

    <シーン6/娘25歳/八幡神社の夏祭り>

    (SE〜祭り囃子と雑踏)

    娘: 来ちゃった。

    パパいるかな、と思って直行で夏祭りへ。

    そんな都合のいいこと、ないよね。

    神社は相変わらずすごい人。

    灯篭に灯のともった参道を歩くと・・・

    あ、金魚すくい。

    その10分後。

    私の左手には金魚が1匹入ったビニール袋が揺れていた。

    このあと、どうしようかな・・・

    いきなり帰ったら、パパもママもびっくりするよね・・・

    もう少しお祭り見ていこうかな・・・

    そう思った瞬間、私の右手を大きな手が包み込んだ。

    父: 「おかえり」

    娘: 「パパ!」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    娘: そのあとは、もう言葉にならなかった。

    父も同じ思いだったに違いない。

    かろうじて、しぼりだした言葉は、

    父: 「そろそろ帰ろうか」

    娘: 「うん」

    父: 「今まであったこと、いろいろ話してくれるだろ?」

    娘: 「うん」

    あの食卓で。

    早く家に帰って、食卓に座りたい。

    ずうっと開けていてくれている、私の場所へ。

    「ただいま」

  • 幼い頃の夏祭りの思い出を覚えていますか?
    屋台の光、響き渡るお囃子、夜空を彩る花火——そんな情景の中に、大切な人との思い出が詰まっているのではないでしょうか。

    本作『夏祭り/食卓の愛』の前編では、幼い娘と父の、夏祭りを中心とした心温まる日々を描きます。
    バレエに打ち込む娘と、そんな娘を見守る父。
    そして、いつか訪れる「旅立ち」の瞬間。

    家族の絆は、離れてもなお続いていくもの。
    けれど、だからこそ「食卓」の温もりがどれほど大切なのか、改めて気づかされます。

    この物語を読んで、誰かと過ごした大切な時間を思い出していただければ幸いです

    【登場人物】

    ・女性(5歳/8歳/15歳)・・・子供の頃から夏祭りが大好き、雷が超怖い、3歳からクラシックバレエを習い10歳でソリスト。パリ・オペラ座バレエ学校へ入学し発表会ではプルミエ・ダンス―ルまで上り詰めた。その後パリ・オペラ座バレエ入団のオーディションは辞退。現在は東京のバレエ団で子供たちの育成に心血を注いでいる(CV:桑木栄美里)

    ・男性(45歳/48歳/55歳)・・・遅くに生まれた末娘を溺愛。娘と一緒に夏祭りへ行くことが一番の楽しみだった。娘がパリへ行ってからは娘の帰郷を心待ちしている。ストーリーは前編後編で交錯します(CV:日比野正裕)

    ■資料/バレエダンサーの階級

    https://www.noaballet.jp/knowledge/term/%20prima.html#:~:text=バレエ団に所属し,とどんどん上がってきます。

    【Story〜「夏祭り/食卓の愛/前編」】

    <シーン1/娘5歳/バレエ教室の帰り道〜夕立>

    (SE〜雷の音/夕立の雨)

    娘: 「きゃあっ!」

    (SE〜雨の中早足で歩く足音/玄関の扉を開いて閉じる音)

    娘: 「雷こわいよ〜!!」

    父: 「ようしよし、こわかったね。

    よくがんばった、えらいぞ。

    もう大丈夫。

    パパがついているから」

    娘: 「パパ!大好き!!」

    ◾️BGM(イメージ)/やさしさに包まれたたなら(荒井由実)

    父: 5歳の娘が私の胸に飛び込んでくる。

    2年前から習い出したバレエ教室。

    その帰り道で突然の夕立にあってしまったらしい。

    泣きながら、妻のデニムジャケットに顔をうずめて帰ってきた。

    娘: 「カミナリ、もういなくなった?」

    父: 「うん、どっか行っちゃったよ」

    娘: 「ああ、よかったぁ」

    父: 「さ、もう心配ないから夕ごはんrr を食べよう。

    食卓に座って」

    娘: 「はあい」

    父: 「今日は、おまえの大好きな卵焼きだぞ」

    娘: 「やったぁ!」

    父: 「今日のバレエ教室のこと、パパに教えてくれる?」

    娘: 「うん。また先生に褒められちゃった」

    父: 「そりゃすごいな」

    娘: 「ワタシのタンデュがとってもキレイだって」

    父: 食卓に座り、バレエ教室の様子を楽しそうに話す娘。

    先ほどまでカミナリで取り乱していたのが嘘のようだ(笑)

    妻は、娘の横で何も言わずに微笑んでいる。

    まるで、絵に描いたような、幸せなひととき。

    食卓は家族の絆の象徴だった。

    <シーン2/八幡神社の夏祭り>

    (SE〜祭り囃子と雑踏)

    娘: 「パパ、牛串とパイン串食べたい!」

    父: 「あれ?さっきも食べてなかったけ?」

    娘: 「いいの!夏祭りなんだから」

    父: 浴衣姿の無邪気な笑顔が夜店の間をかけていく。

    妻も私もついていくのに必死だ。

    娘: 「早く早く!」

    父: 「走っちゃ危ないよ」

    娘: 「わかってる〜」

    父: 家の近くの八幡神社。

    参道に並ぶ灯篭に灯りがともり、屋台が軒を連ねる。

    ヨーヨー釣り、金魚すくい、輪投げ、射的、千本つり・・・

    娘は2本の串を両手に持って、あっちの屋台からこっちの屋台へ。

    帰り道、私の右手には2匹の金魚が泳ぐビニール袋。

    妻の左手に揺れているのは、白地に赤い模様のヨーヨー。

    両手をつなぐ娘の顔には、少女アニメのお面が笑っていた。

    <シーン3/娘8歳/網戸から風が入ってくる>

    (SE〜セミの声と風鈴の音)

    娘: 「パパ、オペラ座バレエ団って知ってる?」

    父: 「なんだい、それ?」

    娘: 「すごく有名なバレエ団なの。学校もあるのよ」

    父: 「へえ」

    娘: 「バレエの先生がね。その学校を受けてみたらって?」

    父: 「ほう、いいじゃないか」

    娘: 「でも、パリって遠くない?

    8歳から入学できるからって」

    父: 「パリ!?」

    父: 驚く私の隣で妻が頬を緩める。

    娘8歳の夏。

    なんか知らないうちに大きくなったものだ。

    食卓で今日あったことを話す娘。

    この頃、学校のことより、バレエの話の方が多くなってきた。

    食卓の端っこにちょこんと置かれた金魚鉢。

    中には紅白模様の金魚が7匹泳いでいる。

    大きさは大小さまざま。

    この5年の間に、祭りの屋台から娘がすくってきた戦利品だ。

    娘: 「すっごく考えたんだけど、私ね」

    父: 「うん」(※つばを飲む)

    娘: 「いかないよ」

    父: 「え?」

    娘: 「パパとママと、離れ離れになるのなんて絶対にいや!」

    父: 「そ、そうか・・・」

    父: 安心すると同時に、

    なんだか娘の夢の足枷になっているような気がして心が落ち着かない。

    妻の笑顔を見ていると、

    ”背中を押してあげなさい”

    と言っているように思える。

    私の心中を知らない娘は無邪気に笑っていた。

    <シーン4/場面転換/娘10歳/空港にて>

    (SE〜飛行機の離陸音)

    父: 結局、その2年後に娘はパリへ旅立った。

    なんと、パリ・オペラ座バレエ学校のオーディションに合格。

    妻と二人でパリのアパルトマンを借りた。

    18歳までレッスンしながらキャリアを積むのだそうだ。

    とにかく、体だけは壊さないように。

    父の願いはそれだけだった。

    <シーン5/八幡神社の夏祭り/娘15歳>

    (SE〜祭り囃子と雑踏)

    父: 妻と娘が旅立ってからはや5年。

    盆や正月くらいは帰ってくると思っていたけど

    なかなかまとめて休みをとれないようだ。

    世界的なパンデミックもあって、

    顔を見られないまま5年が経ってしまった。

    もちろん、いつもTV電話の画面越しには顔を見ているけど。

    2人がいなくなったあとも

    私は毎年、夏祭りに足を運んでいる。

    いや別に感傷にひたるとかそんなんじゃなくて、

    子供の頃から縁日が大好きなんだ。

    でもrrtt参道を歩くと、

    どうしても娘と歩いたあの日を思い出してしまう。

    男親っていうのは、きっとみんなそうだろう。

    大切な人と離れ離れになるとこうやって恋々とする。

    右手にはビニール袋に入った金魚が1匹。

    私は、毎年金魚すくいで1匹ずつ金魚をとってきた。

    この子たちは大切に育てないと。

    娘が帰ってきたとき、増えている金魚を見つけて驚かせたい。

    それだけで口元が緩んでしまう。

    私はなるべく金魚の袋を揺らさないように参道をゆっくりと歩いた。

    鳥居のところまで来たとき、なにかが左手に触れた。

    娘: 「パパ!」

    父: 「うん?」

    娘: 「ただいま!Je suis à la maison(ジャ・シザ・ラ・メゾン)」

    父: 「あ・・・」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    父: 娘の右手が私の左手を握っていた。

    その横で妻が愛おしそうにうなづく。

    娘: 「帰ってきたよ!」

    父: 「お、おかえり!rは、早かったな」

    娘: 「正確にはね、一時帰宅。学校からまとまった休みをもらったの」

    父: 「そうか、よかったな」

    娘: 「パパ、褒めて!

    今度の発表会で私、プルミエ・ダンス―ルになったの」

    父: 「プ、プルミエ・・・ダンス―ル?」

    娘: 「日本でいうと、ソリスト。おっきな役がついてソロで踊るの」

    父: 「すごいじゃないか」

    娘: 「そのご褒美で休みがもらえたんだもん」

    父: 「さすが、私の娘だ」

    娘: 「でしょう。

    直行でここに来たのよ。パパ絶対いると思った」

    父: 「ははは、ご名答。

    お祭りは?もう楽しんだかい?」

    娘: 「ううん、それより早く家に帰りたい。

     食卓で、いろいろ報告したい」

    父: 確かに。

    家族3人で久しぶりに過ごす夕餉(ゆうげ)。

    私の娘も妻も、ついつい早足で家路を急いだ。

    娘の好きな卵焼きと豚汁を作ってやろう。

    美味しそうに頬張る娘の笑顔を想像して、思わず顔がほころんだ。

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  • 前編から3年——。『遅れてきた春』の続編、『June Bride/KICHI』へようこそ。

    3年の月日は、人を変えるには十分な時間です。彼女はキャリアコンサルタントとして子どもたちの未来に向き合うようになり、彼は主任教諭となりさらに教育に情熱を注いでいます。そして、二人は大切な時間を重ね、ある「決断」の時を迎えようとしています。

    そんな二人の物語の舞台となるのは、再び「ねむりデザインLABO」。3年前に偶然出会った場所で、今度はどんな物語が紡がれるのでしょうか。

    結婚、人生のパートナー、そして「眠り」という日常の大切な時間。それらが交錯する、少し大人なラブストーリーをお楽しみください

    【登場人物】

    ・女性(28歳)・・・前編から3年後。変わらずVチューバーを続けながらダンスの公演を定期的におこなっている。アバターを使ったキャリア授業は小中学校で広がり、現在は週に6コマを受け持つ。でも実は子供が苦手(CV:桑木栄美里)

    ・男性(30歳)・・・30歳を迎え主任教諭になった。キャリア教育には特に熱心でドローンや生成AI技術などの専門家を呼んでさまざまな授業を取り入れている。彼女とは付き合いはじめて3年目を迎えプロポーズを考えている。子供が大好き(CV:日比野正裕)

    <シーン1/小学校の教室>

    (SE〜学校のチャイム/小学校の教室)

    彼女: 「はい、今日の授業はここまでにしましょう。

    みなさん、生成AIの使い方はしっかりマスターしましょうね」

    (SE〜小学校の教室/子供たちの返事)

    彼: 「みんな、テキストを使った生成方法はもう理解したな。

    来週は全員に発表してもらうぞ」

    彼女: 「次回はフリーハンドで描いたイラストを生成AIで仕上げてみましょう。

    それを3Dプリンターでフィギュアにしてもいいわね」

    (SE〜小学校の教室/子供たちの歓声)

    ◾️BGM/

    彼女: 初めてこの学校へきてからちょうど3年目。

    最初に教壇に上がったときは覆面のVチューバー。

    臨時のキャリア講師だった。

    転機は去年。キャリアコンサルタントの国家資格を取得したこと。

    いまは、いろんな学校でキャリアタイムを企画・実施している。

    もちろん、素顔で。

    実務は、子どもたちの進路相談に乗ったり、キャリア形成の支援。

    今だから言うけど私、ホントは昔から、子どもって少し苦手だった。

    彼と真逆なの、ふふ。

    子どもたちの前で素顔を見せなかった理由には、それもあるんだ。

    でも、こんな小さな子たちが真剣に将来に向き合う姿を見ているうちに

    ああ、子どもも大人もないんだなって。

    それにみんな、なんでも私に相談してくれるから可愛くって・・・

    あれ?

    じゃあ私、なんで子どもが苦手だったんだろう。

    (SE〜学校のチャイム/夕暮れのイメージ/カラスの鳴き声とか)

    (SE〜LINEの着信音/会話の間にも着信音が鳴る)

    彼女: ふふ。まるで定時連絡。

    マメな彼から今日の予定が送られてくる。

    彼: 『おつかれ!

    今日はこのあと職員会議だから夕食、1時間後でどう?』

    彼女: 私もルーティンで返信する。

    『オッケー。私も教育委員会に顔だけだしてくるから』

    彼: 『じゃあ待合せはいつものカフェで』

    彼女: 『その前に行きたいとこあるんだけど』

    彼: 『どこ?』

    彼女: 『ねむりの悩みを相談できるとこ』

    彼: 『あー了解。じゃあ待合せ場所を変えよう』

    彼女: 『いいの?』

    彼: 『僕も行きたいと思ってた』

    彼女: 彼はいつもテンションが高いけど、

    なんだか今日は私に気を遣ってる感じ。

    私は返事を絵文字で返して、学校をあとにした。

    <シーン2/ねむりデザインLABO>

    (SE〜店内の雑踏/小走りの足音)

    彼女: ああ。ハイヒールってちょっと走りにくい。

    市が主催する定例のキャリア会議。

    私の提案が白熱して長引いてしまった。

    提案したのは「木工」。

    いまの子どもたちに、木工の技術を知ってもらいたいの。

    Vチューバーの私が「木工」って、なんかヘンな感じだけど

    子どもの頃から木の温もりって好きだったんだ。

    タブレット上でキャラクターを作って動かすだけじゃなくて

    自然の木から形あるものを作るってこと教えたかったの。

    家具屋さんの知り合いもいるしね(笑)

    (SE〜街角の雑踏/小走りの足音)

    余裕で間に合うと思ってたけど、

    閉店まで1時間を切ったかな。

    小走りで駆け込む店内。

    向かうのは私たちの間でお約束。ベッドコーナーへ。

    彼がスリープアドバイザーとなにか話してる。

    顔は笑ってるけど、いつもよりまじめっぽい。

    なんだなんだ?

    彼: 「おつかれ。結構時間かかったね」

    彼女: 「ごめんなさい。

    委員会で、生成AIの授業をもっと深掘りしよう!

    っていったら激論になっちゃって」

    彼: 「はは、君らしいな」

    彼女: 「あなたはなに話してたの?」

    彼: 「もちろんベッドの話だよ」

    彼女: 「どのベッド?」

    彼: 「うん、どれもこれも迷っちゃうんだけど、

    これからのこと考えるとポケットコイルのマットレスかな」

    彼女: 「そう?どうして?」

    彼: 「だって、君は硬めのマットレスがいいって言ってただろ」

    彼女: 「うん。ちゃんと覚えててくれたのね」

    彼: 「寝返りもうちやすくて」

    彼女: 「そうそう」

    彼: 「体圧分散性も重要だって」

    彼女: 「うん。でもそれはあなたもでしょ」

    彼: 「そうさ、だからポケットコイルのマットレスがいいなって」

    彼女: 「あなたも買うの?」

    彼: 「2人一緒に買うんだよ」

    彼女: 「どういうこと?」

    彼: 「こういうこと」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    彼女: そう言って彼は胸ポケットから小さな赤い箱をとりだした。

    彼: 「聞いてくれる?」

    彼女: 「ちょっとちょっと。待ってよ。ここで?」

    彼: 「そうだよ。だって3年前、2人の物語が始まった場所じゃないか」

    彼女: 確かに。

    それに、閉店前でお客さんも周りにはちょうどいない。

    さっきまで彼と話していたスリープアドバイザーも

    ベッドの向こうで背中を向けている。

    ふふ。

    別に、見届けてくれればいいのに。

    彼: 「僕たち、まだ3年だけど、もう3年でもあるよね」

    彼女: 「そうね」

    彼: 「ここから先はずっと、2人一緒にいたいんだ」

    彼女: 「うん」

    彼: 「だから、このポケットコイルのベッドとともに

    一生そばにいてくれる?」

    彼女: 「はい。います」

    彼: 「ありがとう」

    彼女: 「でも・・・」

    彼: 「え?」

    彼女: 「一生ベッド買い替えないつもり?」

    彼: 「あ、いや、そうじゃないけど・・・」

    <シーン3/結婚式場>

    ■BGM〜ウェディングマーチ

    (SE〜拍手と歓声/「おめでとう」の声)

    彼女: そして私は、6月の花嫁になった。

    私たちの新居には、マットレスが2台並んでいる。

    1台は硬めにアレンジされた私用、

    もう1台は柔らかめが好きな彼のベッド。

    2台とも体圧分散性に優れたポケットコイルのマットレス。

    木製のフレームが心地いい。

    人生の1/3は睡眠。

    睡眠の質を上げて、人生を豊かに。

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    彼: 「いつまでも幸せにするよ」

    彼女: 「ありがとう」

    彼: 「僕の方こそ。

    最高の人生にしてくれてありがとう」

    彼女: 「うん・・・。

    いつまでも大切にしてね。

    私も、ベッドも」

    彼: 「またそれを言う」

    彼女: 「ずうっと言い続けたらだめ?」

    彼: 「いや。ずうっと言ってほしい。

    必ず約束を守り続けるから」

    彼女: 「あなたのそういうところ、好きよ」

    照れながら見せる白い歯。

    私、3年前、そのまぶしさに魅せられたの。

    いつまでも笑顔でいられるよう、

    2人で人生を作っていきましょ。

    実は、今日は私、Vチューバーとしての最後のステージ。

    だけど、舞台に立つのは一人ではない。

    モーションキャプチャー用のマーカーをつけた

    ウェディングドレスとタキシード。

    結婚式場の大型ディスプレイに映し出された

    私たち2人のアバターが照れくさそうにキスをした。

  • 『遅れてきた春/ねむりデザインLABO』は、異なる世界に生きる二人——小学校の教師とVチューバーの女性が、キャリア授業を通じて出会い、「眠り」をきっかけに心を通わせる物語です。

    春の訪れは誰にでも平等ですが、そのタイミングは人それぞれ。子どもが苦手なVチューバーと、子どもが大好きな教師。正反対の二人が偶然の出会いを重ね、やがて特別な時間を過ごすようになる。そんな「少し遅れてきた春」の物語をお楽しみください。

    この物語は、家具とインテリアの「ねむりデザインLABO」を舞台に描かれ、眠りの悩みや快適な睡眠環境についても触れています。物語を楽しみながら、あなたの「眠り」についても考えるきっかけになれば嬉しいです

    【登場人物】

    ・女性(25歳)・・・Vチューバー。この春4月から名古屋市内の小学校で始まったキャリア授業でアバターのキャラクターを作りスーツを着て動かす授業を担当する。実は子供が苦手(CV:桑木栄美里)

    ・男性(27歳)・・・22歳の新卒時に教員免許を取得。小学校で五年生の担任をつとめるとともに課外活動やボーイスカウトも含め積極的にいろいろな活動に取り組んでいる。この春新任の女性教諭にキャリア教育をお願いしている。子供が大好き(CV:日比野正裕)

    【Story〜「遅れてきた春/ねむりデザインLABO/前編」】

    <シーン1/小学校の教室>

    (SE〜学校のチャイム/小学校の教室)

    彼女: 「みなさん、はじめまして。

    私はVチューバーです」

    (SE〜小学校の教室/「おお〜」というどよめきがおこる)

    彼: 「なんだ、みんな知ってるのか?

    一応、先生からも説明しておくぞ」

    ◾️BGM/

    彼: 小学校五年生の教室。

    男の子も女の子も、みんな興味津々だ。

    今回お願いしたのは、女性のVチューバー。

    顔出しはNGなので覆面をしている。

    元々は、お芝居とかダンスをするのが生業(なりわい)だそうだ。

    それでも最近は、芝居よりVチューバーの方が忙しいという。

    黒板と、生徒たちとの間には小さな衝立。

    彼女はその向こう側へ移動して覆面を脱いだ。

    事前にセッティングされたカメラの前に立つと

    大型モニターの中のキャラクターが目覚める。

    彼女の動きに合わせてキャラクターが踊りだした。

    クラス中に歓声が上がる。

    私は学年主任でこのクラスの担任教諭。

    春からスタートしたキャリア教育の授業を担当している。

    子供たちの視線を一斉に浴びながら

    キャラクターがポーズを決める。

    エンターテインメント満載の授業。

    1コーラスのボカロミュージックに合わせたダンスのあと、

    彼女は再び覆面をして生徒たちの前に立った。

    彼女: 「今度はみんなにもキャラクターを動かしてもらいましょ」

    どよめきと大歓声。

    そのあとは、順番争いが起きるほど、大いに盛り上がった。

    (SE〜学校のチャイム/夕暮れのイメージ/カラスの鳴き声とか)

    彼: 「先生!」

    彼女: 「あ、はい・・・」

    彼: 2コマ連続の授業。

    終わって帰ろうとするVチューバーを呼び止めた。

    彼女: 「なんでしょう?」

    彼: 「今日はどうもありがとうございました」

    彼女: 「いえ、こちらこそ。

    あんな感じでよかったのかしら」

    彼: 「はい。

    子供達があんなに目をキラキラさせたの、ホント久しぶりです」

    彼女: 「そうですか」

    彼: 「よかったらお茶でも飲んで少しお話しませんか?

    あと15分でホームルーム終わりますから」

    彼女: 「ありがとうございます。

    でも、ちょっと今日は・・・先約がありますので。

    また誘ってください」

    彼: 「そうですか・・・

    わかりました。じゃあまた今度。きっとですよ」

    彼: 考えるより先に言葉が出てしまった。

    ちょっと強引すぎたかな。

    彼女は曖昧な笑顔で校門をあとにした。

    <シーン2/ねむりデザインLABO>

    (SE〜店内の雑踏)

    彼: 放課後のホームルームが思ったより早く終わったので

    いつもの家具屋さんへ足を向ける。

    行き先はこれまたいつものベッドコーナー。

    ねむりデザインLABO、というらしい。

    最近ずうっと寝不足で体調が悪い。

    枕を変えて少しは眠れるようになったけど、

    首・肩・腰の痛みは慢性的になってきてるなあ。

    そんなことを思いながら、

    デザイン的に並べられたベッドを見ていたとき。

    電動ベッドに横になる女性に目がいった。

    くつろいで目を瞑るスレンダーな寝姿。

    思わず近寄っていくと・・・

    彼女: 「あ・・・」

    彼: 「あれ?

    先・・生?」

    彼女: 「え?」

    彼: 「僕です。今日キャリア授業でお世話になった小学校の・・・」

    彼女: 「ああ、担任の。

    いやあね、こんなところを見られちゃうなんて」

    彼: 「いえいえ、それにしても奇遇ですねえ。

    先生も家具屋さんにいらしてるなんて」

    彼女: 「はあ・・・。

    あのう・・・」

    彼: 「はい」

    彼女: 「その、”先生”と呼ぶの、やめていただけません?」

    彼: 「え」

    彼女: 「私、そんな、先生なんて呼ばれるような人間じゃないので」

    彼: 「や、これは失礼。

    講師としてお招きしているのでつい」

    彼: しまった。なんか気まずいかな。

    彼: 「以後気をつけます」

    彼女: 「あ、いえ、そんなつもりじゃないので」

    彼: 起きあがろうとする彼女を制して声をかける。

    彼: 「あ、そのままそのまま。

    ところで先生、じゃなくて、

    あ、あなたもベッドを探しているんですか?」

    彼: 彼女は小さく微笑みながら、うなづく。

    彼: 「ひょっとして眠りの悩みがあるとか?」

    彼女: 「はい。Vチューバーって仕事がら首・肩がいつも凝っちゃうんです」

    彼: 「ああ!実は僕もなんです!」

    彼女: 「先生も?」

    彼: 「授業って立ちっぱなしでしょ。

    しかも黒板って、割と上を向いて書いたりするので」

    彼女: 「へえ〜」

    彼: 「首・肩と、腰、かな」

    彼女: 「全部じゃないですか」

    彼: 「そうなんです。だからよくここへきて相談してるんです」

    彼女: 「相談?」

    彼: 「はい。スリープアドバイザーに」

    彼女: 「まあ。先生も・・・」

    彼: 「え?ってことは・・・」

    彼女: 「ええ。私もスリープアドバイザーに相談してます」

    彼: 「そうなんだー」

    彼女: 「先週は、頭の形を測ってもらいました。

    首のS字の深さもわかるので、枕を変えてみたんです」

    彼: 「あ、僕もそれやりました。

    今使ってる枕の高さ、

    全然合ってなかったのがわかって、ショックだったなあ」

    彼女: 「おんなじですね」

    彼: 「ほんとですね!

    実はいま、ベッドも買い換えようかと思ってて」

    彼女: 「どんなベッドを検討してるんですか?」

    彼: 「なんか、いろんな種類があるみたいなんで、迷ってます」

    彼女: 「体圧分散してくれるのがいいって聞きました」

    彼: 「体圧分散!

    僕、骨太なんで、それすごく重要です。

    電動ベッドはどうですか?」

    彼女: 「すっごく気持ちいい。

    宙に浮いてるみたい」

    彼: 電動ベッドの足と背中をリクライニングさせながら

    うっとりした表情で彼女が答える。

    彼: 「あ、それいいかも」

    彼女: 「じゃあ、一緒にスリープアドバイザーに相談してみましょうか」

    彼: 「はい!」

    彼女: 「そんな、敬語っぽい話し方じゃなくていいですよ。

    先生の方が、年上なんですから」

    彼: 「ああ、わかりました。

    じゃあ、僕からもひとつ、いやふたつお願いしていいですか?」

    彼女: 「なんでしょう」

    彼: 「僕のことも”先生”って呼ぶの、やめてください」

    彼女: 「え、だって、先生じゃないですか」

    彼: 「いまは先生じゃないですよ」

    彼女: 「なんて呼べばいいんですか?」

    彼: 「なんでもいいです。先生以外なら。名前でも・・・」

    彼女: 「え?」

    彼: 「あ、いえいえ。なにも」

    彼女: 「もうひとつのお願いは?」

    彼: 「ああ、えっと、

    このあと、お茶でもしながら、もう少しだけお話しませんか」

    彼女: 「あ・・・」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    彼: あ。言っちゃった。

    1日に2回も断られたら立ち直れないなあ。

    でも、彼女から返ってきた答えは、僕の不安を吹き飛ばした。

    彼女: 「お茶っていうより、もう食事の時間ですね」

    彼: 「それならもちろん!」

    彼: おもわず満面の笑みで答えてしまう。

    遠くで僕たちを見ていたスリープアドバイザーが優しく微笑んでいる。

    きっとものすごくわかりやすい表情をしていたのだろう。

    彼女はベッドをリクライニングさせたまま吹き出した。

    この日、この瞬間から、僕と彼女の物語はスタートした。

    小学校の教師とVチューバー。

    出演キャラの組み合わせとしては異色になるのかな・・・

    遅い春の予感は、僕の胸にときめきを運んできた。

  • 彼女の仕事は、やりがいがありながらも決して楽なものではありません。
    そんな彼女の支えとなるのは、老人ホームの仲間たち、そして遠くから見守る彼でした。
    仕事に、夢に、そして恋に——。
    新しい季節の風が吹き抜ける中、彼女の心は少しずつ未来へと向かっていきます。
    「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」
    この言葉が、彼女にどんな決断をもたらすのか・・

    【登場人物】

    ・彼女(22歳)・・・この春から新社会人一年生。養護老人ホームで働きながら来年社会福祉士の資格をとり、市の社会福祉協議会へ転職したいと考えていたが・・・(CV:桑木栄美里)

    ・彼(25歳)・・・広告会社に勤めて足かけ4年でこの春起業した。Web解析士の資格を取得してホームページ制作・管理とSNSマーケティングの仕事で走り回るが・・・(CV:日比野正裕)

    <シーン1/堤防沿いを歩くカップル>

    (SE〜小川のせせらぎ)

    彼女: 「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」

    彼: 「なんだい、それ?

    そんなアニメもあったっけ」

    彼女: 「もう〜。

    マーケターならそのくらい知っててよ」

    彼: 「知ってるよ。詩だろ」

    彼女: 「そう。ポール・ヴァレリーの詩。

    うちの入所者さんに、この詩が好きな人がいるの」

    ◾️BGM/

    彼: 彼女は、この春から養護老人ホームで働いている。

    仕事はやりがいがあるって言ってたけど、実際には大変そうだ。

    肉体的にも精神的にも。

    だって、彼女が働き出してから、デートしたのは今日がはじめて。

    もう5月だというのに。

    体壊さないといいけど。

    彼女: 「なあに?黙っちゃって。

    あ、また、私の仕事のこと考えてるんでしょ」

    彼: 「いや、そうじゃないけど」

    彼女: 「うそばっかり。

    働き方改革に逆行した ブラックな業界だって言いたいんでしょ」

    彼: 「そんなこと思ってないって」

    彼女: 「だって、顔に書いてあるんだもん」

    彼: 「ひどい誤解だな。

    福祉の業界が大変だってことくらいわかってるよ」

    彼女: 「じゃあ、なんでそんな、眉間に皺が寄るの」

    彼: 「君は僕が起業したこと、忘れてない?」

    彼女: 「忘れているわけないじゃない。

    一緒にお手伝いしたんだもの」

    彼: 「うん。すっごく嬉しかった。

    書類作るのとか手伝ってくれて。

    この恩は一生忘れないよ」

    彼女: 「おおげさだなあ。

    それで、順風満帆なんでしょ」

    彼: 「まあだいたいはね。

    いい風が吹いてるよ」

    彼女: 「さわやかな大気が海より湧きあがり、

    わたしに魂を返す」

    彼: 「お!ポール・ヴァレリー。

    まあ、そうなんだけどね。

    一人でやっていくのは大変なんだな、やっぱり」

    彼女: 「そうなの」

    彼: 「うん。営業も、データの分析もすべてひとりだからな」

    彼女: 「ふうん」

    彼: あんまり細かく語り出すと、ただの愚痴になっちゃうからなあ。

    実際には、自分の労務管理とか経理とかやらなきゃいけないし。

    外で打合せしてオフィスに帰ってきてからデータの分析して

    レポート作ってると夜中の12時を回っちゃう。

    この前なんて目を充血させて打合せしてたら

    クライアントが僕の目ばっかり見るもんだから、話が全然進まなかったからなあ。

    彼女: 「あ?ひょっとして・・・眠れてないんじゃない?」

    彼: 「え」

    彼女: 「図星でしょ」

    彼: 「あ、まあね。そりゃこのライフスタイル見てたらわかるよなあ」

    彼女: 「実は私もついこの前まで不眠症に悩んでいたんだ」

    彼: 「そうなの?」

    彼女: 「うん。今はぐっすり眠れているけどね」

    彼: 「ホント?なにをしたの?」

    彼女: 「なら、いまから治療にいきましょうか」

    <シーン2/インテリアショップ>

    (SE〜インテリアショップのガヤ)

    彼: 彼女が連れてきてくれたのは、

    病院ではなく、なんとインテリアショップ。

    放射状にディスプレイされたベッドの前で

    スリープアドバイザーがわかりやすく説明してくれる。

    不眠の症状について。うん。

    寝つきが悪く、ベッドに入っても30分以上眠れない。(眠れない)

    途中で目が覚めて、なかなか寝付けない。(寝付けてないな)

    朝早く目が覚めてしまう。(うん)

    ぐっすり眠った気がしない。

    彼女: 「ちょっと〜、やばくない。

    全部あてはまってるじゃん」

    彼: それから、不眠の原因。

    痛みをともなう関節炎やリウマチ。

    花粉症や蕁麻疹。

    そして、ストレス。

    彼女: 「やっぱストレスだよね」

    彼: で、不眠の対処法。

    花粉症やアレルギー性鼻炎は薬を処方してもらってる。

    ストレスは根本的な原因が自分だから

    ライフスタイルを変えるしかない、、、か。

    彼女: 「あとできることは、寝具のチェックだね」

    彼: そう言って、彼女はウインクした。

    片手に測定器を持ったスリープアドバイザーが僕の頭の形を測る。

    そうか。

    僕の頭、こんな形をしていたんだ。

    彼女: 「ひょっとして、枕が高いんじゃない?」

    彼: あ、そうかも。

    毎朝起きたときに、首とか肩が凝ってるもんなあ。

    スリープアドバイザーは僕にフィットする枕をチョイスしてくれた。

    マットレスと首の角度が5度っていうのが、快眠へ誘うんだって。

    実際に寝てみても、うん首が疲れない感じ。

    あぁ、そういうことなんだな。

    彼女: 「あなた、オフィスに泊まってたりしてない?」

    彼: 「うん。遅くなると帰るの面倒だから」

    彼女: 「ってことは、ソファベッドで寝てるでしょ」

    彼: 「うん、だって、オフィスにはそれしかないもん」

    彼女: 「ソファベッドは仮眠用よ。ちゃんとお家のベッドで寝なさい」

    彼: 「うん、わかってる」

    彼女: 「そのマットレスも要検討かな」

    彼: 「え?なんで?」

    彼女: 「まあまあまあ。このベッドに寝てみて」

    彼: 言われるまま横になる。

    あれ?(笑いなども演出)

    ふにゃふにゃってわけじゃないのに、体が包み込まれる感覚。

    彼女: 「どんな感じ?」

    彼: 「(うん)力がすうっと抜けていく感じ」

    彼女: 「ポケットコイルって言うんだって」

    彼: 「へえ〜」

    体圧分散性が高い、というのが売りらしい。

    確かに、骨の部分がゴツゴツあたる感じも全然ないし、自然な寝心地。

    彼女: 「硬さも選べるらしいよ」

    彼: 「僕は硬めがいいな」

    彼女: 「ふふふ」

    彼: 「(ん?)どうしたの?」

    彼女: 「私とおんなじ」

    彼: この感覚、すごく気持ちがいいな。

    今日家に帰ったら、思い出して比べてみよう。

    彼女は無理にすすめるわけでもなく、ただただ僕をみつめて笑っていた。

    <シーン3/公園のベンチに佇むカップル>

    (SE〜小鳥のさえずり)

    彼女: 「で、結局マットレスはどうしたの?」

    彼: 「うん、ナイショ」

    彼女: 「もう〜」

    彼: 「でも、不眠は治ったよ」

    彼女: 「え?じゃあ・・・」

    彼: 「今度、うちへ遊びにおいでよ」

    彼女: 「ふふ。社会福祉士の試験に合格したらね」

    彼: 「んー、試験っていつだっけ?」

    彼女: 「来年の春よ」

    彼: 「そうか。

    それじゃあ僕もそれまでにいろいろ準備しなきゃ」

    彼女: 「まだやらなきゃいけないことがあるの?」

    彼: 「ああ。すっごく大事なことがね」

    彼女: 「なあに?」

    彼: 「うん、それも内緒」

    彼女: 「ひどーい」

    彼: 「まず最初にしないといけないのは・・・」

    彼女: 「もう〜。もったいぶらずに教えてよ」

    彼: 「君の家にご挨拶にいく」

    彼女: 「え・・・」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    彼: 「ご両親、お付き合いを認めてくれるかな」

    彼女: 「・・・いきなりだとびっくりするかもね」

    彼: 「あ、じゃ君からマーケティングリサーチしておいてよ」

    彼女: 「やあねえ、その言い方」

    彼: 「ちなみに、お父さんってこわい?」

    彼女: 「私にはすっごく優しいわよ〜。

    きっと彼氏には ちょっと強面だけど」

    彼: 「強面、、、うん、ようし。

    風を思いっきり吸い込んで立ち上がるぞ。

    風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」

    彼女: 「ふふ。ありがとう」

    彼: 彼女の表情は終始明るかった。

    僕は自分の胸に誓う。

    これからもその笑顔のために生きねばならぬ。と。

  • 新しい環境、新しい出会い——春は希望と不安が入り混じる季節。
    主人公は新社会人として養護老人ホームで働き始めたばかり。そこで出会ったのは、ポール・ヴァレリーの詩を口ずさむ老人でした。
    仕事に追われ、睡眠不足と戦いながらも、彼女は前へ進もうとします。日常の中で見つけた、小さな「気づき」が彼女を大きく成長させていく——。
    「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」
    この言葉が彼女の心をどのように支えていくのか—

    【登場人物】

    ・女性(22歳)・・・この春から新社会人一年生。養護老人ホームで働きながら来年社会福祉士の資格をとり、市の社会福祉協議会へ転職したいと考えていたが・・(CV:桑木栄美里)

    ・老人(70歳)・・・5年前に長年勤めた不動産会社を定年退職。古希を迎えたのを機会に娘夫婦のすすめで養護老人ホームへ入居したが・・(CV:日比野正裕)

    <シーン1/老人ホームのエントランスロビー>

    (SE〜老人ホーム=病院のガヤと朝の小鳥)

    彼女: 「おはようございます!」

    ◾️BGM/

    彼女: 養護老人ホームのエントランス。

    掃除の行き届いたロビーを通って 今日も元気に出勤する。

    老人: 「お、今朝も元気だねえ」

    彼女: 「あ〜、元気だけがとりえだって思ってるんでしょ」

    老人: 「ちゃうちゃう。今日も元気をもらえて若返るなあってこと」

    彼女: 「やだ、私の若さを持ってかないで〜」

    老人: 「あはははは。

    風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」

    彼女: 入居者の中で一番若いおじいちゃん。

    いつもポール・ヴァレリーの詩を口にする。

    この春入居したばかりで 元気いっぱい。

    私も今年卒業して 施設で働き出した新人だから

    なぜか気が合うんだなあ。

    だけど・・・

    実は、元気がいいのは朝の出勤時だけ。

    夕方近くなってくると だんだんテンション下がってくるんだよね。

    肩と腰の疲れもピークになってくるし。

    これって・・・五月病?

    あ〜ん。もう〜だめだめ。そんなこと考えちゃ。

    気持ちだけでもテンションあげてかないと。

    にしても・・・

    やっぱ疲れの原因は睡眠不足かなあ。

    いやいや。

    睡眠不足だから五月病になるわけで・・・

    あ〜。

    どっちにしても負のループ。断ち切らないと。

    老人: 「今日は早番かい?」

    彼女: 「そうよ〜、この笑顔を見られるのも夕方までってこと」

    老人: 「まあ、毎日一生懸命で疲れているだろうからな。

    残業なんかはせずに帰ってゆっくり休みなさい。」

    彼女: あ。

    やっぱりわかっちゃうのかなあ。

    疲れは顔に出るもんねー。

    とはいえ 私にはちゃんと目標がある。

    1年間老人ホームで働きながら勉強して、

    来年、社会福祉士の資格をとる!

    合格率30%という 難関の資格だけど、がんばらなくちゃ。

    私が卒業した四年生大学は、福祉系じゃなかったからね。

    どうしても 1年以上の実務経験が必要になってくるんだ。

    施設に入ったら すぐに初任者研修を受けて、いまはヘルパー。

    社会福祉士になったら、市区町村の社会福祉協議会で働くつもり。

    介護を受けたい人の相談を聞いて、少しでもお役に立ちたい。

    まあ、今の仕事も同じだけどね。

    老人: 「あ、来年の社会福祉士試験のこと、考えてるな」

    彼女: 「なあに言ってるの?」

    老人: 「頑張るんだよ。応援してるから」

    彼女: 「ありがとう」

    彼女: こう言われるたびに うるっとしちゃう。

    それを気づかれないようにして、食堂へ急いだ。

    ラジオ体操のあとは 食事の介助。

    みんなが朝食後 食卓でくつろいでいる間に お部屋を掃除する。

    あら〜、入居者のベッド、だいぶんヘタってきてるなあ。

    所長は新しいベッドに買い替えなきゃって言ってたけど

    50人分もあるから大変だわ。

    腰が痛い人、肩こりがひどい人。

    柔らかいマットレスがいい人、硬いマットレスじゃないと眠れない人。

    高い枕が好きな人、低い枕しか受け付けない人。

    もう、たいへん。

    みんなのリクエストに答えることができるのかなあ。

    それと気がかりなのは、私自身、最近ひどい不眠症。

    仕事はやりがいがあるけど、時間が足りなくて。

    なのに 働き方改革で早く帰りなさいって言われるし。

    ストレスがどんどん溜まっていく。

    なんとかしないといけない。

    <シーン2/インテリアショップ>

    (SE〜インテリアショップのガヤ)

    彼女: 「え?そうなんですか!?」

    仕事帰りにふらっと立ち寄ったインテリアショップ。

    ベッドコーナーで スリープアドバイザーに相談したら・・・

    彼女: 「枕やマットレスが 不眠の原因になっているかも?」

    そういえば、朝起きたら腰が痛かったり、

    寝てるとき寝返りばっかりうってるかも。

    ここんとこずうっと、ぐっすり眠れたことなんてないもの。

    スリープアドバイザーは 測定器で 私の頭の形を 正確に測ってくれた。

    あ、確かに首の深さに対して、今の枕は高すぎるかも。

    彼女: 「ポケットコイル?」

    最近よく聞くようになった、マットレスの素材名。

    体圧分散性?どういうこと?

    寝ているときに体にかかる圧力を分散する?

    ゴツゴツした感じじゃなくて、包み込むような感じ?

    へえ〜。

    硬さも選べるんだ。

    私は少し硬めがいいな。

    お、私の給料でもなんとか買えそうだわ。

    5年保証もついてるし。

    よし。これに決めよう。

    睡眠は 人生の1/3。

    貴重な時間を 睡眠不足なんかで無駄にはできないもの。

    私の人生を豊かにするためのベッドってこと。

    あ、ちょっと待って。

    これ、老人ホームのみんなにもいいんじゃない?

    こんなベッドなら、腰だの肩だの痛いって人にもいいかも。

    私はすぐに所長に連絡を入れた。

    <シーン3/老人ホームの食堂>

    (SE〜老人ホーム=病院のガヤ)

    老人: 「ありがとう。おかげでぐっすり眠れるようになったよ」

    彼女: 「ホント?よかったあ」

    老人: 「朝起きたときに、体が疲れてないってのはいいもんだな」

    彼女: 「実は私もなんです。

    枕とマットレスを変えてから 五月病も吹っ飛んじゃった」

    老人: 「なんだ、五月病だったのかい?」

    彼女: 「あ、しまった」

    老人: 「あんたはちゃんと目的を持ってるから。

    五月病なんかには負けるわけがないよ」

    彼女: 「やだなあ。買いかぶりすぎだって」

    老人: 「そんなことはないさ。

    だって、来年の今頃はここにはいないんだろ」

    彼女: 「うん・・・」

    老人: 「社会福祉士になって」

    彼女: 「うん・・・」

    老人: 「役場や役所で」

    彼女: 「うん・・・」

    老人: 「高齢者や病気の人の相談にのってくれるんだろ」

    彼女: 「うん」

    老人: 「なんてたっけなあ、えっとソーシャル・・・ソーシャル・・・」

    彼女: 「ソーシャルワーカーよ(笑)」

    老人: 「おうおう、そう、それそれ。

    その、なんとかワーカーになって走り回ってほしい」

    彼女: 「もう(笑)」

    老人: 「ここからいなくなっちゃうのは寂しいけど

    み〜んなあんたのこと、応援してるからな」

    彼女: 「ありがとう。がんばる」

    老人: 「まあ、もう一年くらい先延ばしにしてもらってもかまわんけどな」

    彼女: 「先延ばしになんてしません。ぜ〜ったい 来年受かってみせるから」

    老人: 「そうそう。その意気その意気」

    彼女: 最近 入所者のみんなと話をすると必ずこの話になる。

    応援してくれるのは嬉しいけど、プレッシャーも大きいんだぞ。

    な〜んて 口が裂けても言えないけどね(笑)

    老人ホームのみんなに背中を押されて

    仕事と勉強の 春夏秋冬が 通り過ぎていった。

    <シーン4/老人ホームの朝の風景>

    (SE〜老人ホーム=病院のガヤと朝の小鳥)

    彼女: 「おはようございます!」

    老人: 「やあ、おはよう」

    彼女: 「なあに?ニヤニヤして。

    私の顔になんかついてる?」

    老人: 「いやいや、ちょっと、こっちへ来てくれないか」

    彼女: 「え〜。

    これから申し送りしなきゃいけないし、レクの準備もあるから」

    老人: 「いいからいいから、はいこっちきて」

    彼女: 「どこ行くの?

    そっちはデイルームじゃない?」

    老人: 「そうだよ。さ、中入って」

    彼女: 「もう・・・」

    (SE〜扉を開ける音「ガラガラガラ〜」)

    彼女: 「あ」

    全員: 「おめでとう!」

    (SE〜20〜30人くらいの拍手)

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    老人: 「晴れて社会福祉士だな」

    彼女: 「そっかぁ・・・合格発表今日だったんだ」

    老人: 「なんだなんだ。こんな大事な日を忘れてたって?」

    彼女: 「だって、毎日バタバタだったんだもの」

    老人: 「おい所長、聞いてるか。

    こき使いすぎじゃないか〜」

    彼女: 「え・・所長もいたの!?(笑)」

    入所者の輪の中から所長が恥ずかしそうに顔を出す。

    デイルームには 風船やら紙テープやらで

    手作りの装飾がほどこされている。

    中央の窓際には、横断幕に、

    『社会福祉士おめでとう!』の筆文字。

    ああ、そういえば書道の有段者もいたんだった。

    老人: 「昨夜(夕べ)、消灯時間超えてまでみんなで作ったんだよ」

    彼女: 「だめじゃない。そんなことしちゃ。

    定時の見回りとかこなかったの?」

    老人: 「いや、所長さんも一緒になって手伝ってくれたから」

    彼女: 「ええっ?」

    頭をkきながら、所長が入所者たちと一緒に笑っている。

    老人: 「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」

    彼女: そうね。

    やっぱり、もう少しだけここで生きていこうかな。

  • 前編から時は流れ、あれから10年——。
    彼女と彼は、結婚し、娘とともに新たな生活を送っています。

    家族の形、仕事の変化、ライフスタイルの選択。
    10年前、桜の木の下で交わした約束は、どのように育まれてきたのでしょうか。

    インテリアを選ぶことは、家族の未来を描くことでもあります。
    そして、変わりゆく生活の中で、変わらない想いがあることを、二人は改めて知るのです。

    新しい家、新しい暮らし、そして、家族としての10年目の節目。
    前編で交わした和歌が、後編ではまた違う意味を持ち、二人をつなぎます。

    桜の季節に紡がれる、家族の物語

    【登場人物】

    ・妻(32歳/42歳)・・・一部上場企業の企画・広報部チームリーダー。今年8歳になる娘の母親。最近のライフスタイルはヴィーガン食で家族もそれに倣っている(CV:桑木栄美里)

    ・夫(32歳/42歳)・・・大学院の人工知能科学研究科を修了し、先端ITC企業から請われて入社。AIによる社会貢献を進めている(CV:日比野正裕)

    ・娘(8歳/18歳)・・・小学校3年生/大学1年生。寡黙だが、SDGs意識高い(CV:桑木栄美里)

    <シーン1/夜桜の公園>

    (SE〜花見の風景)

    妻: 「今日(けふ)のためと、思(おも)ひて標(しめ)し、あしひきの、

    峰(を)の上(へ)の桜(さくら)、かく咲きにけり」

    ◾️BGM/

    夫: 「それは・・・まだ聞いたことのない歌だ」

    妻: 「じゃあ、もう一首。

    あしひきの、山の際(ま)照らす、桜花(さくらばな)、

    この春雨(はるさめ)に、散(ち)りゆかむかも」

    夫: 「どういう意味?」

    妻: 「最初の歌は、

    今日のために目星をつけておいた桜が咲いてくれた。

    2つ目は、

    山間を照らすように咲いている桜の花が春の雨で散っちゃうのはやだなあ。

    って意味。

    桜、きれいだねえ。

    桜さん、ありがとう。

    雨が降っても散らないでね。

    ってことだよ。ねっ」

    夫: 妻の横で娘が、何も言わずに微笑む。

    8歳の娘は、妻の詠む和歌が大好き。

    意味もわからず、ニコニコ聞いている。

    いや、いつも説明されてるから意味はわかっているのかな。

    10年前。

    まだ結婚する前に、妻と2人で歩いた桜並木。

    世の中がどんどん変わっても毎年、美しい花を咲かせてくれる。

    妻: 「和歌を詠むと、桜が一層美しく見えるよね」

    夫: 娘が大きくうなづく。本当にそう思っているのか。

    半分疑りながら

    娘を真ん中にして、3人で手をつないで歩く。

    幸せに包まれる瞬間。

    妻: 「今日はね、10年前 にパパとママがデートしたところへ行くのよ」

    夫: デート?

    そうか、あれはデートだったんだな。

    娘がはしゃぎ始めた。

    妻: 「さあ、桜のトンネルを抜けていくわよ」

    夫: 妻が娘の手をひく。

    私はその手にひっぱられるように、早足で花曇の並木を歩いていった。

    <シーン2/インテリアショップ>

    (SE〜インテリアショップの雑踏)

    娘: 「わぁ〜すごぉい」

    夫: 初めてきたインテリアショップに驚く娘。

    エリアごとに再現された部屋に感動している。

    まるでテーマパークにきたみたいに。

    妻: 「でしょう。

    ここはいろんなお部屋がたくさんある、家具のテーマパークなのよ」

    夫: なるほど。うまい表現だな。

    さすが、大学で国文学を専攻してただけある。

    っていうより、企画部のチームリーダーだもんな。

    妻: 「ほら、プリンセスのお部屋も」

    娘: 「ほんとだ。ピンクがかわいい」

    夫: はしゃぎまわる娘に目を細める妻。

    実は、私の方が妻より嬉しいのだが。

    今日の目的は、新生活の家具選び。

    とは言っても、10年前のように一人暮らし用ではなく、家族のため。

    実は、もうすぐ新しい家が完成するんだ。

    そう、新築の新居。

    妻のこだわりで、作りつけの収納は、あえて最小限にした。

    自分たちで家具を選んで、イメージ作りをしたいらしい。

    娘の成長に合わせた節目節目で、イメージチェンジもするのだという。

    そういうライフスタイル いいものだなあ。

    妻: 「ねえ、自分のお部屋はどんな風にしたい?」

    娘: 「不思議の国みたいなお部屋」

    妻: 「そうかあ。じゃあこっちの部屋かな」

    娘: 「あ〜」

    夫: そこは、キュートでおしゃれなプリンセス系インテリアのお部屋。

    シャビーシックなピンクと白を基調にしたアイテムが可愛らしい。

    プリンセスを象徴する天蓋付きのベッド。

    壁にはラインストーンで彩られた名画が煌めいている。

    妻: 「ママとパパのお部屋はこっちよ」

    夫: 「おお、いいねえ、ナチュラル系かい」

    妻: 「今までのお部屋はナチュラルだったけど、新しいおうちは、

    ナチュラル系をベースに、シンプルな和モダンのテイストにしたいの」

    夫: 「落ち着いた空間だね」

    妻: 「それに居心地のいい空間」

    夫: 「気分が上がるなあ」

    妻: 「あ、あと、キッチンも見なくちゃ」

    娘: 「やったぁ」

    夫: そうだった。

    妻は子どもが生まれてから、ヴィーガンのライフスタイル。

    ヴィーガンというのは、動物性食品を一切食べず、

    動物由来の製品も使わない。

    肉も魚も乳製品も卵もとらないし、レザーや羽毛も全然持っていない。

    私も妻の影響でスローライフを実践したら、

    健康診断の結果が驚くほど良くなった。

    もちろん、娘の食生活も同じ。

    生まれてこのかたアレルギー知らずだ。

    妻: 「和モダンのキッチンってスローライフにピッタリね」

    夫: シンプルでオシャレなキッチンを前に、妻の顔がほころぶ。

    妻と娘が2人、並んで料理する姿を想像して、私も笑顔になる。

    いやいや 、忘れちゃいけない。

    私も料理にはちゃんと参加するから。あまり役には立たないが。

    <シーン3/10年後のキッチン>

    (SE〜料理をする音/包丁で野菜を切る音)

    娘: 「ママ、塩こうじで豆乳マヨネーズ作ったから毒味してみて」

    妻: 「やあね。毒味じゃなくて味見でしょ」

    夫: 新築の家に引っ越してから10年。

    大学1年生となった娘が、キッチンで妻に話しかける。

    今や、ヴィーガンのレシピは妻よりも豊富だ。

    娘: 「パパ、今日の料理はぜんぶ私が作ったのよ」

    夫: 「へえ、珍しいな。大学で実習でもあるのかい」

    娘: 「そんなじゃないんだなあ。

    さ、2人とも座って」

    夫: 妻と2人、ダイニングチェアに座る。

    10年前に購入したダイニングテーブルは

    年とともに深い味わいを醸し出している。

    娘: 「比べこし 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき」

    20年目の婚約記念日、おめでとう」

    夫: 「え」

    妻: 「ああ」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    娘: 「10年前にパパとママが教えてくれたじゃない。

    20年前の今日、パパがママにプロポーズしたこと。

    ちゃんと覚えてるんだよ」

    夫: 「そうか。そうだったな」

    夫: 妻は目に涙を浮かべて微笑んでいる。

    娘: 「さっきの歌、わかった?」

    妻: 「ずうっと伸ばしてきた私の髪が、肩より長くなりました。

    あなた以外にこの髪を結い上げてくれる人などいません」

    娘: 「さすが、ママ。正解。

    伊勢物語ね。プロポーズの歌」

    夫: こんなに素晴らしい母と娘と、一緒にいられる幸せを

    私はかみしめていた。

    ありがとう。

  • 春は新たな始まりの季節。桜が咲き誇る中、22歳の彼女は大学を卒業し、一部上場企業のマーケターとして社会へ踏み出します。彼女の隣には、高校時代からの恋人で、大学院でAIを研究する彼の姿。
    学生から社会人へと変わる瞬間、彼女が見つめるのは未来か、それとも過去か——。

    この物語は、そんな彼女と彼が、新しい生活の中で「選ぶこと」と向き合いながら、未来を描いていく物語です。
    家具を選ぶことは、単なるインテリアの話ではなく、自分らしさや人生をどうデザインするかということ。
    春の夜、桜の下で交わされた言葉、そして二人が訪れたインテリアショップでのひととき。
    その先に待っている未来とは——。

    新たな門出を迎えるすべての人に、この物語が寄り添えますように

    【登場人物】

    ・彼女(22歳)・・・大学4年間で国文学を専攻しこの春から新社会人に。一部上場企業の企画・広報担当のマーケターとして採用された。彼は高校時代から付き合っている同級生(CV:桑木栄美里)

    ・彼(22歳)・・・大学4年生ののち、大学院の人工知能科学研究科で最先端のAIと社会のつながりを研究している(CV:日比野正裕)

    【Story〜「桜花抄/新社会人と新生活/前編」】

    <シーン1/夜桜の公園>

    (SE〜花見の風景)

    彼女: 「桜花(さくらばな)、時は過ぎねど、見る人の、

    恋(こ)ふる盛(さか)りと、今し散るらむ」

    ◾️BGM/

    彼: 「なんだい、それ?」

    彼女: 「万葉集よ。

    まだ散るときじゃないけど、

    愛でてくれる人がいるうちに散っちゃおうかなぁって。

    そんな桜の花の気持ちをうたった詩(うた)」

    彼: 「へえ〜。さすが国文学専攻」

    彼女: 「またぁ。すぐそうやって茶化す。

    でもこの詩、いまの私の気分かも」

    彼: 「どうして?全然散ってなんかいないじゃん」

    彼女: 「気持ちの話よ。

    私、本当は純粋にもっと大学で国文学を勉強してみたかったんだ。

    でも、愛でてくれる人がいるうちに社会に出てみようかなーって思ったの」

    彼: 「愛でてくれる人って?」

    彼女: 「やだもう。ばか」

    彼: 「そんなんいいじゃないか。

    一流企業の企画・広報部なんて、なりたくてもなかなかなれないぜ」

    彼女: 「そうだけど」

    彼: 「君の好きな国文学の知識をマーケティングに生かせばいい」

    彼女: 「簡単に言うんだから」

    彼: 「いや、ホントにいいと思う。

    万葉集って去年、SNSでバズってるし」

    彼女: 「まあねー。

    なんか、AIでビッグデータとか研究してるあなたらしい答え」

    彼: 「あ、そっちこそ、そうやって茶化す」

    彼女: 「私は尊敬してるの」

    彼: 「僕だって尊敬してるさ、君のこと」

    彼女: 「ありがとう。

    ねえ、花篝(はなかがり)が灯る前に付き合ってほしいとこがあるの」

    彼: 「ああ、もうそんな時間かあ。

    で、どこいきたいの?」

    彼女: 「私、就職が決まってアパート借りたんだけど、

    まだ何にもない部屋なんだ」

    彼: 「そうなんだ」

    彼女: 「さ、行こ」

    彼: 「え、だからどこへ?」

    彼女: 「もう〜。いいから、きて」

    <シーン2/インテリアショップ>

    (SE〜インテリアショップの雑踏)

    彼: 「そっかあ。家具屋さんか」

    彼女: 「家具だけじゃなくて、雑貨や絵画も置いてあるから、インテリアショップね」

    彼: 「インテリアスタジオ。うん、確かにわかりやすいネーミングだ」

    彼女: 「うちの会社、リモートが多いからホームオフィスのインテリアも選びたいな」

    彼: 「うん、どんな感じの家具がいいの?」

    彼女: 「木の手触り感とか、木目の色合いとか、自然のテイストが好き」

    彼: 「僕もナチュラルな家具が好きだな」

    彼女: 「大学院の研究室にそういう意識調査するAIとかないの」

    彼: 「あるよ。ちょっと待って」

    彼女: 「あるんだー。お、タブレット登場?」

    彼: 「えっと・・・コロナ禍で在宅時間が増えて、

    6割以上の人がインテリアにこだわるようになったんだって」

    彼女: 「ああ、確かにそうかも」

    彼: 「で、好きなインテリアのテイストは、『ナチュラル』が1位。

    さすが。トレンドリーダーじゃん」

    彼女: 「ふーん、2位はなに?」

    彼: 「2位はね、『北欧風』。あとは『モダン』、『和モダン』」

    彼女: 「みんないいわね」

    彼: 「『ナチュラル』を選ぶ理由は、飽きがこなくて、落ち着くからだって」

    彼女: 「わかるー」

    彼: 「20代、30代はインスタ見て参考にしてるそうだよ」

    彼女: 「そうそう。私もインスタでずうっとチェックしてたもん」

    彼: 「で、どこまで揃えるの?」

    彼女: 「えっと、私の部屋、収納も少ないから、ベッド、ソファ、ダイニング、

    TVボード。あとは収納できる家具かな」

    彼: 「全部じゃん」

    彼女: 「そうよー。お部屋のカラーに合わせてテイストを統一したいの」

    彼: 「部屋のカラー?」

    彼女: 「うん。白を基調にした明るい木目調の色合い」

    彼: 「ようし、じゃあ、この家具の森の中から、探し出そう」

    彼女: 「りょーかい」

    <シーン3/彼女の部屋>

    彼女(モノローグ):

    結局、私の部屋は、明るいトーンのインテリアに彩られた。

    壁が白、柱周りやアクセントに木目という部屋のカラー。

    家具たちは、まるで最初からそこにあったかのようにしっくり佇んでいる。

    ベッドは、彼が開発したAIコーディネーターのオススメでリクライニングに。

    フレームの木目がすごく落ち着いていい感じ。

    ダイニングは小さめのテーブル。

    彼と2人で食事するのにちょうどいいサイズ。

    2人のチェアは長時間座っても疲れないダイニングチェア。

    ホームワーク用のデスクは、少しだけ濃い目のトーン。

    オンオフの切り替えもできるから満足している。

    (SE〜紅茶を注ぐ音+食器を置く音)

    彼: 「小さいけど、いい部屋だね」

    彼女: 「そう?ありがとう」

    彼: 「家具たちもなんか嬉しそうだ」

    彼女: 「あら、AIの研究室にいる人にしてはメルヘンチックなセリフね」

    彼: 「僕はもともとロマンティストなんだ」

    彼女: 「そうですかー」

    (SE〜花瓶を置く音「コトッ」)

    彼: 「なにそれ?」

    彼女: 「花瓶よ。桜を生けてみたの」

    彼: 「枝を折ってきたの?」

    彼女: 「そんなことするわけないじゃない。

    お花屋さんで買ってきたのよ」

    彼: 「え?花屋さんに桜が売ってるの?知らなかった」

    彼女: 「季節になると、桜も梅も売ってるよ。

    でも、開花してるとすぐに散っちゃうから蕾の桜。

    お部屋の中でじっくり短い春を楽しむの」

    彼: 「花の色は うつりにけりな いたづらに

    わが身世にふる ながめせしまに」

    彼女: 「プッ。やだー。らしくない。どうしたの?」

    彼: 「僕が知ってる花の和歌はこのくらいかな。

    万葉集にはきっとたくさんあるんだろうけど」

    彼女: 「その歌は万葉集じゃなくて古今集。

    小野小町の作でしょ。小倉百人一首とかで詠まれてるじゃん」

    彼: 「なんか、小野小町って、君と重なっちゃって」

    彼女: 「それは、絶世の美女ってこと?

    それとも、売れ残っちゃうのを焦るとこ?」

    彼: 「焦ってるの?」

    彼女: 「焦ってません。でも、この歌は刺さったな」

    彼: 「え?」

    彼女: 「だって、以前お花見で私が詠んだ歌の真逆だもん。

    覚えてる?あの歌?」

    彼: 「ああ。

    桜花、時は過ぎねど・・・ってやつだろ?」

    彼女: 「そう。

    桜花、時は過ぎねど、見る人の、恋ふる盛りと、今し散るらむ。

    盛りのうちに散っちゃおう、っていう歌よ。

    盛りが衰えていくのを悩んでいる小野小町とは対局ね」

    彼: 「きみはどっち?」

    彼女: 「私はウジウジしたくないから前者かな」

    彼: 「そう思った。じゃあ・・・はい」

    彼女: 「え・・・なにこれ?」

    彼: 「フレグランスランプだよ。

    この部屋に合う香りってベルガモットかなって。

    君の就職祝い。遅くなってごめんね」

    彼女: 「やだ。サプライズ?」

    彼: 「いや、サプライズはそっちじゃなくて」

    彼女: 「えーなになに?」

    彼: 「こっち」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    彼女: 「あ・・・」

    彼: 「僕の気持ち、受け取ってくれる?」

    彼女: 彼は、胸ポケットから小さな赤い箱を取り出した。

    箱の中には、まばゆい光を放つブリリアントカット。

    彼女: 「ちょっと。こんなとこで片膝つかないで」

    彼: 「だって、これはセレモニー」

    彼女: 「じゃあ、歌で返す。返歌、返し歌よ。

    『忍ぶれど色に出でにけりわが恋は

    ものや思ふと人の問ふまで』

    知ってるでしょ」

    彼: 「うん。聞いたことある」

    彼女: 「隠していた私の恋心が顔に出てしまったわ。

    恋の悩みでもあるのかって人から尋ねられるほどに」

     

    彼: 「それって、Yes、だよね?」

    彼女: 「もちろん」

    彼: 「ありがとう!」

    彼女: 彼は少しぎごちない仕草で、その思いを私の指にはめる。

    小さな石に映るまばゆい光は、私の心を照らしていった。

  • 「Anniversary」後編は、大学を卒業し、それぞれの道を歩み始めた二人の姿を描いています。忙しい毎日を過ごしながらも、かつての想いを大切にし続ける彼と彼女。その関係は、4年前とはまた違った形に変化しています。

    今回のテーマは、インテリアブランド「ねむりデザインLABO」。睡眠の大切さを再認識しながら、互いの未来を見据える二人の姿に注目してください。そして、最後に待っている「サプライズ」は、どんな形で訪れるのでしょうか?

    【登場人物】

    ・彼女(25歳)・・・売り出し中の若手声優。毎日スケジュールに追われ、アニメやゲームのアフレコに追われ、オーディションに追われ、寝る間もなく活動している(CV:桑木栄美里)

    ・彼(25歳)・・・大学卒業後、内定していた就職先を辞退して、2浪してこの春から獣医になる。今はペットクリニックで働いている。誕生日は彼女と同じく3月(CV:日比野正裕)

    <シーン1:カフェ>

    (SE〜カフェのガヤ〜紅茶を飲む音)

    彼女: 「合格おめでとう」

    彼: 「ありがとう」

    彼女: 「晴れて春から動物のお医者さんね」

    彼: 彼女は獣医のことを”動物のお医者さん”と言う。

    そういえば、昔、そんなアニメかマンガがあったような。

    いま売り出し中の若手声優の彼女。

    まだレギュラーのアニメや映画出演があるわけじゃないけど

    僕から見ても、表現のレベルは相当高いし、センスもいい。

    3歳の頃から朗読の勉強をはじめていま25歳。

    まあ20年以上のキャリアがあるようなもんか。

    だからかな、

    アニメやゲームのアフレコ、PVのナレーション、Vチューバーと

    休みなく活動している。

    今日彼女と会えたのも、2か月ぶりだ。

    彼女: 「顔を合わせるのって、久しぶりね」

    彼: 「56日ぶり」

    彼女: 「なかなか会えなくてごめんね」

    彼: 「いいことじゃないか。

    それだけ君に需要があるっていう意味だから」

    彼女: 「そうかなあ」

    彼: 「そうだよ」

    彼女: 「声優人気がハンパない今のうちに、フル回転させられてるって感じ」

    彼: 「そんなことないさ。

    どんなロジックでも売れていくことはいいことだろ」

    彼女: 「たまに思うんだよね。

    私じゃなくてほかの声優さんでも結果は同じじゃないかって」

    彼: 「合否の結果は同じでも、

    君じゃなければ世に出るものの価値がまったく違う」

    彼女: 「そう?」

    彼: 「僕はこっち側の人間だからね。

    受け手として感じたままを正直に言ってるだけ」

    彼女: 「そういうとこ、理系の彼氏でよかったわ」

    彼: 「今はブームのせいで作品も表現者も粗製濫造のイメージだけど

    あっという間に淘汰されていくと思うよ」

    彼女: 「ありがとう」

    彼: いつの間にか、僕はいっぱしのコメンテーター気取りだ。

    伴走者のつもりで彼女と会話をするうちに

    声優業界についても妙に玄人はだしになってしまった。

    久しぶりの逢瀬は、彼女がエスプレッソ3杯、僕がアールグレイ4杯。

    3時間たっぷりと話し合った。

    このあとは、いつものルーティン。

    4年前のあの日以来、僕たちのデートコースに組み込まれた場所があるんだ。

    <シーン2/インテリアショップ(ねむりデザインLABO)>

    (SE〜インテリアショップのガヤ)

    彼女: 「このお店、もう私たちの定番コースね」

    彼: 屈託のない笑顔で彼女が、口角を上げる。

    ここは、いつものインテリアショップ。

    4年前、初詣の帰りにふと立ち寄った家具屋さんだ。

    あの頃いつも見ていたのは、

    まばゆいインテリア雑貨とアート。

    まるで『不思議の国』のような世界に夢中だった。

    でも、最近は・・・

    彼女: 「やっぱり真っ先にベッドコーナーに行くのね」

    彼: 「ベッドコーナーじゃなくて、ねむりデザインLABOだよ」

    彼女: 「ラボ、だなんて、あなたの口から出るとすっごい説得力」

    彼: 「本当にラボ、研究所じゃないか。

    獣医の国家試験に合格するまで、僕はずうっと睡眠障害だったのに」

    彼女: 「私だって何年も不眠症に悩まされていたけど」

    彼: 「スリープアドバイザーに相談してよかっただろ」

    彼女: 「そうね。私も知らなかったわ。

    睡眠障害が、枕やマットレスで改善されるなんて」

    彼: 「まあ、それは厚労省のサイトにも明記されているけどね」

    彼女: 「わあ、また理系っぽい話し方」

    彼: 「すぐそうやってバカにする」

    彼女: 「してないわよ。

    だって、睡眠の質が人生の質をあげるんでしょ」

    彼: 「もちろんさ。人生の1/3は睡眠時間だしね」

    彼女: 「お互いに、ステップアップしていかなきゃ」

    彼: 「そうだな。

    ちゃんと快眠できれば、獣医としての仕事の質も上がる」

    彼女: 「私もベストコンディションでスタジオに入れるもの」

    彼: 「早く次のステップへ行きたいな」

    彼女: 「それは仕事?私たちの関係?」

    彼: 「どっちも。だって両方大切だろ」

    彼女: 「うん。でも・・・」

    彼: 「なに?」

    彼女: 「ううん、なんでもない」

    彼: 次のステップ。

    彼女が考えるステップは何を表す言葉だろう。

    果たして僕と彼女の思いに齟齬はないだろうか。

    あ、また、”齟齬”だなんて言葉を使ったら彼女に注意されるかな。

    <シーン3/街中を歩く2人>

    (SE〜街角のガヤ〜2人の足音)

    彼女: 「ねえ、今日はアパートでご飯食べない?」

    彼: 「え?」

    彼女: 「なんか、外食もう飽きちゃった」

    彼: 「でも、食べるものあったっけ」

    彼女: 「適当にデリバリーすればいいじゃない」

    彼: 「あ、そうか、いいよ」

    彼女の横顔が僕から視線をはずす。

    少しだけ口元が緩んだように見えたのは気のせいかな。

    彼女とはお互いのアパートを行き来する関係。

    今日は僕がオペで遅くなったから

    クリニックの近くで彼女が待っていてくれた。

    こうやって何気ない会話をしながら、

    一緒に歩いて家に帰るってのもいいもんだな。

    やがて、アパートが見えてきた。

    彼女は・・・

    なんだか、笑いを殺したポーカーフェイスみたいに見えるけど。

    僕たちは、腕を組んでエントランスからエレベータに乗る。

    13階で降りれば、部屋はすぐ目の前だ。

    彼: 「あ?灯りがつけっぱなしだ

    朝、そのままで出ちゃったのかなあ」

    慌ててロックをはずし、部屋の中へ。

    彼: 「え!」

    食卓の上に、豪華な料理が並んでいる。

    料理の横には2つのシャンパングラス。

    驚いて振り返ると・・・

    彼女: 「サプラ〜イズ!!」

    (SE〜シャンパンのボトルを開く音)

    彼: 彼女がシャンパンのコルクを抜く。

    片手に瓶を持ち、満面の笑みで

    彼女: 「ハッピーバースデー!!」

    彼: 「あ・・・」

    彼女: 「4年前のリベンジよ」

    彼: 「そうか・・・

    忙しさにかまけて、すっかり忘れていた。

    今日は・・・」

    彼女: 「自分の誕生日も忘れてたでしょ」

    彼: 「うん・・・」

    彼女: 「もう大変だったんだから。

    あなたが帰る時間を逆算して一生懸命料理を作ったのよ」

    彼: 「ありがとう・・・」

    彼女: 「ふふん、お礼はまだ早いと思うけどなあ」

    彼: 「え・・・」

    彼女: 「寝室へ入ってみて」

    彼: 慌てて寝室の扉をあけると、

    「あ!」

    彼女: 「もうひとつサプラ〜イズ!!」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    彼: 僕のほしかった電動ベッドがそこにあった。

    彼女: 「これが、私からのバースデープレゼント」

    彼: 「そんな・・・こんな高いもの」

    彼女: 「なに言ってるの。

    先月のお給料が入ったばかりだし。

    いまの電動ベッドは私のギャラでも十分買えるわよ」

    彼: 「嬉しくて言葉が出ないよ・・」

    彼女: 「スリープアドバイザーに相談してセミダブルにしたの。

    リクライニングソファのように2人寝そべってアニメ見られるわよ」

    彼: 「もうすぐ君が主演するアニメを見られそうだね」

    彼女: 「だといいけど」

    彼: 「来週の君の誕生日、サプライズしようと思ってたのに」

    彼女: 「え、言わないでよ!ネタバレはなし」

    彼: 「了解」

    彼女: 「さ、料理、冷めちゃう前に、食べましょ」

    彼: 「ああ」

    僕は、ずっと胸ポケットにしまってある小さな箱に手をあてた。

    ネタバレなしなら仕方がない。

    来週の彼女の誕生日に、ひざまづいてサプライズしよう。

  • 「Anniversary」は、大学生活最後の春を迎えた二人が、偶然の出会いをきっかけに心を通わせていく物語です。卒業を間近に控えた彼女と彼、それぞれが未来に向けた夢や不安を抱えながらも、大切な「今」を紡いでいく姿を描きました。

    今回は、インテリアブランド「IROTTA CHIC」のきらめく世界を舞台に、二人が共有する特別な瞬間を綴っています。家具やアートに囲まれた空間が、彼女の心にどんな変化をもたらすのか——ぜひ、彼女の目線で楽しんでください。そして、最後に待ち受けるサプライズの瞬間、あなたも一緒に驚いていただけたら嬉しいです。

    【登場人物】

    ・彼女(21歳)・・・女子大学4年生。モダンダンス部に所属。自主講演を中心として幅広く活動中。ダンスと同時に声優の勉強も独学で始め将来の道に悩んでいる。誕生日は3月(CV:桑木栄美里)

    ・彼(21歳)・・・大学4年生。野生生物研究会。彼女とは彼女が通う女子大の大学祭で知り合った。月1回の野外観察と彼女の合宿が重なった。誕生日は彼女と同じく3月(CV:日比野正裕)

    【Story〜「Anniversary/IROTTA CHIC/前編」】

    <シーン1/コテージ>

    (SE〜森の小鳥ー冬の鳥/シジュウカラやヤマガラなど)

    (SE〜ドアを何度もノックする音)

    彼女: 鳥のさえずりしか聞こえない静かな森。

    私たちのコテージ周辺に不審者出没の情報がとびこんできた。

    ◾️BGM/houseparty-347242533.wav

    うそでしょ・・・

    冬眠から目覚めたクマじゃないの。

    いや、そっちの方が怖いか。

    私は、女子大の舞踊教育学コース4年生。

    モダンダンス部の友だちと小旅行に来ている。

    10月の自主公演、11月の大学祭と、大学生活最後の年を満喫した。

    いまは卒業を来月に控えて友だちとの思い出作り。

    こんなところに不審者?

    私は震えながら、部屋の戸締りを確認する。

    そういえば彼は?

    確か、この近くでサークルの野外活動をしていたんじゃないかしら。

    まさか、不審者って彼のことじゃ・・・

    なわけないか。

    私と同じ市内で理系の大学に通う、3年生。

    彼と私はうちの大学祭で知り合った。

    <シーン2/大学祭〜フランクフルト屋台>

    女子大の学祭名物、フランクフルト屋台。

    私は給仕をしながらお客さんのリクエストでダンスを踊る。

    なのに、そんな私には目もくれずに

    夢中でフランクフルトを食べ続ける彼。

    その食べっぷりが面白くてじっと覗き込んでしまった。

    彼は、

    彼: 「僕の顔になにかついていますか?」

    彼女: とつぶやき、その言葉もツボにはまって

    笑いが止まらなくなっちゃったんだ。

    結局、笑い過ぎたお詫びに私から彼をお茶に誘い、

    それからたま〜に連絡するようになって今に至る。

    その彼も野生生物研究会の活動でこの森に来ているはずだ。

    といっても、今年の1月以来彼の顔は見ていない。

    就職先の研修やら卒業論文やらで忙しく走り回っている。

    こんなときなのに、彼と最後に会った日のことを思い出してしまう。

    あれは・・・

    初詣のあとに立ち寄ったインテリアショップ。

    <シーン3/インテリアショップ(IROTTA CHICコーナー)>

    (SE〜インテリアショップのガヤ)

    奥に囲まれたコーナーへ彼が吸い込まれていった。

    彼: 「ちょっと、こっち来てよ」

    ◾️BGM/after-all-347727614.wav

    彼女: 「なあに?」

    彼: 「なんか、このエリア、煌めいてないか」

    彼女: 「え?・・・わあ〜」

    彼女: そこは白とピンクを基調にした、プリンセス系のお部屋。

    シャビーシックなピンクで彩られた壁紙とラグマット。

    ラメを散りばめた白いダイニング、ソファ、ロッキングチェア、ベッド。

    彼女: 「まるでお城に住んでいる、お姫様のお部屋みたい」

    彼: 「はは、さすが声優を目指しているだけあって、表現力が豊か」

    彼女: 「眠っている間に異世界召喚されて、こんなお部屋で目覚めたい」

    彼: 「出たな、異世界召喚アニメフェチ」

    彼女: 「だってやっぱり憧れちゃうもん」

    彼: 「まあ、僕はこっちの部屋かな」

    彼女: 「うわ、楽しそう」

    彼: 「この巨大なホワイトタイガーのぬいぐるみと一緒に

    カラフルなソファで寝転びたいな」

    彼女: 「ふふ、あなたらしい」

    彼: 「ゴリラとかバイクのオブジェもあるんだよ(ぜ)」

    彼女: 「おもしろ〜い」

    彼: 「なんか、みんなキラキラしてるね」

    彼女: 「家具屋さんなのに楽しい」

    彼: 「お、この部屋もすごい」

    彼女: 「どれ?」

    彼: 「ほら」

    彼女: 「絵画?」

    彼: 「みたい。

    彼女: 「絵画だけど、全ての絵がキラキラしてる」

    彼: 「ホントだ」

    彼女: 「クリスタルかな」

    彼: 「しかも名画や風景から映画の1シーンまでいろんなのがある」

    彼女: 「うん」

    彼: 「この映画って、好きだったんじゃない?」

    彼女: 「あ・・・」

    彼女: 私の目の前に現れたのは、

    『ティファニーで朝食を』のラストシーン。

    黒いドレスのヘプバーンが早朝のニューヨークを歩いている。

    しかも等身大のアート。

    ドレスの部分にはラインストーンが散りばめられている。

    彼: 「遊び心満載だなあ。

    ほら、バンクシーもあるよ」

    彼女: 彼はきらめくアートに囲まれて、テンションがMAXになっている。

    私は、それよりもヘプバーンにもう釘付け。

    ドレスの裾をひらめかせ、目の前でポーズをとる美しき妖精。

    こんなアートが自分の部屋にあったら、

    毎日がどんなに素敵になるだろう。

    私は時間を忘れて、ヘプバーンの前で立ち尽くしていた。

    <シーン4/コテージ>

    (SE〜森の夜/フクロウなど)

    (SE〜部屋の電話のコール音)

    彼女: 不躾に鳴り響くコール音。

    私は束の間の現実逃避から、現実世界へ呼び戻された。

    (SE〜受話器をとる音)

    彼女: 「もしもし・・・」

    彼女: 電話は一緒に来ているモダンダンス部の仲間。

    なんと、不審者が館内にいるかもしれないと告げて電話を切った。

    不安と緊張のボルテージは一気に最高潮に達する。

    と、そのとき・・・

    (SE〜ドアを激しく何度もノックする音)※以下何度も使用

    彼女: 「うそっ!?」

    彼女: 私は他人(ひと)から見たらおかしいほどに狼狽える。

    ドアから一番離れたベッドに背中を押し付け、身構えた。

    そこへ、友人の声で、

    ”早く開けて!”

    ”急いでここを出るの!”

    という、焦って慌てた怒鳴り声が耳に飛び込んでくる。

    け、警察!

    そうだ、警察に電話しなきゃ。

    ”ねえ開けてよ!”

    彼女: 「待って、先に警察に電話するから」

    ”それよりここを出なきゃ!”

    彼女: 友人の緊迫した声に気圧されて、思わず扉を開ける。

    (SE〜扉を開く音/と同時にクラッカーの音と歓声)

    全員: 「サプラ〜イズ!!」

    彼女: 「え?」

    彼女: 扉の向こうには、モダンダンス部の仲間たちが勢揃いしていた。

    (SE〜クラッカーの音と拍手・歓声)

    全員: 「ハッピーバースデー!!」

    彼女: 「あ・・・」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    彼女: すっかり忘れていた・・・

    そうか、今日は私の誕生日・・・

    彼: 「誕生日おめでとう」

    彼女: 「え〜!?」

    彼女: 整列した仲間たちの後ろから現れたのは、ヘプバーン!

    3か月前にインテリアショップで見たアートを抱えた彼だった。

    彼女: 「やだ・・・」

    彼: 「事情を話したら家具屋さんがここまで運んでくれたんだ」

    彼女: 「あ、ありがとう・・・」

    彼: 「ここから君のアパートまでは一緒にクルマで持っていこう」

    彼女: 「うん・・・」

    彼: 「新しい君の1年が最高の1年になりますように」

    彼女: 「もう・・・これ以上泣かせるようなこと言わないで」

    彼女: 頭の中が整理できないほど、あまりにドラマティックな演出で、

    私の21歳のアニバーサリーが過ぎていった。

    (SE〜拍手と歓声)

    全員: 「おめでとう!!」

  • 前編では、主人公が幼い頃から憧れていた大学への進学を果たし、
    その背後にあった家族の支えと「言霊」の力が描かれました。

    そして時は流れ、今、彼女は結婚式を迎えています。
    人生の新たな門出を前に、彼女が思い出すのは10年間使い続けた丸いテーブル。
    それは、かつて父と母とともに選んだ、大切な家具でした。

    結婚という人生の大きな転機を迎えたとき、
    彼女が家族から受け継ぐものとは?
    そして、彼女の新しい人生に「丸いテーブル」はどんな意味を持つのでしょうか?

    ボイスドラマでも、家族の愛と絆がより深く伝わる作品になっています。
    ぜひ、SpotifyやApple、Amazon Musicなどでチェックしてみてください。

    【登場人物】

    ・娘(18歳/29歳)・・・飲料メーカーの商品企画部に所属するマーケター。今日が自身の結婚式。ホームワークは食卓兼ワーキングデスクの丸いテーブル。10年使っているテーブルだが、彼女には結婚しても捨てられない思い出のテーブルだった(CV:桑木栄美里)

    ・母(44歳/55歳)・・・飲料メーカーの商品企画部に所属するマーケター。結婚式を1か月後に控えている。ホームワークは食卓兼ワーキングデスクの丸いテーブル。10年使っているテーブルだが、彼女には結婚しても捨てられない思い出のテーブルだった(CV:桑木栄美里)

    ・父(45歳/56歳)・・・45歳当時は物流会社の課長だったが10年後に部長に。目の中に入れても痛くない娘が大学に合格。東京へ出て1人暮らしをするときに家族3人で家具を選んだ。父・母・娘それぞれの思いが詰まった家具とは・・・(CV:日比野正裕)

    <シーン1:娘の新居/いま/父母娘>

    (SE〜紅茶を飲む音)

    母: 「もう11年になるのね。

    いつまでも丈夫で素晴らしいわ」

    父: 妻が娘の新居で、独り言のように呟く。

    なんのことかと思ったら、食卓テーブルのことらしい。

    妻が腰をおろしている食卓は少し大きめの丸いテーブル。

    母: 「思い出すわねえ、11年前のあの日。

    あら、ちょうど今日じゃなかったかしら?」

    父: 「ああ、そうかもしれないな。よく覚えてないけど」

    母: 「うそおっしゃい。

    ちゃんと覚えてるんでしょ」

    父: やっぱり、妻はなんでもお見通しだ。

    思えば11年前のこの日。

    娘の大学受験。合格発表の日だった。

    <シーン2:11年前/合格発表の日>

    いまどきは、合格発表をインターネットでするのか!と思いつつ、

    かく言う自分もキャンパスにいた先輩大学生に、

    合否を連絡してくださいとお願いしたんだった。

    発表の日、電話の前で正座していつかかってくるかハラハラして待っていたなぁ。

    「サクラサク」「サクラチル」

    電話代節約なのか、まるで電報のように短い言葉で伝えてくる先輩。なつかしいな。

    あ、娘の話に戻そう、、、

    丸テーブルで家族全員で発表を見たい!と言い出した。

    (娘「丸テーブルで家族全員で発表を見たい!」)

    そりゃ、いてもたってもいられないのはわかるけど。

    朝から用事で出かけるというと、怪訝な顔をされた。

    食卓は今までずうっと家族が集まってきた場所。

    丸い食卓テーブルでみんなで合格を祝うのが確かに一番うちらしい。

    私はカバンに娘が欲しがっていたスマートウォッチを入れた。

    実は、もう合格を信じて、お祝いのプレゼントを買っていたんだ。

    そうだ。娘の大好物、ふかし芋も出かける前に作っておいてやろう。

    さつまいもは冬の終わりまでが旬だからな。

    甘みたっぷりの地元のふかし芋だ。

    きっと喜ぶだろう。

    娘の喜ぶ顔を想像して、つい口元がほころぶ。

    私は蒸しあがったふかし芋を新聞紙に包み、

    ラップをかけて、さらにハンカチでくるみ、戸棚にしまった。

    <シーン3:11年前/神社>

    (SE〜街角の雑踏と足音)

    県内でも合格祈願で有名な大きな神社。

    家からは少し距離があるが、今日は朝からどうしてもここに来たかった。

    拝殿に上がらせていただき、お祓いとお清めを受ける。

    娘に買ったスマートウォッチと、娘の受験票。

    私の身も含めてすべて祓い、清めていただく。

    大願成就の厳かな祝詞が流れ、頭を下げる。

    大長編の祝詞だが、その分ご利益も間違いないだろう。

    お祓いが終わり、神社をあとにしたのが昼近く。

    今から帰れば合格発表の時間には十分間に合う。

    途中、花屋さんで大きな大きなバラの花束を買う。

    顔が隠れるくらい大きな大きな花束。

    周りの人たちがチラチラ私を横目で見る。

    今頃、妻と娘は丸テーブルの前で

    お茶でも飲みながら、パソコンを開いていることだろう。

    発表の時間が近づき、

    時計で時間を確かめると、発表1分前だ。私は花束を手に家へ向かう。

    大通りを抜け、信号を渡る。家はもう目の前だ。

    10秒前。5秒前。

    発表の時間になった。

    結果は見ない。私は最後まで娘を信じているから。

    大きく深呼吸をして、娘に電話をかける。

    1回。2回。3回のコールで娘が出た。

    娘: 「もしもし」

    父: 私は娘より先に、言葉をかける。

    「おめでとう!やったな!」

    娘: 「うん!ありがとう、パパ」

    父: 「いますぐ、お祝いしなきゃ」

    娘: 「わかった。早く帰ってきて」

    父: 「ああ、もう帰ってるよ」

    娘: 「え?」

    (SE〜家のドアチャイム「ピンポン!」)

    父: 私はインターフォンを押した。

    (SE〜ドアが開く音)

    チェーンをはずしてドアが開く。

    ドアの向こうには、瞳を潤ませた娘が立っていた。

    感無量の表情で私に微笑む。

    父: 「おめでとう!本当におめでとう!」

    妻と娘と私。親子3人で、声をあげて泣いた。

    <シーン3:いま/娘の新居>

    母: 「3時間くらい、食卓の丸テーブルで泣き笑いしてたわね」

    父: 懐かしそうに、妻が思い出を語る。

    母: 「結局、家具屋さんへ行ったのは次の日だったのよ」

    父: 「ああ、覚えてるよ」

    母: 「そこで、これを」

    父: 「そうだったな」

    母: 「この娘は、小さな部屋だからって小さい四角のテーブルを選ぼうとして」

    父: 「ママがそれをとめた」

    母: 「実家でも、食卓は優しい丸テーブルなんだもの」

    父: 娘は幸せそうな顔で、私たちの思い出話を聞いている。

    母: 「丸いテーブルでないと。

    丸という形は、部屋をあったかくしてくれるのよ」

    父: あの日と同じ笑顔で、同じ言葉を話す。

    母: 「テーブルが丸いと、どの位置からでも座れるでしょ」

    父: 「そうそう。そう言って、2つの椅子も選んだんだっけ」

    母: 「椅子がひとつなんてダメよ。

    お友達がきたときにどうするの。

    1組あれば、2人はちゃんと座れるでしょ」

    父: 「でも、2つじゃ足りないよな」

    母: 「そう言って、あなたがもう1脚、

    折りたたみの白くて可愛いチェアを選んだのよ」

    父: 「よかったじゃないか。3つあればこれから私たちが来ても、みんな座れる」

    母: 「最初から、娘の部屋にくること前提なんだから(笑)」

    父: 「バレバレだったか(笑)」(「バレバレでしたか(笑)」)

    妻は娘の方へ向き直って口元をほころばせながら娘に話しかける。

    母: 「でもまさか、あなたが新居にまで持ってくるとは思わなかったわ」

    父: 「ママのDNAが受け継がれたんだな」

    母: 「そうかもね。

    でもね、私は次に食卓を買うときも丸テーブルにした方がいいと思うの」

    父: 「わかるよ」

    母: 「丸テーブルなら、対面で座っても、横に座っても、距離が近く感じるの」

    父: 「娘の結婚式も丸テーブルだしな」

    母: 「丸テーブル そう!家族みんなでご飯を食べて、あったかい家庭を作りなさい」

    父: 「ママ、もうちゃんと作れてるじゃないか」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    母: 「あら、そうだったわね」

    父: そう言って妻が娘の方へ振り返る。

    丸いテーブルの横に置かれたソファに座り、微笑む娘。

    その胸には、小さなもうひとりの家族が、優しく抱かれていた。

    すやすや眠る小さな命は、丸テーブルの5人目の家族になるだろう。

  • 一脚の丸いテーブルを通して、親と子の絆、成長、そして大切な思い出を紡ぐ物語です。

    主人公は、8歳、18歳、そして28歳の3つの時間軸で描かれる一人の女性。
    彼女の人生の節目には、いつも家族とともに選んだ丸いテーブルがありました。
    幼い頃に抱いた夢、大学受験、そして新しい人生の門出——
    そのすべての場面に、家族の愛とぬくもりが詰まっています。

    【登場人物】

    ・娘(8歳/18歳/28歳)・・・飲料メーカーの商品企画部に所属するマーケター。今日が自身の結婚式。ホームワークは食卓兼ワーキングデスクの丸いテーブル。10年使っているテーブルだが、彼女には結婚しても捨てられない思い出のテーブルだった(CV:桑木栄美里)

    ・父(35歳/45歳/55歳)・・・45歳当時は物流会社の課長だったが10年後に部長に。目の中に入れても痛くない娘が大学に合格。東京へ出て1人暮らしをするときに家族3人で家具を選んだ。父・母・娘それぞれの思いが詰まった家具とは・・・(CV:日比野正裕)

    【Story〜「丸いテーブル/新生活/前編」】

    <シーン1/いま/結婚式場>

    (SE〜結婚式場のBGM/雅楽)

    娘: 厳かな神殿での結婚式。

    私の28年を寿ぐような美しい祝詞が奏上されていく。

    不思議だな。

    人生の走馬灯って、ご臨終のときだけじゃなくて

    こんなハレの日にも回るんだ。

    と、不吉な言葉を口にする私。

    大丈夫、これは言霊じゃないから。

    私の頭の中に蘇るのは、走馬灯でなく、食卓のテーブル。

    テーブルには、大切な思い出がいっぱい詰まっている

    私は、姉と10歳以上も離れて生まれた末っ子。

    遅くに生まれた子ということもあって、

    父と母にこれ以上ないくらい愛されて育った。

    たっぷりの愛情に抱かれて過ごした年月が

    古い映写機で上映されるように蘇る。

    (SE〜映写機の音)

    (SE〜家庭内の雑踏)

    私の人生で、転機は3回。

    ひとつは、8歳のとき。

    小学生のときに憧れのダンスの先生がいた。

    そのかっこいい先生が卒業した大学にどうしても入りたくなった。

    <シーン2/20年前/自宅の食卓>

    家の中央に置いてある大きな食卓。

    それは父と母のこだわりで大きくて丸いテーブルだった。

    父: 「まあるいと、お部屋があったか〜くなるんだよ」

    娘: 父はいつも私にそう言っていた。

    そのテーブルに座って家族みんなが集まるある日の夕食。

    私は、超難関の有名大学を受験する!と、両親に宣言した。

    一番驚いたのは父。

    座っていた食卓の椅子から身を乗り出して、私に言葉を返した。

    普段は声が大きい父なのに、私の目を見てゆっくりと話す。

    父: 「その大学って、東京だろ」

    娘: 「うん」

    父: 「日本一難しい女子大だろ」

    娘: 「うん」

    父: 「でも日本一素敵な大学だろ」

    娘: 「うん!」

    父: 「じゃあ、もう一度言ってごらん」

    娘: 「え?どうして?」

    父: 「言霊だよ」

    娘: 「ことだま・・・?」

    父: 「うん、良い言葉を口にすると、良いことが起こるんだよ」

    娘: 「ホント!?」

    父: 「そう。だから言ってごらん」

    娘: 「わかった・・・んと・・・私、東京の女子大に合格する!」

    父: 「よし!じゃあ、これから、パパとママと一緒にがんばろう」

    娘: 「うん!ありがとう!」

    父: 「パパは10年後が楽しみだな」

    娘: 最初は驚いていた父も母も、諸手を挙げて大賛成。

    私はその日から勉強とクラシックダンスに明け暮れるようになった。

    <シーン2/10年前/自宅のダイニング>

    娘: そして、10年後。

    2回目の転機は、もちろん、志望大学の合格発表の日。

    私が受験したのは、宣言した通り超難関の女子大一択。

    10年前、父に言われた言霊を信じて、まっすぐにすすんできたから。

    不合格、なんていう未来は私の中にはなかった。

    合否の結果は、

    インターネットの受験生専用サイトで決まった時間に発表・配信される。

    私はいても立ってもいられず、学校を休んで朝からパソコンとにらめっこ。

    丸いダイニングテーブルに座って、

    まだ公開されていない合格発表サイトを何度も見返す。

    こんなときでも、やっぱり丸いテーブルって落ち着くなあ。

    今日に限って、父は

    「用事があるから」

    と、出かけてしまった。

    私と母は、良い結果が出たら、そのまま家具屋さんにいくつもりだ。

    頭の中で、部屋に合わせた家具を、必要最小限で考えてある。

    あとは、吉報を待つだけだ。

    いよいよ、合格発表の時間がやってきた。

    ドキドキして心臓が止まりそうになる。

    ストレスで喉がカラカラになった。

    母と一緒に発表時間をカウントダウンする。

    3、2、1、ログイン!

    受験者専用の特設サイトには、画面いっぱいに番号が並ぶ。

    13765、13984、13990・・・

    焦らず、焦らず。

    画面をゆっくりとスクロールする。

    14001、14012、そして・・・14015!

    私の受験番号、14015番が下からゆっくりと現れた!

    「ママ!」

    そう言ったきり、しばらく言葉が出てこない。

    母も私も、無言で顔を見合わせ、瞳を潤ませる。

    そのとき、私のスマホが鳴った。

    びくっとして、スマホを落としてしまう。

    母が笑いながら、パパよ、と笑う。

    着信の表示は、見慣れた父の携帯番号だった。

    娘: 「もしもし」

    父: 「おめでとう!やったな!」

    娘: 「うん!ありがとう、パパ」

    父: 「いますぐ、お祝いしなきゃ」

    娘: 「わかった。早く帰ってきて」

    父: 「もう帰ってるよ」

    娘: 「え?」

    (SE〜ドアチャイム「ピンポン!」)

    娘: ドアをあけると、

    玄関の外に、大きな花束を抱えた父が立っていた。

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    父: 「おめでとう!本当におめでとう!」

    娘: そう言って花束を手渡す父。

    私も母も、驚きと喜びで一瞬固る。

    次の瞬間、でも、(すぐに)父の胸に飛び込んだ。(私と母)

    そのあとしばらく、親子3人、声をあげて泣いていた。

    どのくらい、3人で抱き合っていただろう。

    やがて思い出したように、父が言葉を絞り出す。

    父: 「合格祝い、ちゃんとあるよ」

    娘: 「ええっ?もし不合格だったらどうしていたのよ」

    父: 「それはありえないだろう。言霊がお前を守ってくれるんだから」

    娘: 「パパ!」

    父: 「さあ、プレゼントをあけてごらん」

    娘: 「うん」

    父: 「お前が欲しがっていたスマートウォッチだよ」

    娘: 「スマートウォッチ!!え?なんで私がほしかったのしっているの?」

    父: 「ん〜」

    娘: 「ありがとう!」

    父: 「それ神社でお清めしてもらったからな」

    娘: 「パパ、朝から神社に行ってたの?

     ああ、、それで・・・(居なかったんだ、というニュアンス)」

    父: 「いや、ちょっとほかの用事もあったからな・・・

    まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。

    そうだお前の好きなふかし芋も戸棚にあるからな」

    娘: 「ホント!?そっちの方が嬉しいかも」

    父: 「ん?じゃあ、スマートウォッチはいらな、、、」

    娘: 「(前に被せて)いる!!」

    父: 「はは・・・どっちもお前が引き寄せたんだよ」

    娘: 「ううん。ぜんぶ、パパとママのおかげだね」

    父: 「何を言ってる。お前が実力でつかんだ夢じゃないか」

    娘: 「違うよ。だって、パパとママがいなかったら、私はこの世にいなんだもん」

    父: 「え・・・」

    娘: 「パパ、ママ。私を産んでくれて、私を育ててくれて、本当にありがとう!

    これから、いっぱい恩返しするから!」

    父: 「ああ・・・泣かせるんじゃないよ、、、」

    娘: あんなに涙を流した父は、あの日以外見たことがない。

    <シーン4/いま/結婚式場>

    (SE〜結婚式場の雑踏)

    私の結婚を誰よりも喜んで、誰よりも幸せなのは父と母。

    泣き笑いの顔を見ているだけで、手にとるようにわかる。ふふ。

    私は、10年前を思い出して、一層胸が熱くなった。

    パパ、ママ。

    いつまでも、その笑顔を絶やさずに。

    いつまでも、私のそばにいてね。

  • 前編では、ダンススタジオとレストランでの何気ないやりとりを通じて、二人の関係が少しずつ変化していく様子が描かれました。
    後編では、舞台を家具のイベント「インテリアビッグバザール」 に移し、彼と彼女がさまざまなインテリアを体験しながら、心の距離を縮めていきます。

    「家具は暮らしを変える」。
    新しい空間にふさわしい家具を選ぶことは、単なる「買い物」ではなく、新しい自分への第一歩 でもあります。

    そんな「インテリアの魔法」が、二人にどんな影響をもたらすのか?
    そして、彼のふとした言葉に込められた想いとは?

    ボイスドラマ版では、インテリアの魅力を声と音で伝え、より臨場感のあるストーリーをお届けします。
    Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォーム、または服部家具センター「インテリアドリーム」公式サイト でぜひお聴きください!

    それでは、物語の続きをお楽しみください!

    【登場人物】

    ・彼(38歳)・・・元バレエダンサー。膝を痛めてバレエを断念したが、思いは断ち切れず、ダンススタジオでインストラクターをしている。本職は広告代理店の企画部勤務。彼女のことを意識しているが、年齢差のコンプレックスがあり言い出せない(CV:日比野正裕)

    ・彼女(26歳)・・・前編に登場した息子の姉。芸術大学出身。現在はフリーのイラストレーター。幼い頃からバレエを習い、いまでもダンススタジオに週3で通っている。ダンススタジオで知り合った彼とは月に何回か、食事に行くライトな関係(CV:桑木栄美里)

    <シーン1:ダンススタジオ>

    (SE〜ダンススタジオの雑踏)

    彼: 「はい、おつかれ!今日はここまでにしよう」

    彼女: 「おつかれさまでした!」

    彼: 「お腹すいたな、軽くたべよっか・・」

    彼女: ビルの2階にあるダンススタジオ。

    通りに面した東側には大きな窓ガラスがはまり、

    灯りがともる頃には、外からダンサーたちの動きがよく見える。

    彼の指示で私の定位置はいつも窓側。

    私は、通りを歩く観客に向かってコンテンポラリーダンスを踊る。

    <シーン2:レストラン>

    (SE〜レストランの雑踏)

    彼: 「なんだか、浮かない顔だね」

    彼女: え?私、浮かない顔なんてしてた?

    ちゃんと彼の目を見て笑顔で話をしてたつもりだったのに。

    こういうとこ、鋭い人だな。

    彼: 「実は僕も、今日会社でちょっとミスしちゃってね。

    結構ひっぱるタイプだから」

    彼女: そう?いつもカラっとしてると思ってたけど。

    それに、僕も、って。

    私が気分下がってること、確信してるのね。

    彼: 「まあ、そういうときは、美味しいお肉をたべて・・・

    あ、お肉好きだったよね?」

    彼女: 「はい」

    彼: 「よし、じゃあ、今日はちょっと贅沢して

    飛騨牛のフィレ肉とかいっちゃおうか」

    彼女: 「え〜」

    彼: 「あれ?食べたくない?」

    彼女: 「あ、いえ、食べたいです」

    彼: 「オッケー、決まり。

    店員さん!オーダー!

    あっと、それから・・・

    レッスンのとき以外は敬語っぽい言葉遣いやめてくれる?

    なんか、くすぐったくて、落ち着かないし」

    彼女: 「っと・・・わっかりました〜」

    彼: 「うん、それそれ」

    彼女: タメ口とか、苦手なんだよなあ。

    彼は、ちょっぴり強引だけど、

    なかなか1人で決めきれない性質(たち)の私にはちょうどいいかも。

    それにしても、口の中で溶けちゃうくらい、柔らかくてジューシーなお肉。

    彼: 「どう?美味しい?」

    彼女: 「溶けちゃった」

    彼: 「あはは、そりゃ、シャトーブリアンだもの」

    彼女: 「ん〜!美味しい!」

    彼: 「よかった。

    それで、舌鼓を打っているところ悪いんだけど・・・

    どうしたの?なにかあった?」

    彼女: 「えっと・・・

    私、引っ越ししようと思って」

    彼: 「え?引っ越しって?実家暮らしじゃなかったっけ?」

    彼女: 「あ、そうなんです・・・そうなんだけど(笑)

    弟が社会人になって私の部屋を明け渡しちゃったから」

    彼: 「え、じゃあ、いま、どうしてるの?」

    彼女: 「1人暮らし前提だから、いまは倉庫代わりに使ってた狭い部屋。

    弟は2間続きのスイートになって大喜びしてるわ」

    彼: 「そうか、そしたら明日家具見にいこうか?」

    彼女: 「家具?」

    彼: 「だって、家具ひとつで、お部屋は明るくあったかくなるんだよ」

    彼女: 「へえ〜」

    彼: 「ただの家具屋じゃなくて、すっごいところへ連れてってあげる」

    彼女: 彼はいつだって特別な場所へ私を誘(いざな)ってくれる。

    これって、私が特別な存在ってこと?

    ううん、考えすぎだよね・・・

    <シーン3:イベント会場「インテリアビッグバザール」>

    (SE〜インテリアのイベント会場)

    彼女: 「すご〜い!」

    彼: 「だろう?」

    彼女: 「インテリアのテーマパークみたい!」

    彼: 「そこまでじゃない(笑)」

    彼女: いやいや。十分にそこまでだし。

    広大なスペースの大ホールにゆったりと並べられた家具たち。

    ベッド、ソファ、食卓、デスク、雑貨・・・

    いったい何台、何本、何点、展示されているんだろう。

    ムートンの体感コーナーまであるし・・・

    彼: 「寝転がってみたら?」

    彼女: 「いいのかなあ」

    彼: 「もちろん」

    彼女: 店員より先に私を促す彼。

    ベッドに敷かれたムートンのうえ、大の字になって寝そべる。

    彼: 「気持ち良さそうだなあ」

    彼女: ホントに気持ちいい。このまま眠っちゃいそう。

    私の楽しそうな表情を見て、彼の口角がさらに上がる。

    彼: 「電動ベッドにも寝てごらん」

    彼女: 「電動ベッド?私今年25歳だよ」

    彼: 「いやいや、いま電動ベッドは若い人に人気なんだよ」

    彼女: 「ホント?」

    彼: 「まあ、だまされたと思って」

    彼女: 「わかった・・・よいしょっと」

    彼: 「スマホにアプリを入れて」

    彼女: 「アプリ?」

    彼: 「スマホで操作するんだ」

    彼女: 「すご」

    アプリで時間設定すれば、朝ベッドが起き上がって私を起こしてくれるんだって。

    しかも寝ているときイビキをかいたら、ベッドが感知して体を少し起こす?

    気道を広げて快適な睡眠へ誘う?

    寝る前はリクライニングさせたベッドで、

    読書したり、ゲームしたり、アニメを見たり、って・・・

    ああ、怠惰な私になってしまう〜

    彼: 「健康にしてくれるんだよ」

    彼女: 確かに。命を守るベッドだ。

    私、朝起きるとき、足の浮腫(むくみ)とか結構ひどいからなあ。

    ベッドのコーナーには睡眠アドバイザーもいて、そんな相談にものってもらった。

    彼: 「小さなワンルームだったら、この電動ベッドがあればソファいらないよね」

    彼女: あ、そうか。そうやって考えたら、コスパも高いかも。

    それに、向こうには・・・羽毛布団のオーダーメイド?

    体型や好みに合わせて、この場で羽毛布団を作ってくれるんだ。

    すごすぎる・・・

    彼: 「楽しい?」

    彼女: 「うん。一日中見てまわりたい」

    彼: 「じゃあ、そうしよう」

    彼女: 「え、いいの?」

    彼: 「大丈夫大丈夫。ゆっくり見てまわれば、どうせ一日かかるよ」

    彼女: 「やった。

    ねえ、あの一帯みて。75%オフだって。

    ここで全部家具決めちゃおうかな」

    彼: 「いいんじゃない」

    彼女: 「じゃあ、次は食卓みたい」

    彼: 「了解」

    彼女: あれ?

    私、なんかタメ口っぽい。

    普段の私なら考えられないのに。

    彼が作り出す、異空間に召喚されてしまったみたい。

    彼: 「君の笑顔を見ているとね、本当に幸せな気持ちになれるんだよ」

    彼女: 「え」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    彼: 「この時間が永遠に続けばいいのに、って」

    彼女: 「あ」

    彼: 「あ〜、いやいや。冗談。冗談。忘れて」

    彼女: 忘れられるわけがない。

    私も、幸せ。

    愛とか恋とか、そういうのじゃなくても・・・。

    会場いっぱいの家具に囲まれて、

    なんだか、現実のその先にある、不確かな未来が見えたような・・・気がした。

  • はじめまして、またはおかえりなさい!
    今回の物語「Happy New Interiors!/家具のイベント」 は、ダンスとインテリアが織りなす、ちょっぴり大人の物語 です。

    前編では、ダンススタジオを舞台にした二人の関係 にフォーカスし、彼と彼女が交わすさりげない言葉のやりとりや、レストランでの何気ない時間を描きました。
    そして、彼女が引っ越しを決意し、新たな生活に向けて歩み出そうとするところが、後編へのつながりとなっています。

    この作品はボイスドラマ となっており、
    服部家具センター「インテリアドリーム」公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォーム でお楽しみいただけます。
    音声ならではの演出が加わることで、二人の距離感や空気感をよりリアルに感じられるはずです。

    さあ、家具とインテリアが織りなす新たな物語の扉 を、ぜひ開いてみてください。

    【登場人物】

    ・息子(22歳)・・・父・母・姉・祖母と5人で暮らす。今年大学を卒業して社会人1年生となる。就職先は銀行。工学部出身だったため銀行でも情報システム部でベンダーを統括する(CV:日比野正裕)

    ・母(47歳)・・・結婚前は夫と同じ銀行で働き、社内結婚。子供が入学すると同時に退職して専業主婦。現在はフリーのファイナンシャルプランナーとして主婦仲間たちの相談にのっている(CV:桑木栄美里)

    【Story〜「Happy New Interiors!/電動ベッド/前編」】

    (SE〜玄関のチャイム「ピンポン」)

    息子: 「あ、きたきた!」

    母: 「なぁに?またなんかくだらないモノ買ったの?」

    息子: 「ひどいなあ、母さん。

    新生活の家具一式だよ」

    母: 「え?家具?

    あなた1人で家具屋さん行ったの?いつのまに?」

    息子: 「ちょっとちょっと。僕もう今年から社会人だよ。

    家具くらい自分ひとりで選べるって」

    母: 「大丈夫?不安がいっぱいだわ・・・」

    息子: 「もう〜、そんなこと言うなら見に来て。

    僕の部屋まで運んでもらうから」

    母: 「はいはい。それにしてもいっぱい買ったのね」

    息子: 「プログラマーのバイト代ってすごいんだよ。

    それもこれも、僕を天才として産んでくれた母さんのおかげかな」

    母: 「なに、えらそうに」

    息子: 確かに、ボリューム満載の家具たちだった。

    だって僕の部屋はいたってシンプルで、

    ほとんど家具と言えるものは置いてないからなあ。

    ベッドもなくって、布団だし。

    TVはリビングで見るからいらないし。

    たま〜に、家に帰ってからPCでプログラムをチェックするけど、

    作業するのも机なんて呼べるシロモノじゃないし。

    でも、今日から僕の部屋はスイートルームに変わっていく。

    まあ、もともと二間続きの部屋だったから、スイートっていえばスイートかあ。

    バイト帰りに何度も何度も家具屋さんに足を運んで、

    自分にとって最高の家具を選んできたからなあ。自信たっぷりさ。

    母: 「ぶつぶつ言ってないで、先に掃除機かけなさい」

    息子: 「は〜い」

    母: 「それ、ホームワーク用のパソコンデスクに、チェア?」

    息子: 「うん、会社はリモートが多い‘

    いろんな椅子にすわって疲れないチェアを選んできた」

    母: 「お、なんか、このサイドボードもおしゃれじゃない」

    息子: 「そうだよ。ちゃんとサステナブルな素材なんだ

    SDGsの家具ってわけ」

    母: 「ふうん、・・・そっちはなに?」

    息子: 「インテリアアートだよ」

    母: 「インテリアアート?ふうん、意外な趣味があるのね」

    息子: 「まあ、見てくださいって」

    母: 「どれどれ?お、なんかキラキラしてるんじゃない」

    息子: 「そう。素敵でしょ。名画の上からデコレートしてあるんだ」

    母: 「なるほど。

    ただのレプリカだとちょっとこの部屋には合わないもんね」

    息子: 「ヘプバーンの肖像画、かっこよくない?」

    母: 「これ、ティファニーで朝食を、の名シーンだわ。

    パパと見に行ったっけ。ヘプバーン、可愛かったな〜」

    息子: 「リモートミーティングの背景にチラっと映ったら、

    お、こいつ、できるなってなるでしょ」

    母: 「ならないわよ。

    で、最後はベッド?やっと布団暮らしにさよならするのね」

    息子: 「これね、ただのベッドじゃないんだ」

    母: 「どこが?オシャレだけど場所とらない普通のシングルベッドでしょ」

    息子: 「見てて」

    (SE〜電動ベッドを動かすモーターの音)

    母: 「え?あなた、電動ベッドにしたの?」

    息子: 「いまね、電動ベッドがすっごくバズってるんだよ」

    母: 「腰でも痛めた?」

    息子: 「違うよ。

    この電動ベッドはスマホで操作できるんだ。見てて」

    母: 「へえ〜」

    息子: 「寝るときも起きるときも、ベッドが僕に合わせてくれるんだ。

    ベッドから立ち上がるときとか、ベッドに寝転ぶときに

    床面を少し高くすれば動くのラクでしょ。

    体への負担だって減らせるんだよ」

    母: 「ほお〜」

    息子: 「こうしてラクな姿勢にリクライニングすれば、

    読書するときも動画を見るときも疲れないしね」

    母: 「ゲームするときでしょ」

    息子: 「おっと」

    母: 「動画ったって、アニメだし」

    息子: 「アニメはちゃんと確立されたコンテンツだよ」

    母: 「そんなこと、あなたに言われなくてもわかってる(笑)」

    息子: 「脚が疲れた時は、脚を上げて浮腫み対策もできる」

    母: 「すごいのねえ」

    息子: 「これがあればソファいらないから部屋のなかはスッキリ」

    母: 「あらホント」

    息子: 「それに、なんと言ってもすごいのは、

    寝てるときいびきを感知すると、ベッドの角度を変えてくれること。

    気道を確保して呼吸しやすくしてくれるんだ」

    母: 「そうなんだ〜」

    息子: 「この春は、社会人生活のスタートだからね。いろいろこだわりたいじゃん。

    そしたら家具屋さんでスリープアドバイザーの人がいてさ。

    大切なのは睡眠の質をあげること。

    枕も自分にピッタリな高さと硬さを選んでもらっちゃった」

    母: 「電動ベッドねえ・・・」

    息子: 「あれ。母さんも欲しくなった?」

    母: 「違うわよ。これ、おばあちゃんにも買ってあげようかな」

    息子: 「もう買ったよ」

    母: 「え?」

    ■BGM〜「インテリアドリーム」

    息子: 「いま、おばあちゃんの部屋から古いベッドを引き取ってもらってる」

    母: 「誰が買ったの?」

    息子: 「僕に決まってるじゃん。銀行って給料いいんだから」

    母: 「うそ」

    息子: 「ホントだよ。

    それに大学時代のプログラマーのバイト代、結構たまってたんだぜ」

    母: 「おばあちゃんに伝えなきゃ」

    息子: 「もう伝えてる」

    母: 「ええ〜っ!?」

    息子: 「腰とか背中とか痛いところを聞いて、

    マットレスも硬いのと柔らかいのどっちがいいかも聞いた。

    その上で睡眠アドバイザーに相談したんだ」

    母: 「あなたって人は・・・」

    息子: 「おばあちゃんの部屋の間取りも測っておいて

    配置シミュレーションでどうやっておこうかも考えたから」

    母: 「まったく・・・」

    息子: 「なに、感動した?」

    母: 「さすが私の息子だわ」

    (母と息子の笑い)

  • 登場人物

    ・彼女(25歳)・・・インテリアコーディネーター/大学卒業後インテリアで課題を解決する仕事に憧れて現職に就く(CV:桑木栄美里)

    ・彼(37歳)・・・公認会計士/30代になって国家試験に合格。リモート打合せが増えてきたためコーディネーターに部屋のインテリアを相談中(CV:日比野正裕)

    <シーン1:現在/インテリアショップ>

    (SE〜インテリアショップの店内)

    彼女: 「遅くなってごめんなさい!」

    彼: インテリアショップの入口。

    階段横にディスプレイされた華やかな絵画を見ていた僕の元へ

    息をきらして彼女が走り込んできた。

    彼女は、インテリアコーディネーター。

    先月リノベーションした僕のアパートのインテリアを考えてくれている。

    今日はインテリアショップの店内で、プランを聞かせてくれるそうだ。

    彼女: 「ずいぶん待たせちゃいましたよね」

    彼: 「いえ、僕もいま来たところです」

    と、答えたけど、それはうそだ。

    20分前にインテリアショップに着いた僕は、

    ずうっと階段横のところにあるキラキラした絵画を見ていたんだ。

    だから、待たされた、という感覚はない。

    不快な気持ちがないのだから、

    いま来た、と言っても気分的に差し支えないんじゃないかな。

    彼女: 「こういうキラキラ系の絵が好きなんですか?」

    彼: 「はあ、あまり派手すぎるのは苦手なんですが、

    なんか、このモンローに魅入られちゃいまして・・・」

    彼女: 「今回のプランに入れましょうか」

    彼: 「いや、それは、どちらでも・・・不自然じゃなければ」

    彼女: 「うふふ、検討してみますね」

    彼: どうも僕の性格的に、イニシアティブをとっているのは彼女のようだ。

    ま、クライアントとインテリアコーディネーターという関係なのだから

    問題ないのだが。

    僕は30代になってから国家試験に合格した遅咲きの公認会計士。

    お客さんは若い経営者が多いからだろう。

    僕は毎日のように対面でなくリモートミーティングに追われている。

    そんなとき、このインテリアショップで彼女と出会った。

    街では、街路樹が色づき始める頃だった。

    <シーン2:3か月前/インテリアショップ>

    彼女: 「ええ、それはスペース的には難しいかもですね。

    あ、でも、家具の色をオン・オフで分ける、という方法もありますから。

    一度プラン出してみますね」

    彼: 聞くとはなしに聞こえてきてしまった電話のやりとり。

    ホームオフィスのコーナーで

    イヤホンを耳につけた彼女が忙しそうに会話していた。

    彼女: 「わかりました。

    では、来週。リモートで打合せしましょう」

    彼: 電話をきって顔をあげた彼女と思わず目が合ってしまった。

    あわてて目を伏せる彼女に、僕は大胆にも声をかける。

    いつもの僕なら絶対にありえない行動パターンだけど。

    彼: 「あの・・・インテリア関係の方ですか?」

    彼女: 「え・・・」

    彼: 驚いて顔をあげた彼女はとまどいながら答える。

    彼女: 「ええ。でも、このお店のスタッフではありません」

    彼: 「あ、はい。わかります。

    実は・・・僕、最近、リモートミーティングが増えてきちゃって

    ホームオフィスのコーナーを見てたんですけど・・・」

    彼女: 「ああ、じゃあ店員さんに聞いたら・・・」

    彼: 「はい。でも、その前にあなたの話が聞こえちゃったので・・・」

    彼女: 「まあ」

    彼: 「あ、いえ、決して、盗み聞きしてたんじゃあないんです。

    今さら、と言われそうですけど、

    僕のアパートには、ホームワークの環境が全然整っていなくて。

    だからせめて画面に映る背景くらいは、ちゃんとしておきたい。

    でも、自分ではどうしたらいいかわからない。

    途方にくれていたときに。あなたの声が耳に飛び込んできたんです。

    あ、なんか、まくしたてちゃってごめんなさい!」

    気がつくと、彼女は笑っていた。

    気がつくといなくなっていた、という顛末を想像していた僕にとっては

    予想外の嬉しいリアクションだ。

    彼女: 「よかったら、詳しくお話を聞かせていただけます?」

    彼: 「ホントですか」

    こうして僕たちは、クライアントとして、インテリアコーディネーターとして

    このあとも顔を合わせることになった。

    <シーン3:2か月前/カフェ>

    (SE〜カフェ店内の雑踏)

    彼女: 「今日も遅れてごめんなさい。前のミーティングがおしちゃって」

    彼: 「リモートでもいいんですよ」

    彼女: 「あら、リモート対策のリノベじゃなかったんですか」

    彼: 「はは、そりゃそうだ」

    彼女: 「それより、一度おたくにお邪魔しないと」

    彼: 「え・・・」

    彼女: 「早い方がいいわ」

    彼: 僕は頭の中で、部屋の間取りと、散らかった生活の残骸を思い出していた。

    彼女: 「ご都合はいかがですか?」

    彼: 「じ、じゃあ、来週で」

    彼女: 「そうと決まれば、いろいろ準備しておかないと」

    彼: なぜか、テンションが上がる彼女に対して、僕の方は冷や汗が止まらなくなった。

    まあ、なんとかなるだろう・・・

    <シーン4:1時間前〜現在/街角からインテリアショップへ>

    (SE〜街角の雑踏/遠くにジングルベルの音など)

    彼: 12月の声を聞くと、気の早い街角にはジングルベルが流れ出す。

    きらめくイルミネーション。

    街を歩く人はみな、早足で家路を急ぐ。

    私は人々の流れとは反対方面へ向かう。

    目的地はインテリアショップ。

    最近ではインテリアスタジオと言うらしい。

    ホームオフィスに置くインテリアのプラン。

    今日、

    インテリアコーディネーターの彼女が最終案を出してくれることになっている。

    僕の部屋にまで来てくれて、実際に見て考えてくれたのだから

    もう間違いはないだろう。

    インテリアショップへ到着したのは、約束より20分も早い午後。

    僕は入口にディスプレイされた絵画を眺めながら彼女のことを思っていた。

    30代を超えて公認会計士の国家試験に合格するまで、

    僕はひたすらあの部屋で勉強し続けてきた。

    実は、あの部屋で靴を脱いだ女性は、彼女ただ一人。

    そんな彼女に今日はささやかなプレゼントを用意した。

    ドイツ製のスケールとメジャー、ボールペンのセットだ。

    いつもヒビの入ったスケールとインクが少し滲んだボールペンを

    使っていたみたいだから。

    ついでに、少し年季の入った真鍮の懐中時計も。

    亡くなった父からもらったこれも、ドイツ製だ。

    喜んでくれるかな・・・

    え?いや、そういう意味じゃなくて。

    お世話になった感謝の気持ちを、ってこと。

    僕は時間が経つのも忘れ、入口の絵画を見て考えていた。

    絵の中で僕に微笑むのは、まばゆく装飾されたマリリンモンロー。

    『七年目の浮気』の有名なシーンは、見続けるとなんだか照れてしまう。

    彼女: 「遅くなってごめんなさい!」

    彼: 気がつくと、息をきらして彼女が走り込んできた。

    彼女: 「ここで、実際に家具を見ながらお話しましょ」

    彼: 彼女が説明する最終プランは、まさに僕のためのオーダーメイドだった。

    三方を壁に囲まれた間取りをうまく使ったレイアウト。

    可動式の仕切りを使ってオンオフを切り替えられるようにという配慮。

    色もウォールナットの落ち着いた配色で

    普段の仕事もリラックスしてできそうだ。

    彼女: 「どうかしら」

    彼: いつも自信家に見える彼女が、ちょっぴり不安気にたずねてくる。

    僕は、”完璧だ”と伝え、バッグからプレゼントを出して彼女に渡した。

    彼女: 「え・・」

    彼: 彼女はプレゼントをあけると目を伏せた。

    やっぱり、僕のひとりよがりだったのかな・・・。

    彼女: 「あの・・」

    彼: 「あ、はい」

    彼女: 「クリスマスって・・・」

    彼: 「え?」

    彼女: 「クリスマスって好きですか?」

    彼: 唐突な質問に僕は言葉を失った。

    うろたえる僕に彼女は話を続ける。

    彼女: 「実は今日、もうひとつプランを持ってきているんです」

    彼: 「はあ」

    彼女: 「間取りは同じですが、クリスマスまでの期間限定バージョン」

    彼: 彼女が見せてくれたもうひとつのプラン。

    そこには、ウォールナットのデスクやキャビネットの横に

    小さなクリスマスツリーが飾られていた。

    キャビネットの上にも赤いキャンドルとスノードームが明るく光っている。

    三方の壁にも星屑のようにイルミネーションが輝いていた。

    彼女: 「私、小さい頃からクリスマスって特別なんです。

    だから、ついこんなプランも作っちゃって・・・」

    彼: 「あ」

    彼女: 「もしお気に召さなければ、このBプランは破棄してください」

    彼: 「いえ、こちらも採用させてください」

    彼女: 「え」

    彼: 「プランの中の雑貨は今から買いにいきましょう」

    彼女: 「ありがとうございます!

    それじゃ、ひとつお願いがあります」

    彼: 「はい」

    彼女: 「この中のスノードームは私からプレゼントさせてください」

    彼: 「え・・・、あ、ありがとうございます!」

    彼女: 「私こそ、プレゼントありがとうございました」

    彼: クリスマスの小さな奇跡。

    賢者の贈り物にはならなかった懐中時計が未来を予感しているようだ。

  • クリスマスの思い出は、大人になっても心の中に残り続ける特別なものです。
    今回の物語は、少女時代の主人公が思い出す“あの年のクリスマス”を描いています。
    家族で飾るイルミネーション、待ち遠しいプレゼント、そしてサンタさんへの願い──。
    あの夜、サンタの正体を知ってしまった彼女が手にしたものとは?

    この物語は服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種Podcastプラットフォームでボイスドラマ としても楽しめます。
    ぜひ、音声とともにこの温かな物語に浸ってください。

    さあ、クリスマスの魔法が始まります──。

    登場人物(※設定は毎回変わります)

    ・娘(5歳)・・・毎年家族で祝うクリスマスを2歳上の兄と共に心待ちにしている。設定は25歳になった女性が少女の頃を思い出すといった内容(CV:桑木栄美里)

    ・父(37歳)・・・クリスマスを楽しみにしている子供たちのために毎年いろいろな趣向を凝らす。イルミネーションで飾られた家は近所でも有名だった(CV:日比野正裕)

    【Story〜「サンタの正体〜クリスマス雑貨/前編」】

    <2003年12月24日>

    全員: さん、にい、いち、点灯!

    (SE〜家族の歓声と拍手)

    娘: 「わぁ〜!

    きれい・・・」

    父: 「さあ、これでクリスマスの準備はパーフェクトだ!」

    娘: 今から21年前。リビングの小さなツリーに灯りがともった。

    毎年この季節を心待ちにしていた少女が目を輝かせる。

    父: 「今年もサンタさん、来てくれるといいね」

    娘: 「うん。でも大丈夫かなあ。

    ちゃんとうちのこと覚えてくれているかなあ」

    父: 「心配いらないよ。きっと来てくれるから」

    娘: 「だけどだけど、夏におうちの屋根修理しちゃったでしょ。

    サンタさん、迷っちゃうかもしれない」

    父: 「だから、お庭と玄関にイルミネーションをともすんだよ」

    娘: 「じゃあ今年は早めにイルミネーションともして」

    父: 「わかってる。今から準備するところ」

    娘: 実は、我が家のイルミネーションは近所でも有名だった。

    玄関周りをライトアップするだけでなく、

    庭の大きなモミの木や、桜や梅、紫陽花やツツジまで

    鮮やかな光に包まれる。

    それだけじゃない。

    まるで絵を描くように、高い外壁には雪の結晶やスノーマンたちが光り輝き、

    父の手作りの仕掛けの中で、トナカイが走っていた。

    絡まるツタも星座のように瞬き、父のこだわりで私の魚座が

    真ん中で煌めいている。

    屋根の下からはつららのような光の粒が降ってきた。

    毎年クリスマスシーズンになると、華かやな光に誘われて

    見知らぬカップルたちが我が家のイルミネーションの下(もと)に集まってくる。

    父も母も、庭に入ってくる男女をとがめることなく、微笑ましく眺めていた。

    思えば、いい時代だったんだなあ。

    父: 「お手伝い、してくれるかい」

    娘: 「うん!」

    父: 「えらいぞ。きっとサンタさんも褒めてくれるよ」

    娘: 喜んで掃き出し窓から庭へ出ようとする私に父が声をかける。

    父: 「ちょっと待って」

    娘: 「なぁに?」

    父: 「お庭のイルミネーションの前にリビングの飾りつけも仕上げないと」

    娘: 「リビング?」

    父: 「ああ。さてと・・・

    これはなぁんだ?」

    娘: 「あ!スノーマン!」

    父: 「そう、スノーマンの形をした灯りだよ

    これをまず、ツリーの横のキャビネットに飾ってくれる?」

    娘: 「はぁい」

    父: 「飾ったら灯りをともして」

    (SE〜スイッチを入れる音)

    娘: 「わあ」

    父: 「優しい灯りできれいだろう」

    娘: 私の背より少しだけ低い木製のキャビネットの上で、スノーマンの灯りは

    部屋を優しく照らした。

    父: 「次はこれ」

    娘: 「キャンドルだ」

    父: 「クリスマスだからね。真っ赤なキャンドルでお祝いしよう」

    娘: 「やった!」

    父: 「キャンドルはあと4本あるからね」

    娘: 「パパ、ママ、お姉ちゃん、お兄ちゃんと私の4人だから?」

    父: 「そうだね。いいかい、クリスマスまであと4週間あるだろう」

    娘: 「うん」

    父: 「これから毎週日曜に1本ずつキャンドルをともすんだよ」

    娘: 「うん」

    父: 「1本1本灯すたびに、ワクワクが大きくなっていく」

    娘: 「うん」

    父: 「海外ではね、そうやってクリスマスを迎えるんだって」

    娘: 「ふうん」

    父: 「さあ、最初のキャンドルに火をともそう」

    娘: 擦りガラスの燭台に私が置いた太めのキャンドル。

    先日父が買ってきたウォールナットのキャビネットに光が映る。

    ツリーのイルミネーションとの調和が見事だった。

    父: 「今年のプレゼントはもうサンタさんにお願いしたかい」

    娘: 「う〜ん」

    父: 「どうしたの?」

    娘: 「だってお兄ちゃんが絶対無理だって言うんだもの」

    父: 「なんだろうね、パパにだけこっそり教えてくれる?」

    娘: 「あのね、あのね・・・雪」

    父: 「雪?」

    娘: 「うん、雪。雪が見たいんだもん」

    父: 「そうかぁ、雪かあ。

    これはサンタさんもがんばらないといけないな」

    娘: 「やっぱりだめかなあ・・・」

    父: 「だめじゃないよ。きっと叶えてくれるさ」

    娘: 自信にあふれた父の表情を見て、私は安心した。

    このあとキャンドルに4回火が灯り、

    最後のキャンドルに火をともす、クリスマスイブの夜が近づいてくる。

    サンタさんは本当に来てくれるんだろうか?

    私の無茶ぶりなお願いをきいてくれるんだろうか?

    心配でたまらない私は兄に相談する。

    ”じゃあがんばってサンタさんをお迎えしよう”

    ”眠らないようにして、柱の影からこっそりと待ってみよう”

    私たちは子どもながらに密かに計画を練った。

    そして、イブの夜。

    柱の影からツリーを見守る私たち兄妹の前で

    リビングの扉が静かに開き、

    赤い服を着たサンタが入ってくる。

    ”きた”

    ”しっ”

    私たちがそこにいることも知らずに、

    サンタはツリーの根もとに3つのプレゼントを置いた。

    ”でも、雪は?”

    まだまだ不安でたまらない私は思わず一歩前へ出る。

    フローリング越しに伝わる物音にサンタさんが振り向く。

    その瞬間白いひげが床に落ちた。

    ”パパ?”

    一瞬、驚いた表情をしたあと、

    サンタさんの姿をした父が私たちの元へ歩いてくる。

    兄も驚きを隠せず言葉が出ない。

    サンタの父は、いつもの穏やかな表情で私たちに声をかける。

    父: 「パパじゃないよ」

    娘: 「え?」

    父: 「パパの姿をしているけど、私はサンタクロース。

    イブの日とクリスマスは世界中の子どもたちのために大忙しなんだ。

    だから、みんなのパパ・ママの体を借りて、プレゼントを届けにいくんだよ」

    娘: 「すごぉい!

    でもでも、私のプレゼント、大丈夫だった?」

    父: 「もちろん、大丈夫だよ」

    娘: 「ホント!?でも・・・」

    父: 「心配なら、いまここであけてごらん」

    娘: 「いいの?」

    父: 「ああ、サンタの私が言うんだから問題ない」

    娘: 私は、おそるおそる包みをあける。

    ていねいにあけようとするけれど、焦って包み紙を破ってしまう。

    父: 「急がなくてもいいから、ゆっくりあけるんだよ」

    娘: 包み紙の中から出てきたのは、真っ白な粉雪が舞うスノードーム。

    屋根に雪が積もった小さなおうちと、女の子のお人形が楽しそうに笑っていた。

    父: 「これで合ってるかな」

    娘: 「うん!すごい!雪だぁ!」

    父: 「じゃあ、私はもう行かないと」

    娘: 「サンタさん、ありがとう!」

    父: 「パパによろしくな」

    娘: そう言ってウインクしたあと、空を指差して、

    父: 「君はとってもいい子だから、特別なプレゼントも準備したからね」

    娘: と、いたずらっぽく微笑んでサンタさんは出ていった。

    窓の外には、鈴の音と笑い声が遠ざかっていく。

    しばらく呆然としていた私たちは気がついて窓の方へ走る。

    開け放たれた窓から顔を出すと、イルミネーションに白い息が照らされた。

    空を見上げると、小さな白いものが降ってくる。

    手のひらで溶けていくその結晶は、

    娘: 「雪だ・・・」

    あれは、今でも魔法だと思っている。

    あのときの父の姿をしたサンタも。

     奇跡が起きても不思議ではないのがクリスマスだから。

  • 前編では、息子の視点から「母の過去」が描かれましたが、今度は 若き日の父と母 の青春の物語です。
    夢を追いかけ、大学祭のステージに立つ彼女。
    その姿を見守る彼——そして二人の未来へとつながる「家具選び」のエピソード。

    あの日、何を思い、何を選び、そしてどんな未来へ進もうとしたのか。
    「新生活応援」というテーマのもと、それぞれの人生の選択をじっくりと見つめていただけたら嬉しいです。

    登場人物(※設定は毎回変わります)

    ・母/妻(21歳/28歳)・・・大学生時代は演劇部とダンス部をかけもち/現在はミュージカル劇団に所属して舞台に立っている(CV:桑木栄美里)

    ・父/夫(22歳/29歳)・・・妻とは高校〜大学の同級生で演劇の世界に憧れるも挫折して会社員に/現在は証券会社の営業(CV:日比野正裕)

    (※脚注)

    ・ピルエット・・・バレエ用語。 体を片脚で支え,それを軸に,そのままの位置でこまのように体を回転させること

    ・マチソワ・・・フランス語。昼公演が「マチネ」(matinee)、夜公演が 「ソワレ」(soiree)。1日2回公演ある日にどちらも観劇することを「マチソワ」という

    <妻21歳/夫22歳>

    (SE〜大学祭の雑踏+キャンパスの中におこる歓声と口笛)

    彼: オープンカフェの前で、赤いドレスの彼女がピルエット(※)を舞う。

    手作りの看板。手書きのメニュー。

    大学祭の模擬店は、彼女のおかげで大賑わいだ。

    彼女: 「いらっしゃいませ!

    ご注文は・・・?

    え?ここに書いてあること?

    もちろん、本当ですよ」

    彼: メニューの横に赤い文字で書かれていたのは、

    『スペシャルパフェ』ご注文の方へ。

    もれなく、キュートなダンサーがバレエを踊ります』

    さっきから、彼女のダンスがひっきりなしにオーダーされる。

    彼女: 「ありがとうございました!」

    彼: 「大丈夫?疲れてない?もう10回以上続けて回ってるじゃん」

    彼女: 「ぜ〜んぜん大丈夫!あ〜楽しい〜!」

    彼: 大丈夫なわけないと思うんだけどなあ。

    (※)マチソワでミュージカルの舞台をこなしながら、

    幕間で模擬店に立っているんだから。

    僕なんて、午後1回の朗読劇だけで、ヘトヘトになっているっていうのに。

    カメラを向けるお客さんの前でハイテンションのまま、

    今度はパンシェ(※)を決める。思わず見惚(みと)れてしまう。

    (SE〜カメラのシャッター音)

    彼女: 「ねえ、模擬店ハケたら、家具屋さん行くこと覚えてる?」

    彼: 「ああ、もちろんさ」

    彼女: 「そっちも楽しみだなあ」

    彼: 大学を卒業したら1人暮らしをする彼女のために、

    今日夕方から家具屋さんに付き合うことになっている。

    実は、昨日時間があいたから、1人で見に行ってきたんだ。

    新生活応援フェア?

    とかいう、ちょうどぴったりなキャンペーンやってて、

    イケてる家具がいっぱい並んでた。

    彼女に絶対似合いそうな白いベッドにソファ、食卓、スタンドミラー・・・

    いつかそこに僕も・・・

    いやいやいや、そうじゃなくて。

    同じ志を持つ2人が、一緒に頑張っていければいいな・・・

    っておんなじことか。

    そんなこんなで、いろんなことを考えながら、店内を何周もしちゃったよ。

    彼女: 「ねえ、ごめんなさい。

    ピルエットの注文いっぱい入っちゃった。

    模擬店少し時間延長するって」

    彼: 「いいよいいよ、家具屋さんだって早仕舞いはしないから」

    彼女: 「ありがとう」

    彼: 結局、家具屋さんに着いたのは、もうほとんど閉店間際だった。

    それでも、笑顔で迎えてくれるお店の人に感謝して、

    僕たちは家具の森を散策していった。

    <妻28歳/夫29歳>

    (SE〜街角の雑踏)

    彼女: 「私、次の公演で舞台を降りるわ」

    彼: 「え?」

    観劇の帰り道。彼女が笑顔で僕に言った。

    lおかげで今日話そうと思っていたことがすっかりどこかへいってしまった。

    彼女: 「大学卒業して、もう7年か・・・。

    結構がんばってきたなあ」

    彼: 「どういうことだよ?」

    彼女: 「このままミュージカルを続けていっても

    プロとして大成できるとは思えないもの」

    彼: 「そんなことないよ。君ならなれるさ。

    あきらめるのは僕だけでいいじゃないか」

    彼女: 「きっとあなたはそう言うと思ったわ」

    彼: 今度は僕の目を見て、寂しそうに笑う。

    彼女の瞳、シチュエーションはまったく違うけど、

    あの日の瞳によく似ている。

    当時は彼女も僕も高校生。

    演劇部で舞台の背景係をしている彼女をからかったとき。

    彼女は、僕の言葉を聞き流しながら、

    公演ポスターの前で寂しく笑っていた。

    彼女: 「でも・・・、私なんて無理だもん」

    彼: そうつぶやいたあと、今度は僕の手をとり、少しいじわるそうに笑う。

    彼女: 「ねえ、今度のミュージカルのタイトル、知ってる?」

    彼: 「え?なに?いきなり?わかんないよ」

    彼女: 「大切なものは目に見えない・・・」

    彼: 「え・・・」

    彼女: 「そう。サン・テグジュペリ。星の王子さま」

    彼: 「あのときの・・・」

    彼女: 「はじめて私が舞台に立った朗読劇」

    彼: 「こんなことってあるんだな」

    彼女: 「あのときは、無我夢中で、考える間もなく幕引きになっちゃったけど」

    彼: 「そうだな。しかも僕の代役だったし」

    彼女: 「思えば、自分でもよくやったと思う」

    彼: 「本当だな。すごく眩しかった」

    彼女: 「なぁに言ってるの」

    彼: 「今回は、それをミュージカルでやるんだな」

    彼女: 「うん」

    彼: 「配役は?」

    彼女: 「うふふ」

    彼: 「キツネか!?そうなんだな!?」

    彼女: 「最後にふさわしいでしょ」

    彼: 最後、という言葉が僕の胸に突き刺さった。

    ふいに僕は、今日彼女に会った本来の目的を思い出す。

    彼: 「わかったよ。君の最後の花道にこれ以上のタイトルはない」

    彼女: 「ありがとう」

    彼: 「実は僕からも話があるんだ」

    彼女: 「なあに?」

    彼: 「このあと一緒に家具屋さんへ行かないか?」

    彼女: 「家具屋さん?7年前に行ったところ?」

    彼: 「うん」

    彼女: 「1人暮らしでもするの?」

    彼: 「未来を見にいきたいんだ」

    彼女: 「未来?」

    彼: 「できれば君と2人で生きていく未来」

    彼女: 「え・・・」

    彼: 「僕もやっと気づいたんだよ。

    大切なものは目に見えない・・・」

    彼女: 「こころでみなくちゃ、ものごとはよく見えない」

    彼: 「そういうこと。

    これからは・・・同じ家に帰ろう」

    彼女: 「はい」

    彼: 思えば10年前のあの日。

    彼女に役を譲ったあのときから、僕はこの日を待っていたのかもしれない。

  • 「大学祭のピルエット」は親子の何気ない会話から、時を遡りながら描かれる“人生のワルツ”です。自分の知らなかった母の過去、そして一つの写真をきっかけに明かされる思い出——。新生活を迎えるとき、誰もが思い出の中にある「大切なもの」を振り返ることがあるのではないでしょうか?

    この作品は 服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、AppleなどのPodcastプラットフォームで配信 されています

    登場人物

    ・母/妻(51歳/21歳)・・・大学生時代は演劇部とダンス部をかけもち/現在は社会福祉法人で介護士をしながら、市民ミュージカル劇団で教えているが息子は知らない(CV:桑木栄美里)

    ・息子(21歳)・・・大学4年生でYouTuber。特技を生かして映像作家になるのが夢(CV:日比野正裕)

    <息子21歳/母51歳>

    (SE〜家庭の環境音/料理の音など)

    息子: 「ねえ、ママ。このひとだれ?」

    (BGM〜)

    母: 息子がキッチンへ持ってきたのは1枚の写真。

    それは、スポットライトを浴びてパンシェ(※)を決める、

    赤いドレスのバレリーナ。

    ・・・30年前の私だ。

    やあねえ、どこから掘り出してきたのかしら。

    息子: 「ママ?」

    母: 「さあ、だれかしら?」

    息子: 「この写真、パパのカバンから落ちてたんだけど、きれいな人だよね」

    母: 「そう?」

    息子: 「え・・・ひょっとして・・・これ、ママ・・・なの?」

    母: 「どうかな」

    息子: 「すご!ママ、カッケー!」

    母: 「そういう口の聞き方やめなさい」

    息子: 「ダンスとかやってたんだ?」

    母: 「クラシックダンス。バレエよ」

    息子: 「ぜんぜん知らなかった!」

    母: そういえば、言ってなかったわね。

    私、幼い頃からクラシックバレエをやってて、いつも踊ってた。

    息子: 「これはいつの写真?何歳?」

    母: これは・・・

    そう、大学最後の年だ。

    21歳だからちょうど今のこの子と同い年ね。

    大学祭のときのステージだったと思うけど。

    ステージで踊り、その衣装のままカフェで給仕もしたんだわ。

    同級生のパパとは演劇部で一緒だったんだけど、

    私はミュージカル志望だったから、ダンス部とかけもち。

    いつか2人でミュージカルの大舞台に立とう、なんて

    大それたことも話し合ってたっけ、うふふ。

    息子: 「なにエモい顔してんの?」

    母: 「おっと、ごめんごめん。

    ちょ〜っと思い出しちゃってね」

    息子: 「パパとのこと?」

    母: 「うん。スマホだけど別の写真も見る?」

    息子: 「見たい!」

    母: 「はい、どうぞ」

    息子: 「え〜なにこれ?家具がいっぱいじゃん」

    母: 「大学祭の写真はその1枚しか私持ってないけど、

    そのあと2人で家具を見にいったのよ」

    息子: 「卒業後に同棲したってこと!?」

    母: 「同棲じゃなくて、私の新生活。

    ママの引越しが決まってたから、一気に家具を揃えたの」

    息子: 「リッチ〜」

    母: 「違うわよ。家具屋さんでセールをやってたの。

    それで、ソファからダイニング、ベッドにカーテンまでまとめて買っちゃった。

    選んでくれたのはパパだけどね」

    息子: 「じゃあ、そのときからパパとは付き合ってたんだ?」

    母: 「どうかなあ・・・そんな感じじゃなかったけど」

    息子: 「でもパパはママのこと好きだったから、今でもこの写真持ってるんでしょ」

    母: 「さあ、どうだか」

    息子: 「ママってクールだなあ」

    母: 「っていうより、昔からパパの方がホットでちょっぴり強引だったのよ。

    私、なかなか決められない質でしょ。

    オマエには絶対白が似合う!って、すべて純白の家具をパパが選んだの」

    息子: 「パパらしいや」

    母: 「私も、白い家具が好きだったからいいんだけどね・・・

    白い木製の家具、ホントに素敵だったなあ・・・

    新婚じゃなくたって、真っ白なインテリアに囲まれた暮らし、憧れてたもの」

    息子: 「なにノロケてんの」

    母: 「あら失礼」

    息子: 「でもいまはうちの家具、割と濃い色の木目じゃん」

    母: 「それは、パパが・・・」

    息子: 「やっぱパパの趣味かあ」

    母: 「いいえ、あなたのために選んだのよ」

    息子: 「え?」

    (BGM〜インテリアドリーム)

    母: 「卒業してから7年後にパパとママが結婚して

    あなたが生まれたから」

    息子: 「あ・・」

    母: 「あなたとの新しい生活のために、パパがこの家具たちを選んだのよ」

    息子: 「そっか・・・」

    母: 「木の家具を選んだのは赤ちゃんのあなたのため」

    息子: 「うん」

    母: 「あなたを守るために、自然の優しい材料にして」

    「あなたが優しい心を持てるように、優しい木目の色合いにして」

    「あなたの未来のために、環境にも配慮して、って」

    息子: 「すごいな・・・」

    母: 「木の家具は耐久性もあって、お手入れもかんたん。

    それに木って呼吸するから、部屋の中の湿度を調整してくれるでしょ」

    息子: 「そうなんだ・・・」

    母: 「次はあなたの新生活ね」

    息子: 「なにそれ」

    母: 「1人暮らし?それとも結婚・・・」

    息子: 「まだ早くない?」

    母: 「人生に早いも遅いもないでしょ。

    この世は舞台、人はみな役者なんだから」

    息子: 「ママ・・・」

    母: 息子が切なそうな表情で私を見つめてくる。

    いつまでもそばにおいておきたいけど、

    新しい一歩は自分で考えて踏み出さないと。

    独り立ちをするとき、

    あなたを優しく見守ってくれるのは、きっと新しい家具たち。

    そうやって人生を慈しみながら、いつか大切な人を見つけてほしいな。

    誰だって、人生の戯曲は自分で書いて仕上げるものだから。

  • 前編では、8歳と16歳の娘と父の思い出 を中心に、「運動会のバトン」と「食卓のバトンリレー」を通じて、家族の絆を描きました。
    後編では、娘がさらに成長し、父との関係が変化していく様子 をお届けします。人生の中で家族の役割は少しずつ移り変わっていきますが、それでも変わらない「温もり」とは何か? そんな想いを込めました。

    また、この物語は ボイスドラマ としてもお楽しみいただけます!
    Spotify、Amazon Music、Apple Podcast をはじめとする各種Podcastプラットフォーム、そして 服部家具センター「インテリアドリーム」公式サイト で配信中です。
    音声ならではの臨場感や、キャラクターの息づかいがより深く伝わる作品になっていますので、ぜひ聴いてみてください。

    それでは、後編の物語へどうぞ。

     【登場人物】

    ・娘(16歳/24歳)・・・高校=陸上部のアンカー/現在=スポーツインストラクター(CV:桑木栄美里)

    ・父(59歳/67歳)・・・自ら経営する会社を引退後地元に請われて市会議員に(CV:日比野正裕)

    <娘16歳/父59歳>

    (SE〜玄関が開く音/引き戸)

    娘: 「ただいまぁ」

    父: 「おかえり!」

    (BGM〜)

    娘が疲れた顔で帰ってくる。

    今日も陸上部でトラックを何周も走ってきたのだろう。

    娘: 「おなかすいたぁ。晩ご飯なあに?」

    父: 「お前の大好きな鶏飯だよ」

    娘: 「やったぁ」

    父: 「さ、汗かいただろうから、先にシャワー浴びてきなさい」

    娘: 「うん!秒で入ってくるからすぐ準備して!」

    父: 「急がなくていいからゆっくり温まってきなさい」

    まったく、また訳のわからない若者言葉を使って・・・。

    ああ、それに答えてる私も私か、ははは。

    娘は高校1年生。

    陸上部に所属してトラック競技の全国大会を目指している。

    毎日、早朝の朝練と放課後の部活動。

    だから、妻が海外勤務で家を留守にしているいまは

    私が朝夕の食事を支度する。

    私自身、経営していた会社をリタイアして、若手に道をゆずったばかり。

    だからこそできる、アスリートのアシストなのである。

    (SE〜料理をする音)

    娘: 「おっまたせ〜」

    父: 「ちゃんと髪の毛かわかさないと、風邪ひくぞ」

    娘: 「わっかりました〜」

    父: いつもの、わかっていないときの言い方だな。

    しょうがないなあ。

    (SE〜料理を食卓に置く音)※ひとつずつSEつける

    父: 「はい、鶏飯」

    娘: 「わ〜、いい匂い〜」

    父: 「今日はささみにシイタケ、パパイヤの味噌漬けとのりを入れてみた」

    娘: 「すごつ、アスリートのレシピじゃん」

    父: 「それからぶり大根に、」

    娘: 「わ、旬の先取りだね」

    父: 「さつまあげ」

    娘: 「私の好きなものばっかり」

    父: 「今日のさつまあげは、ハモのすり身だぞ」

    父: 「この食卓、たくさんおかずを置いても広々としてていいだろ」

    娘: 「そりゃあ、アンカーの私が選んだインテリアだもの」

    父: 先日までダイニングにあった食卓は、船便で妻の住む海外へ渡っていった。

    その代わりにバトンを受けついたのが、この楕円形の食卓だ。

    娘と2人で使うには少し大きいかもしれないが、

    あえてこのサイズを選んだのには訳がある。

    食卓、というのは家族が集まる場所。

    大きな食卓と座り心地のいいチェアでゆったり時間を過ごす。

    食卓を中心に、家族が向かい合って、家族の時間を大事にする。

    こうやって、家族の絆=ぬくもりを大切に守っていきたい。

    いつまでも・・・

    娘: 「パパ、陸上トラックの全国大会、見にきてくれる」

    父: 「もちろんさ、リレーはアンカーなんだろ」

    娘: 「そうだよ、3位以内でバトンを渡してくれれば、

    絶対にトップに出る自信はある!」

    父: 「そりゃ頼もしいな」

    娘: 「優勝したら、そのバトンはパパに渡すからね」

    父: 「そんなことできないだろ」

    娘: 「いいの、大会運営の人に頼んじゃうから」

    父: 父親の私が言うとただの親バカになるが、娘はすごい。

    大会当日、本当に1位になり、私にバトンを渡してくれた。

    そのバトンは、娘が24歳になったいまも食卓の上を飾っている。

    <娘24歳/父67歳>

    (SE〜玄関が開く音/引き戸)

    娘: 「ただいま」

    父: 「おかえり」

    (BGM〜)

    一人暮らしをしている娘が、半年ぶりに実家に帰ってきた。

    娘の仕事は、スポーツインストラクター。

    陸上部にいたときのスキルを生かしてスポーツジムで働いている。

    いろいろ疲れているのだろう。

    部活帰りでも元気に笑って帰ってきた高校時代とは違い、

    口数も少ないまま、食卓に座る。

    娘: 「パパ、このバトン・・・」

    父: 「ああ、お前からもらった一点モノだよ」

    娘: 「あの頃は、なんだってできる気がしてたなあ」

    父: 「いまだってできるさ」

    娘: 「そう簡単じゃないのよ。仕事となると」

    父: 「おお、一人前の口をきくようになったじゃないか」

    娘: 「ふざけないでよ」

    父: 「ふざけてないさ。

    おまえには、お父さんから受け取ったバトンがあるだろ」

    娘: 「なにそれ」

    父: 「『家族のぬくもり』というバトンだよ」

    娘: 「家族のぬくもり?」

    父: 「お前が一人暮らしを始めるとき、家具屋さんで食卓を買ったろ?」

    娘: 「うん」

    父: 「食卓があれば、お父さんやお母さんの温もりがつながっていくんだよ」

    娘: 「うん」

    父: 「これから先、好きな人ができて、住むところが変わり、

    食卓も大きなサイズが必要になったとき、

    ぬくもりのバトンは、また受けつがれていく」

    娘: 「うん・・・」

    父: 潤んでいく娘の瞳の中に、食卓のバトンが滲んでいる。

    食卓を通じて、家族のぬくもりは消えることはない。

    家族のぬくもりというリレーは、こうして未来永劫つながっていく。

  • 父と娘の絆を「バトンリレー」と「食卓」を通して描いた、温かくて少し切ない家族の物語です。幼いころの運動会の思い出、成長した娘との食卓を囲む日常、そして母への想いが交差する中で、家族の絆がどのように受け継がれていくのか——。

    本作は 前後編の二部構成 となっており、前編では 8歳の娘と51歳の父、16歳の娘と59歳の父 を軸にしたエピソードをお届けします。ぜひ、娘と父のやりとりを通して、「家族の温もり」を感じていただければと思います。

    さらに、この物語は ボイスドラマ化 もされています!
    Spotify、Amazon Music、Apple Podcast をはじめとする各種Podcastプラットフォーム、そして 服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトでお聴きいただけます。音声だからこそ伝わる空気感や臨場感を、ぜひ楽しんでください。

    それでは、物語の世界へどうぞ。

    【登場人物】

    ・娘(8歳/16歳)・・・高校=陸上部のアンカー/現在=スポーツインストラクター(CV:桑木栄美里)

    ・父(51歳/59歳)・・・自ら経営する会社を引退後地元に請われて市会議員に(CV:日比野正裕)

    【Story〜「父の運動会〜食卓のバトンリレー/前編」】

    <娘8歳/父51歳>

    (SE〜運動会の音/歓声)

    娘: バトンを持った父が先頭集団を抜けて私の元へ走ってくる。

    汗をいっぱいかきながら、満面の笑みで私に手渡す。

    父: 「あとはたのんだぞ!がんばれ!」

    (BGM〜)

    娘: 運動会の親子リレー。

    44歳年が離れた父は、友達のお父さんと比べてもかなり目立っていた。

    出場するお父さんたちの中で多分一番年長。

    だけど、運動神経は誰にも負けていない。

    そんな私たちを見て、観覧席から母が一生懸命手を振る。

    8歳の私と51歳の父。

    あのときの父の姿は、記憶の中の宝物だ。

    <娘16歳/父59歳>

    (SE〜キッチンの音)

    娘: 父が会社からのリタイアを決めたのは、私が高校へ進学した年。

    朝早く私の弁当を作りながら

    若手へバトンを渡すんだと喜しそうに笑った。

    母は仕事で海外勤務となり、父と2人だけの生活。

    私はというと、中学から始めた陸上トラック競技に夢中だった。

    朝練から放課後の部活まで、走っている時間が一日のうち一番長い。

    父: 「今度のリレーはアンカーなんだって?」

    娘: 「うん」

    父: 「じゃあ、食事も気をつけないとな。パンをやめてご飯にするか。

    炭水化物が重要なんだろう」

    娘: 「それは長距離走でしょ。私は短距離。

    スプリンターだから今まで通り、パンにヨーグルト、グラノーラでいいよ」

    父: 「そうか。お父さん、会社やめたら時間がいっぱいできるから一緒に朝走るかな」

    娘: 「やめてよ。年を考えて。

    それにさ、毎日私に付き合ってこんな朝早くに起きなくていいから」

    父: 「そんなことしたら、お前が栄養とれないじゃないか」

    娘: 「大丈夫よ。コンビニでも、カロリー考えて食べ物選ぶから」

    父: 「そうかあ、それなら明日から朝寝坊するかな・・・」

    娘: そう言いながら、きっと明日の朝もキッチンに立っているのだろう。

    私は食卓に並べられていく朝食を眺めながら父の後ろ姿を見つめる。

    父: 「そうだ、忘れていたけど、今日部活のあとで

    家具屋さんに付き合ってくれないか」

    娘: 「いいけど・・・、家具買うの?」

    父: 「実はな、海外にいるお母さんから、

    うちの食卓を送ってほしいって言われてるんだ」

    娘: 「なにそれ?

    ママが住んでるところ、家具つきのコンドミニアムじゃなかった?」

    父: 「どうも備え付けの食卓が気に入らないらしい」

    娘: 「そんなぁ」

    父: 「ああ、だから最初がまんしてたらしいんだけど、

    住んでるうちに、どうしてもこの食卓を送ってほしくなったんだって」

    娘: 「おんなじような食卓、海外のインテリアショップにもあるでしょ」

    父: 「この食卓じゃなきゃだめだそうだ」

    娘: 「えー大変だよ。送料だって馬鹿にならないじゃん」

    父: 「そりゃ、そうだけど」

    娘: 「でいつ送るの?」

    父: 「もし今日、新しい食卓を決めたら、入れ替わりにこれを送るよ」

    娘: 「えええええ!同じ食卓を買って送るんじゃないんだ」

    父: 「お母さんはいま使ってる食卓がいいんだってさ。

    お前やお父さんの温もりがしみこんでるからな」

    娘: 「やだ、温もりじゃなく、味噌汁やおかずをこぼした跡じゃない?」

    父: 「はは、そうかもな」

    娘: 「ママ、ホームシックになってるのかな」

    父: 「きっとそうだ」

    (SE〜インテリアショップの雑踏/娘は走りながら)

    娘: 「パパ、おまたせ」

    父: 「ああ、きたか」

    娘: 「いい食卓あった?」

    父: 「いいのはいっぱいあるけど、アンカーはお前だからな」

    娘: 「なぁにそれ?」

    父: 「これはね、食卓という温もりのバトンリレーなんだよ」

    娘: 「ぬくもりのバトン?」

    父: 「食卓は家族が集う場所だから、

    年月とともに家族の温もりがしみこんでいくだろ」

    娘: 「うん」

    父: 「お母さんは、きっとその温もりがほしいんだよ」

    娘: 「そう・・・」

    父: 「お前に選んでほしいのは、温もりをつなぐバトンなんだ」

    娘: 「バトン・・・」

    父: 「いままでうちで使ってた食卓は、家族3人で座るのにちょうどいい

    コンパクトなサイズだったから・・・」

    娘: 「まあこうしていろんな食卓をみると確かにコンパクトだったかな」

    父: 「今度は、いまより少しだけ大きな6人がけの食卓にしようか」

    娘: 「大きすぎない?」

    父: 「楕円の食卓にすれば部屋も広く感じるからな」

    娘: 「だってママ、しばらく海外から戻らないんだよ」

    父: 「いいんだ。いつ家族が増えたっていいようにしておかないと」

    娘: 「なあに言ってるの?私まだ16歳だって」

    父: 「ああ、そうだったな」

    父娘: (笑)

    娘: ぬくもりのリレー。

    それは8歳の私に父が渡してくれた笑顔のバトンから始まった。

    これからもずうっと、バトンを渡し続けていけますように。

    パパ、いつまでも元気でいてね。